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EP 4

 翌朝。

 ポポロ村に用意された客室のベッドで、坂上信長はパチリと目を覚ました。

「……信じられん。体が羽のように軽いわい」

 自身の両手を見つめ、信長は驚愕の息を漏らす。

 過酷なレンジャー訓練すら耐え抜いてきた彼の肉体だったが、未知の大陸への上陸作戦という極度の緊張は、確実に疲労を蓄積させていた。

 それが、昨晩リアンにご馳走になった『おでん』と、一晩の睡眠だけで、完全にリセットされている。それどころか、日本にいた時よりも活力が漲っていた。

(あの『陽薬草』とやら……もし自衛隊に導入できれば、野戦病院の概念がひっくり返るぞ)

 そんな自衛官としての生真面目な思考を巡らせていると、バンッ! と勢いよく木製のドアが開いた。

「た、隊長! 起きてますか!?」

「やかましいわ赤城。朝からなんじゃ」

「ちょっと外見てください! この村、やっぱり色々とおかしいです!」

 血相を変えた赤城に引っ張られるようにして、信長は村の広場へと出た。

 朝の澄んだ空気。のどかな田園風景。

 巨大な岩の角を持つロックバイソンが畑を耕し、鳥の鳴き声が聞こえる。

 一見すれば、絵に描いたような平和な異世界ファンタジーの光景だ。

「……平和なもんじゃの。何か問題でも――」

「あれを見てください! あの建物の看板!」

 赤城が指差した先。

 木造の平屋建ての建物の屋根に、原色バリバリの黄色と赤で塗られた見慣れたデザインの看板が掲げられていた。

『24時間営業ファミレス ルナミスキング(ポポロ村支店)』

「…………は?」

「ファ、ファミレスです! 異世界の辺境村に、ドリンクバー完備のファミレスがあります!」

「いや、待て待て。なんで地球のシステムがこんな所に……」

 混乱する信長の視線の先で、ルナキン(通称)の自動ドアが開き、昨晩遭遇した自警団リーダーの竜人・イグニスが出てきた。

 その手には、テイクアウト用のホットコーヒーが握られている。

『はい、お会計は銀貨3枚になります』

『ん。じゃあQRで』

 店員の声に対し、イグニスは懐から『黒い石板(魔導通信石)』を取り出し、レジ横の端末にかざした。

 ――ピポーン♪『ルナ・ペイ!』

「QR決済しとるぅぅぅ!?」

 ファンタジー世界の竜人が、スマホもどきで電子マネー決済を済ませている。

 信長の脳内で、常識という名の城壁が音を立てて崩れ落ちた。

「隊長、それだけじゃありません! あそこの納屋を見てください!」

 赤城に言われて視線を移すと、村の若者が納屋の掃除をしていた。

 そこには、昨晩自警団が装備していた『魔導ライフル』が無造作に立てかけられているだけでなく――。

「あれ、構造的にどう見ても『長距離自爆ドローン』です! しかも、あっちの丘の上に擬装されてるの、レーダー連動型の『対空魔砲』じゃないですか!? なんだこの村、そこらの中東のテロリスト拠点よりガチガチの防空網敷いてますよ!」

 自衛隊きっての資格マニアであり、工兵・兵站の知識に明るい赤城が、泡を食ったように解説する。

 のどかな田園風景に偽装された、最先端の魔導兵器群。

 そして、QR決済が普及する謎の近代経済圏。

 この『ポポロ村』は、ただの田舎村などではない。国家レベルの軍事力を持った要塞だ。

(……親父。オドレの息子は今、とんでもない地獄……いや、カオスに放り込まれとるわ)

 信長が遠い目をしていると、足元を猛スピードで「何か」が駆け抜けていった。

「ギャァァァァァァァッ!!」

「あ、こら! 待て! 今日のサラダにするんだから逃げるな!」

 人間の赤子のような悲鳴を上げながら二本足で爆走する『人参(人参マンドラ)』を、エプロン姿のリアンが必死に追いかけている。

「……」

「……隊長。俺、もう何に驚けばいいのか分かりません」

 超近代的な兵器とQR決済。

 そして、命乞いをしながら走るファンタジー植物。

 論理と非論理がごった煮になったこの世界で、日本国自衛隊のエリートたちは、ただ静かに思考を放棄するのだった。

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