061話 猫屋敷先輩からのご相談
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鍵も返し終えたので、帰ろうと思い校門へ。
みんな先に帰ったので、今日は1人で帰ることになる。
サッカー部に入ってからはいつも賑やかな放課後を過ごしていたので、静かな下校時間は珍しい。
昨日から考え事が多くて、思考する体力も底を尽き掛けていた。
偶には、何も考えずに1人で呑気に帰るのも悪くない。
鞄の中に閉まったワイヤレスイヤホンを取り出して、耳に付けた。
何の音楽を聞こうかと携帯を開いて、画面をスクロールする。
アプリに入っている曲は全部自分が好きなものなんだけど、今の状況にピッタリと合う、そんな一曲を頭が求めていた。
あれかこれかと模索していると、まだ音の流れていないイヤホンの向こう側から俺を呼ぶ声が微かに聞こえる。
本当に俺が呼ばれたのかも怪しくなって、イヤホンを取って周囲を見渡すも誰もいない。
やはり気のせいだったのかと思い、歩き出すとまた小さな声で俺を呼ぶ声が。
今度は素早く声が聞こえる方向へ振り向く。
チラッと見えた人影。
門柱から見える紫色の丸々としたお団子。
さっきまで、近くで見ていたこの髪を見間違えるはずがなかった。
「そこで何をされてるんですか? 猫屋敷先輩」
「うぇっ、あっ、あ、あははー。奇遇だね、朝花さん」
名指しまでされてしまったら、知らぬ存ぜぬと貫き通す訳にもいかず、観念してゆっくりと姿を現す。
顔は真っ赤で俯き加減。
口に出して笑っては見せるも、余計空回っている印象を受ける。
「もしかして、私に何か用だったりしますか?」
鍵を返してから帰ると知っていたのだから、待っていれば確実に俺に会える。
だから、1人で校門に立っていた。
何故かは考えても分からない。
同じ部活ではあるけれど、まともに話し始めたのは今日が初。
しかも、大勢いる中だったので、1対1はここが初めてだ。
それで考えが当てられるなら、占い師を生業にした方が良い。
「後輩の朝花さんに相談するのもあれかなぁーって思うんだけど。うーん、……いや、やっぱり無し! 無しでお願いします!」
「後輩とか関係なく相談してもらって良いですよ。なんなら、今からカフェとかでゆっくりお話し伺いましょうか?」
「ちょっと長くなるかも知れないから、そうしてもらえると助かります。カフェなら学校から近い店を知ってるので、そこにしま……しよう」
猫屋敷先輩の先導で、カフェへと移動する。
それまでの間、沈黙が気まずい。
気の利いたことの1つでも言えるユーモアが、俺にあれば。
なんて反省を今更したところで何の意味もない。
黙って、顔色1つ変えずに半歩後ろを歩く。
ポイントとしては、横並びにならないようすること。
猫屋敷先輩のことだから、俺が視界の端に映れば2人で歩いていたことを思い出して、中身のない浅い質問を捻り出すはず。
そうなれば、もう地獄。
興味のない答えを、さも興味ある風に装ってオーバーリアクションするのは目に見えている。
そして、こちらも良かれと思って話を広げてみるも、大した会話にならず気まずい空気へ。
実体験のある俺が言うんだから間違いない。
猫屋敷先輩は、カフェへ向かう事に集中してもらおう。
そっちの方がお互いの為になる。
「着いた。ここだよ、ここ」
木目調の外装が落ち着いた温かさを感じさせるおしゃれなカフェ。
中をこっそり覗くと、どっかの喫茶店とは大違いの賑わい様だった。
店員も見るからに陽キャのお兄さん、お姉さん。
客層は放課後ということもあって、女子高生が多い。
「なんかすごいオシャレですね」
「お、思ってたより人が多い。もっと人が少ないのかと思ってた」
俺よりも隣で足がすくんでいる猫屋敷先輩。
中の様子をもう一度見て、2人揃って入るのを躊躇う。
「どうしますか? 私は他の場所でも大丈夫ですけど」
「……ううん、大丈夫。ここにしようか。後輩に気を遣わせる訳にもいかないし」
入店と同時に笑顔で接客へ入る陽キャ大学生(推定)女子。
人数の確認を済ませると、爽やかな笑顔で席まで案内をされる。
上座、下座の概念を、一瞬頭に思い浮かべて見て座る場所を探ったが、ふと自分の身分が学生であることを思い出して適当に着席。
ちなみに、転生する前も無職ではあったので、使う場面は一切なかったけど。
「ご注文お決まりになりましたらお呼びください!」
「あ、ちょっと待ってください。先輩もアイスコーヒーで良いですよね?」
「うん、それで大丈夫」
「アイスコーヒー2つで」
「アイスコーヒー2つですねー。かしこまりました」
飲食を楽しむのがメインではなく、話をすることがメインなので注文はさっと済ませる。
アイスコーヒーが届くまでに、さわりだけでも聞いておくつもりだったが、用意するのが簡単らしくすぐに提供された。
カランと氷がコップに当たる音。
店内のBGMが鮮明に耳へ残る。
俯いたままの猫屋敷先輩。
じっと見つめて喋り始めるのを待つも、状況が変わらない。
「で、お話というのは?」
「あの……そのことなんだけどね。ちょっとご相談というか。僕、こんな感じでネガティブというか、自分に自信がないんだよ」
何となく存じ上げておりますとは、口が裂けても言えない。
「昨日の試合、もっと点数を抑えたらって考えてしまって。強くなりたい、でも、何も思い付かない。……だから、何か良い案があればなぁーって思って」
言いたいことが言えてまずは一安心したらしく、アイスコーヒーに口を付ける。
こちらも用件は理解した。
部長代理1発目の仕事は、先輩からのお悩み相談。
俺好みの内容じゃないか。
選手育成なんて得意領域なんだから。
心の中で大袈裟に腕捲り。
必ず力になると誓って、分析を使用した。
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