桃香・2
華やかな妹の周囲には常に人が集まり、羽立野家でもお茶会やお花見など様々催してきた。
ただそういった華やかな場に、三葉が同席を許されたことはない。表向きは「病で伏せっている」とされ、厨で女中達に見張られながら料理の準備をさせられていた。
独自の情報網で羽立野家で三葉の置かれた立場を知った歌子以外には、単に三葉は「病弱で社交の苦手な長女」としか思われていない。
三葉としてもこれまでは自分が「妾の子」だと信じて疑っていなかったので、空気のような扱いにも耐えてきた。誰かに助けを求めるなんておこがましいとさえ思い、父と継母に感謝さえしていたのだ。
けれど……。
全てを知ってしまった今、これまでのような耐え忍ぶ生き方などとても受け入れられない。
かといって、これからどうするべきかも分からない。本当の両親を追い詰めた彼らが憎いと弘城や吹雪に訴えれば、相応の罰を与えてくれるだろう。
憎くないと言えば嘘になる。でも、他人の手を借りて仕返しをする、という決断もできない。
(敵なのに……)
「思い詰めるな、三葉」
「吹雪……」
帯の間に挟まっていた陶器の狐が囁く。
「ご両親のことは残念に思っている。助けることができなかったのは、俺を含め奉られていた狐たちの責任でもあるからな」
「お狐様達だって、被害者でしょう」
神排というよく分からない思想に叔父達が取り込まれたりしなければ、ここまで酷い事にはならなかった。
甲高い笑い声が中庭から響き渡り何ごとかと視線を向ければ、桃香とその取り巻きが大きな声を上げてはしゃいでいた。最近流行っている海外の俳優写真を並べ、どの殿方が良いかなどと品定めをする会話まで聞こえてくる。
(あの騒動が嘘みたい)
ホテルには桃香もいて、明興の横に立つ彩愛へ羨望の眼差しを向けていた。まるで尊い神仏でも前にしたかのような表情に三葉は違和感を覚えた。
今の桃香は三葉のよく知る桃香だ。
通りかかった生徒も桃香達を見ており、その殆どは良家の娘らしからぬ下品な振る舞いに眉を顰めている。
今までの三葉ならそそくさとその場を立ち去っていたけれど、今はどこか冷静に桃香を見ていた。
「吹雪。私……あの人達のことを怒っているのか、呆れているのか……よく分からないの。お父さんやお母さんの事を考えたら、憎い相手だわ。でも……お母さんはどんな時も、憎しみに囚われたらいけないって言ってたの」
母は決して羽立野家の話をしなかったし、辛いことがあっても誰かを責めたり恨むこともしなかった。
「嫌な事をされたら怒るべきだし、時には逃げることも必要だって教えてくれた。でも、負の感情を心に留まらせたらいけないって。だからあの人達を憎みたくないって思うのだけど」
屈託なく笑う桃香を見ていると、複雑な感情がどうしてもこみ上げてくる。
「――お前は長い間、感情を押し殺して生きてきた。感情を抑え込んでいた蓋が突然開けられてしまったのだから混乱するのも無理はない。三葉、感情は一つではない。今はゆっくり考えるべきだ」




