ゾンビはレベルが上がった! Lv3to Lv4
8 ゾンビはレベルが上がった! Lv3 → Lv4
全てを見ていた女は微笑んだ。
「いい隠れ蓑になったわね。メンドーサ。」
女は紳士服に着替える。彼女にとって修道服は特別なの物なので、少しの間でも肌身から話すのは惜しいのだが、それも仕方がないと割り切る。白い肌を外気に晒し、ぶかぶかのスーツを着こんだ後、その姿は立派な中年男性に様変わりしていた。コートを着込み、洒落た帽子を被り、ステッキを持って、何もかもが終わった後の町へと繰り出す。彼女にとってこの町は用済みだった。ワイトマスターが現れた以上、この町にいるのは危険であるし、十分に楽しんだ。
町を出る前にすれ違ったのは一人の女だけだった。
「ミントの匂い?」
その女は顔をしかめた。中年男がミントの香水を使うなんて趣味が悪い。吐き気がする。その女のなりはひどいものだった。服は燃えてしまったのか所々焦げている。肌も、なんとか見えてはいけない場所を隠している程度。欲情した男に襲われてしまってはひとたまりもないだろう。
「ほら、早く歩け。」
「ブヒィィィ。」
女は鎖でつないで犬のように扱っている男のケツを蹴り飛ばす。男は獣のような声を上げることしか女に許されてはいなかった。
あなたの頭はどこにある
ころころころころ転がって
ころころころころどこにある
私の嫌いなおにいちゃん
ワイトの耳に不吉な歌が聞こえる。首だけになったワイトはただ死にゆくのみだった。ワイト最強の男に粛清された彼はもうワイトとして生きることはできない。
「頭、みぃつけた。」
焼け焦げた服を着た女が目の前に現れた。大きな荷物を引きずっている。その荷物はバックか何かだとワイトは思ったが、よく見ると首のない死体だった。何故、と女が何者であるのか考える暇もなく、ワイトの頭は女に抱え上げられた。
「みんな無事か?」
くたびれた様子でラシアが帰ってきた。
「ラシア。俺の体を治してくれ。」
俺はラシアを見るなり言った。
「アンタ、鈍感やなあ。自分の体をよう見てみ?」
言われるまで気がつかなかった。いつの間にかレベルアップしていたようだった。きっと男を眺めている間にレベルアップしたのだろう。それほどまでに心奪われる瞬間だったのか。
「女子さんは?」
「まだ降りてこない。」
「なにしとんやろ。今までウチらにしてきたことが恥ずかしくって顔を合わせられんのやろうか。」
「誰が恥ずかしがっているって?」
夜に響き渡る声。堂々とした様子で女は俺たちに歩み寄ってくる。
「おつかれさん。」
ラシアは女に声をかける。女は目を合わせようとしない。俺も女を直視できない。
「なんや、アンタら。ウチがおらんあいだになにが起こったん?」
ラシアの言葉など耳に入ってこない。俺は女の告白がまだ耳に残っている。だが、それも結局は建前で、俺は女に告白する勇気をすっかり無くしてしまっていた。
「私に言うことがあるのだろう?」
俺は大きく深呼吸する。意を決して女を見る。そして、告げる。
「俺の名は――」
「私の名は・・・ラテ・・・だ。」
顔を赤らめて、しかし、目を合わせず、そして、ラテは勝ち誇ったような表情をしていた。
「お前に負けるのも癪だ。」
なんだ、年相応に子どもっぽいじゃないか。俺は少し安心した。緊張は解けた。
「俺の名は――」