ベイルくんと不死の軍
9 ベイルくんと不死の軍
「俺の名は矮人だ。矮小な人と書いて、矮人。」
「ワイト?」
俺は驚いてしまう。目の前の鎧男の名前は矮人で、こいつはゾンビで、それで・・・
「その後はどうなったんだ?」
さらに一悶着あったであろうことは用意に想像がつく。続きが気になる。
「まさか、信じるとはな。」
矮人は驚いていた。表情は鎧に隠されて見えないものの、口調から、笑っている風に読み取れる。
「ま、続きはお互い生き残ってからさ。」
その言葉で俺は現実に戻ってくる。今は不死の軍が攻めてくる途中なのだ。
「不死の軍って、さっき話に出てきたシ骸なのか?」
「いいや。違うな。」
男は立ち上がった。外はすっかり暗くなっている。そのまま矮人は詰所を出て行こうとするので俺は急いでついていく。他の傭兵たちはもうすでに外に出て待機しているようだった。
「今の不死の軍はゾンビの集団さ。」
軽い口調で矮人が言うものだから、俺は軽く聞き流してしまうところだった。彼にとってその言葉は何を意味するのか――
「あなたは自分の同胞を殺すんですか。」
おずおずと聞く。
「まあ、そういうことになるな。」
怖くないのか、とか、胸が痛まないか、とか、聞きたいことはたくさんあった。しかし、それは矮人の抜いた剣に遮られる。
その剣は恐ろしいまでに美しかった。艶めかしい銀の輝き。人を殺してきたことがわかる、おぞましいまでの麗しさ。これが月下美人――
「自分がためらえば、死ぬ。奴らに心があるとか思ってはいけない。それは相手がゾンビだろうと人間だろうと変わりはしない。自分が生き残るには他人を犠牲にしなければならないんだ。」
矮人は自分の足で立っていた。ぶれることなく、堂々と。どうしてこの人はそれほどまでに強いのだろうか。
「俺は強くないさ。昔に比べたら弱くなった。」
俺の言葉を先取りするように矮人は答える。
「坊主みたいに誰かのことを案じられるような強さはなくなってしまった。誰かを殺すことにためらいがなくなった。だから、俺は戦っているんだ。生きるために誰かを殺さなくちゃいけない世界を変えるために。」
その姿は英雄と見間違うほどだった。だが、矮人は自分が英雄だとは思っていないだろう。
「あなたはこの国を救った張本人ではないですか。」
商業国ヤルダバオト。それは矮人の語った町のその後の姿である。
「いいや。この国を救ったのは俺じゃない。俺はあの後すぐに町を出た。ヤルダバオトを救ったのはその後の奴さ。」
地を揺るがす鳴動。不死の軍の進行が始まったのだ。俺は生きて帰れるか分からない。だから、俺は俺自身を矮人に託すことにした。
「矮人さん。俺の名は――」
「それは戦いが終わってからだ。坊主。だから、必ず生きて帰って来い。」
俺は必ず生きて帰ることにした。何があっても、必ず。俺は虫のいいことを考えていた。矮人に俺の人生を託そうとしていた。こんな人間がいたことを伝えてほしいと願い、矮人に名前を告げようとした。だが、それこそ間違っている。俺は矮人に自分の人生を、責任を背負わせようとしていたんだ。だから、矮人は俺をつっぱねた。俺もそれでよかったと感じている。俺は俺の人生を生きる。どんなことがあっても生き延びて、俺の人生を誰かに伝えるんだ。ゾンビになった人間がいたことも、不死の軍と戦ったことも全て。
「さあ、行くぞ!」
矮人は不死の軍めがけて進んでいった。




