四人の客
「何なんだよ、あのすました野郎は」
肩を怒らせ、一人冷たい風を頬に当てながら大通りを歩く翊鎖は、あの道場でまだ翊羽の説教を受ける永久を思って上がっていた肩を落とした。
「はぁぁ〜」
深いため息を吐きながら鶴霧達のいる店に辿り着いた。
「仁ちゃん!跨いでサボって!」
「うわ!」
店の敷居を跨ぐ前に鶴霧に首根っこを掴まれ、翊鎖はそのまま出入り口の所で正座をさせられ、また説教を受けた。
「もう、中には入れてあげませんからね」
「え、そんなぁ〜」
「じゃあ、これから毎日店のお手伝いするわね?」
「……」
「仁ちゃぁん?」
返事をしない翊鎖に、鶴霧の美しい怒った顔が近づく。
「分かったよ、やります。手伝わせてください!!」
やけくそのように言い放つと、鶴霧から渡された前掛けをつけて店の中の掃除からさせられた。
「ふぅ〜」
厨房との敷居戸にある椅子に腰を下ろした翊鎖は、まだ帰ってこない永久を思った。
「永久に何かしたら、僕怒るよ?」
「おわぁっ!!」
「ふふっ」
厨房から料理を受け渡す台の窓から顔を出す雷蔵の言葉に、翊鎖は椅子から転げ落ちそうになった。
嫌らしく笑む人懐っこい顔立ちの男は、その裏に潜む何かを見え隠れさせるような笑顔ばかりを翊鎖に向けることが多い。
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だけど」
「意味分んねぇ」
ふんっと鼻を鳴らした翊鎖は、雷蔵から離れるように店の手伝いに戻った。
「ただいま…」
雷蔵が厨房の仕事に追われて、また話しかけてこられない時を見計らった翊鎖は、敷居戸の椅子に腰掛けて休んでいると、裏口の戸から寒さで肌を赤くした永久が現れた。
「永久!!」
「市と呼べってば…」
「あら、市。帰ったのね?」
「あ、手伝います」
鶴霧の気迫立った笑みに、永久は感づいたようにすぐさま壁にひっかかっていた残りの前掛けを手にした。
「隠すのは鼻から下だけにしなさい。そっちの方が怪しまれないから」
そう言われた永久は頭の布を外して首元に収めると、鼻の方だけを残して、翊鎖と一緒に店の方に顔を出した。
「市、四番目のお座敷を片付けて!」
頷いて答えた永久は、左右が座敷に面した真ん中の通りを歩いて出入り口から見て左側すぐの客間に草履を脱いで上がると、座布団を周りに置いた卓の上にある食器や徳利を片付けていると、鶴霧がちょうど客人を連れて襖を開けた。
「市、大丈夫?」
重くなった盆を持ち上げて部屋の角に避けると、男達四人が座布団へと座った。
最初に入った男は肩幅が広く、頑丈そうな体に、男らしく勇ましい顔をしており、
次の男は、最初よりも細身だったが鋭い目と気の強そうな若者だった。
三番目はヒョロっこく、幼さを感じる顔に笑みを浮かべ、最後に入ってきたのはあの冬志という男だった。
「それでは、失礼致します」
お辞儀をして座敷から出ると、永久は調理場で食器などを水洗い場の中に浸した。
「市、四番目にお料理運んで」
「それは仁に!」
「お小遣い減らすわよ?」
「ぅ…」
隠している唇を尖らせながら、料理の乗った盆を座敷まで運び、卓の上に並べていると、幼い顔立ちの男が大柄な男に向かって言った。
「ここの御上さん綺麗ですね!」
「あぁ、さすが白河殿だ」
「いえ、私はただ暖かいものが食べたかったので」
何かを忍ばせているような笑みを浮かべ姿を気に食わなく思っていた永久は、穏やかに話す冬志に注意しながら観察していると、鋭い目付きの男と目があった。
「お前、何で白河殿ばっかり見てるんだ?」
「……」
その男の言葉に、話していた男達の会話が途切れ、永久に視線が集まった。
永久はただ小さく頭を下げて座敷から出ようとしたが、襖の近くにいた白河に手首を掴まれた。
「…君は、昼の?」
「……申し訳ございません。知り合いに似ていたものですから」
とっさの嘘で座敷を後にした永久は、鶴霧に頼んであの座敷の担当を変わって貰った。
「白河さんは良い人だよ。籐桐様からの通達で、ここ貝切に隊を築くそうで、その隊士たちを白河さんの道場で稽古しているそうなんだ」
「ふぅ〜ん…」
「……」
店仕舞いを終えて上の階でくつろいでた四人に、翊羽が冬志のことについてを話すと、歳下組が揃ってその話に食いついた。
「白河と一緒に店に来た三人も、その隊士なのか?」
「ぁあ、あの体の大きな人と、目付きの悪い人と、市達より年下っぽい可愛らしい子のこと?」
聞いていただけだった鶴霧も話に加わった。
「体の大きな人は多分、大道さんだと思う。大道 忍さん、局長になられる方だよ」
「じゃあ、他の二人は?」
「地方から引き抜いた人達じゃないかな」
聞いていた三人は納得すると、寝るまでの時間を思い思いに過ごした。
「永久?」
「いい加減にしろよ」
「分かってるよ、……あの白河とか他の奴ら、今まで戦った奴らより何倍も強いんじゃねぇか?」
「……ぁあ、比べ物にならないだろうな」
己の剣術より上を行く者が現れた。
いつもなら好奇心で煌めく目は、遠くを見ているような知らない目をしていた。
只今、小説の季節は冬でございます。
情景描写が下手くそで、分かりずらいと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。