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破壊する者  作者: 月本星夢
聖なる白き庭
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第六話

取り敢えず、イリーシアが目覚めるまで、リシェアオーガの、『生贄の巫女』関連する質問の返答は、保留となった。しかし、リシェアオーガの心に、ある疑問が残り、それを口にする。

「エルシア、もう一つ、最後に、聞いて良いか?」

「本当に、最後だな。」

念を押されて、頷くリシェアオーガに、良いだろうと、エルシアは承知した。

「イリーシアの事だが、何故(なにゆえ)に、体調を崩しているのだ?」

「その事か…。巫女の件で心を痛めて、食事を取れなくなってな。

で、力が弱くなり、起き上がれなくなった。だから、俺が力を分けているんだ。」

悲しそうに言う兄神(あにがみ)に、そうかと、納得するリシェアオーガ。 

巫女の事で心配が無くなったと思うから、大分(だいぶ)、良くなるだろうとも、エルシアは告げた。

力が弱くなっていると聞いて、リシェアオーガにある事を決意させた。その方法は著しく、リシェアオーガに負担を掛ける事では、あるのだが。

『我の事で、こうなってしまったのか…。まあ、何とか治す事が、出来るだろう。』

そう、あの【ルーペンゲイドでの出来事】を、リシェアオーガは自らの意思で、実行に移す決心をした。 



 彼等の雑談が終わった頃、イリーシアの居間の扉が叩かれた。

「イリーシア様、エルシア様。お客様に、お茶をお持ちしました。」

エルシアが扉を開けると、初老の神官が、お茶の乗った銀色のワゴンを押して入ってきた。

(あご)を覆う薄い金色の髭と、それと同じ色ではあるが、少々白い物が混じった髪を後ろで結んだ神官…彼を見たエルシアは、溜息を吐いた。

「ディールカ神官長…、何でお前が?」

「お言葉ですが、エルシア様。ルシェルド様とその聖騎士様、それに大神官様がいらっしゃるのに、他の者では示しが付きません。」

「…ディールカ殿、私は、そんな、大逸れた者ではございません。

今は…只の一神官です。」

神官長の言葉を受け、意を決したような言葉が、フェリスの口から出た。この事実を知らないのは、リシェアオーガ一人だけで、この様な形で知られた事を、フェリスは悔やんだ。

「オーガ、ごめん!」

突然謝ったアルフェルトに、言われた本人は驚いた。何に、謝られたのか判らず、きょとんとしている。

「アル?何謝ってんの?」

「えっ?あ…その、フェリス様が大神官だった事、教えてなくて、ごめん。」

「おや、聖騎士様は、ご存じなかったのですか?それは、申し訳ない事を致しました。」

フェリスに謝ったディールカだったが、彼は快く許した。リシェアオーガに知られたくはなかったが、こうなっては仕方が無かった。 

「アル…その事なら、色々話を聞いてる内に判ってたよ。

でも、フェリスが、言いたくなさそうだったから、確認はしなかったけど。」

リシェアオーガの言葉で、フェリスはほっとし、アルフェルトは、あれだけの事で推測できたのかと、感心していた。しかし、リシェアオーガの口調が、変わっている事に気付き、苦笑気味になる。

その事をリシェアオーガに注意すると、神官長は、改まった席では無いので、良いですよと言ってくれた。

彼等の遣り取りにも平然としているリシェアオーガに、こちらの神々の視線が集まっていた。コロコロと、口調と態度が変わる彼を、ルシェルドとエルシアは、面白そうに見ていたのだ。 

歴代の巫女で、これ程、様々な形で、変わった者はいなかった。

美しく聡明で、触れると壊れそうな者が多く、剣士はいた事にはいたが、こんなに活発で態度の大きい者は、目の前にいるリシェアオーガだけだった。

「皆様、お茶が入りましたよ。冷めないうちに、お召し上がり下さい。」

ディールカ神官長の掛け声で、お茶の時間が始まった。 

未だイリーシアは、眠ったままだった。



 


 お茶の時間が終わり、まだ眠り続けているイリーシアを待つ間、街を出歩く事にした。

人員はリシェアオーガとアルフェルト、フェリスの3人で、エルシアからは、ルシェルドも行けば?と勧められたが、自分が行くと悪目立ちすると言う理由で、断られた。

確かに、彼は目立ち過ぎる。黒を好んで着るし、その身長と憂いを帯びた顔…美形に類に入るそれは、神々しさもあって、目を引くものだった。

加えて、その身に纏う、近付き(がた)い雰囲気──高圧的でも無いが、親しみを持てるものでも無い──が、より一層人目を引いた。

そんな訳で、神官&神官騎士&聖騎士御一行の出来上がり~なのだが、如何せんこの面々…普段の姿では目立つので、一般市民の格好をする事になった。



「…女装は嫌だ…。」

用意された衣装に何故か、女物の服が紛れていた。寸法からして、誰が着るか一目瞭然だったが、着る本人・リシェアオーガが、駄目出しをした。

「似合いそうなのに…残念だな~。」

「動き(にく)くなるから、い・や・だ!!」

「僕としては、野郎3人組は、嫌だな。」

かくして、リシェアオーガとアルフェルトの、言い合い合戦が始まったが、他の者達は、生暖かく見守っていた。何とまあ、仄々(ほのぼの)とした遣り取りだな~と、エルシアは思った。

「オーガ様、これでしたら、動き易いですよ。」

助け舟宜しく、フェリスが差し出したのは、少女用の旅の服だった。

町娘とは違って、短いスカート──いや、ベージュの、長めの丈の上着か?──その下に、赤茶色のズボンという服装であった。

「でも、それじゃあ、武器が仕込めないよ。こっちがいいよ。」

と、アルフェルトの差し出すのは、町娘の服……。

足首までの紅色(べにいろ)のスカートと薄桃色のブラウス、スカートと同色のコルセットの様な幅広の帯と、上着付きの可愛らしい服だった。

武器が仕込めるという点で、リシェアオーガは悩んだ。その横で、じゃあ、此方にしましょうかと、フェリスが、アルフェルトの示した服を用意し始める。

それに気が付いたエルシアが、口を挟んだ。

「おい…神官。着る本人が悩んでいるのに、さっさと決めて良いのか?」

「大丈夫ですよ。悩んでる事は、決め兼ねてる事でもありますし、武器が隠せる方がオーガ様には、何かと都合が良い事なので。

さあ、オーガ様、あちらの部屋で、御着替えを御願いします。」

「…こっちの方が、いざと言う時に、敵の油断も出るか…。フェリス?ここで良いのでは…」

「此処ではいけません。女性の支度ですから、あちらで。あ…間違っても、覗かれない様に。」

アルフェルト以下、男性軍に釘をさす事を忘れない、フェリスだった。

部屋を移動際に、胸があった方が見栄えがするよ~と、アルフェルトが忠告してきた。

手渡された服を見ると、確かにその通りだった。 

ここは自前で行くか、詰め物をするか…とリシェアオーガは悩んだ。

で、結局自前と、詰め物にした。

全部自前でも良かったが、ばれた時、言い訳が出来る様にする為だった。

 



 リシェアオーガが着替え終わって、部屋に戻ると、フェリス達の方も着替え終わっていた。

アルフェルトは、極一般の剣士の格好で、フェリスは、町中の一般市民が着ているような服装で、髪も金髪に色を変えてあった。 

そこにリシェアオーガが加わると、≪裕福な家庭の兄弟を保護する、剣士の図≫が、出来上がる。

如何せん、リシェアオーガの美貌とフェリスの柔らかな物腰で、如何足掻いても、一般市民に見えなかったのだ。敢えて言うなら、お忍びの貴族の様であった。

まあ、神殿からの外出なので、そう取られても良かった。何故なら、神殿に貴族とか王族が泊まることがある為、それで誤魔化すという方法を取る心算でもあった。



「やっぱり、似合ってるよ♪可愛いし、綺麗だ♪」

「ふ~ん、馬子にも衣装だな。」

「…似合ってる…。」

「良く、御似合いですよ。」

4人4様の褒め言葉(?)で迎えられたリシェアオーガは、複雑そうな顔をした。向こうの世界なら喜んでいる所だが、今は男の扱いでここに来ている為、素直に喜ぶ事を避けた。

そんな折、何時の間にか、リシェアオーガの後ろに来たフェリスが、彼──今は彼女──の髪を結い直していた。

普段通り、大きな一本の三つ編みを、緩やかに背に垂らしているのだが、今は首の後ろで、大きめの薄桃色のリボンをつけ、少し固めに三つ編みをされた。

「…リボン?」

後ろに重みを感じた、リシェアオーガは、フェリスに問った。

「はい。いざとなったら、これも武器になる仕組みですが…この方が、御似合いだと思いまして。」

「済まない。有難う。」

素直にお礼を言うリシェアオーガに、フェリスは、にこやかに微笑み、御役に立てて嬉しいと答えた。

その遣り取りを見ていたルシェルドは、何故かムッとし、彼等から目を逸らした。そんな様子をエルシアは気付き、薄ら意地悪な微笑みを浮かべていた。

「これ、可笑しくないか?」

と、急に間近で、リシェアオーガの声が聞こえたルシェルドは、驚いて振り向いた。

目の前には、リボンを付けたリシェアオーガがいた。如何やら、着けられた物の評価を聞きたかったらしい。

一瞬、声が詰まったルシェルドだったが、リシェアオーガの態度に、少し微笑んで答えていた。

「似合っている。何処から見ても、女性に見える。」

「確かに、黙って立っていりゃあな。」

エルシアが余計な事を付け足すが、リシェアオーガは嫌な顔をする処か、笑って返答した。

「口調や、仕草なら大丈夫。心配には、及びませんわ。」

女性らしい高めの声が、リシェアオーガから発せられ、仕草も変わっている。驚いたエルシアとルシェルド。アルフェルトは、もう諦めの極致で、驚くのを止めていた。

その様子を見て、フェリスは、クスクスと笑いながら、リシェアオーガとアルフェルトを促した。

「そろそろ、外に出かけましょうか。早くしないと、御店も閉まってしまいますから。」

こうして、神官一行(?)は、イリューシカの街に繰り出して、行ったのだった。

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