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 えいが

映画『ローズマリーの約束』はこんな内容であった。



 花屋の娘で高校生の摩耶まやは、同じ高校に通うれんに恋をしていた。蓮は学業優秀でスポーツも万能、なおかつ端麗な容姿で多くの女子から人気を集めていた。内気な性格の摩耶は彼に話しかけることもできす、遠くから眺めていることしかできない。恋の苦しみを和らげるのは大好きな花、ローズマリーだけ。だが摩耶はついに一大決心をする、告白すると決めたのだ。ローズマリーの花言葉は『思い出』や『記憶』、もし仮に失敗しても花言葉にあるように、大切な思い出として心に残ると思った。――放課後彼を呼び出し、体育館裏で告白すると、なんと相思相愛、告白は成功。それから幸せな日々が流れるが長くは続かなかった。彼は両親の仕事の都合で遠くに引越してしまうという。摩耶は悲しくて涙が止まらなかったが心を整理して、一番大好きなローズマリーの花を手渡しさよならを言った。花言葉にあるようにお互いの大切な『思い出』『記憶』にしたいという気持ちを摩耶は込めていたが彼はこう言った。「心に留めているだけでなく、いつかまた再会しよう」。摩耶は涙いっぱいの笑顔を浮かべ「うん」と頷き、ローズマリーの約束はされた――。



「さすが話題になるだけあって、面白い映画だったね」


 本当は1ミリもそんなことは思っていない。映画に対して確かに興味はあったが、はやりラブロマンスは見ていて背中がかゆくなる。クサい設定にクサい台詞せりふ


「涙が止まりませんでした……」


 風原さんは主人公・摩耶に感情移入しすぎてぽろぽろと涙をこぼしている。一方、天王寺さんは不機嫌なのか仏頂面を浮かべている。彼女はいつもこうだから本心は分からないが……。


「摩耶ちゃんがローズマリーの花を渡す最後のシーンがもう本当につらくてつらくて……。花言葉にあるように、ふたりの『思い出』『記憶』にはちゃんと残ったのでしょうか」


 風原さんがあまりにも寂しそうな顔を浮かべているので僕はフォローの言葉を入れる。


「ローズマリーには『追憶』っていう花言葉もあるんだよ。だから蓮くんもローズマリーを見かけるたびに、楽しかった日々を思いだすんじゃないかな」

「ふたりはまた逢えるのでしょうか……」

「きっと逢えるよ」


 その言葉でさらにスイッチが入ったのか、風原さんはすすり声まで発した。またその声は彼女だけでなく、映画館中にいる女子たちの声と混じりあい、より大きく聞こえた。


「まだまだ青いのね、ふたりは。そんな甘い結末じゃないのよ」


 無表情だった天王寺さんがついに口を開く。風原さんは「どういうこと?」といった不思議そうな表情を浮かべている。


「さっき君はローズマリーの花言葉『追憶』を挙げたけれども、もうひとつあるのはご存知かしら?」


 随分昔に読んだ花図鑑の記憶を引っ張りだす。


「静かな力強さ……?」

「そう」


 天王寺さんは腕を前で組んで更に続けた。


「『ひとりでも生きていける』という暗喩が含まれているのよ。いえ、むしろ『ひとりで生きていかなければならない』と言った方が正しいかしら」

「ふたりは再会を誓ったのに?」


 僕は素朴な疑問をぶつける。


「「いつかまた」なんて甘い事言う男に誓いなんて果たせないわ。結局『思い出』という宝箱を作って、ふたりはただ綺麗なまま終わらせたかったのよ」

「言われてみればそうかも……。逢いたい気持ちがもっと強ければ、そんなあいまいなこと言わないかも……。そっかぁ、そんな内容の映画だったんだ」


 風原さんの涙は止まり、先ほどまでの感動はすっ飛んでいったようだ。


「つまり、ローズマリーの花は決別のしるしだったのよ。映画のシーンを真に受けるなんて、君もまだまだね」

「う、うぐぅ……」


 声にならない声が思わず飛び出る。つまらない映画だと思って思考停止させてみていたせいか、いや、全神経集中させたところで同じ結論を出していただろう。


「思い込みの激しい君の”らしさ”が出た瞬間だったわね」


 反論できない。文面通りに受け取るクセは直したいものだ……。

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