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 かぜはらさん

 築どれくらいだろうか、40年は軽く過ぎていると思う。足を踏み出せは床はきしみ、いまにも抜け落ちそうな感じだ。1階まで到着すると、自分の部屋真下のお宅へ歩を進めた。インターホンなど無論ない。薄いベニヤ板のような玄関を叩いて応答を呼びかけた。


「ごめんくださーい」


「はーい」すかさず透き通った声が返ってきた。玄関が開くと見えたのは、黒髪で長く、側頭部で結ってある。いわゆるツインテールと呼ばれている髪型だ。背は低く、まん丸のどんぐり眼をくりくりとさせ見上げてくる。唇はやや薄い。これから外出でもしようとしていたのか、ひらひらとしたスカートに、レースをあしらったトップス、外行きの格好であった。


「こんにちは! 上に引っ越してきた大和といいます。よろしくお願いします!」

「は、はい、私は風原かぜはら美月みつきです。よろしくお願いいたしますね」


 彼女はにこっと微笑んで答えてくれた。よかった、鬼のような全身刺青の筋肉男子でなくて。それどころか天使のような雰囲気さえ醸している。


「えぇと、大和さん? でしたっけ。お年はどれくらいなのでしょうか。私と同じくらいに思えるのですが……」

「15歳です。来週からすぐそこの涼宮すずみや高校に通うことになってます」

「だったら私と同じですね」


 彼女は柔らかな表情を浮かべ、とてもフレンドリーに応対してくれた。


「奇遇だなぁ、早くも友達ができたみたいで嬉しいよ」


 天王寺さんにはできなかったフレンドリーな対応が今できた。我ながら成長したと思った。


「もしお時間があるようでしたら、中でお茶でもいかがですか? いま私のお友達もきているのできっと楽しいと思います」

「格好を見る限りどこか出かけようとしていたんじゃないの? 風原さんこそ大丈夫なの?」

「えぇ、今日はお友達を招く予定だったので、少しだけ綺麗な格好をしているだけですから」


 風原さんは玄関を大きく開けて、僕を招き入れようとした。しかし僕は冷静な気持ちでいられるだろうか。かわいいだけじゃなく、天王寺さんと違ってとても丁寧そうな女子だ。しかも同じ高校に通うことになってる、これは運命と言えるんじゃないだろうか。


「どうかされましたか?」


 彼女は首をかしげ、さらにどんぐり眼をくりくりさせ見上げてくる。


「いや……少し考え事を……。じゃあ少しだけあがらせてもらいます」

「美味しい紅茶とお菓子がありますので――」


 風原さんの言葉にかぶせるように、鋭い言葉の矢が飛んできた。


「――気をつけて、その男は危険よ」


 その声は彼女の後ろの方から飛んできた。聞き覚えのある声だ。忘れる訳がない。思いを巡らす。

 ――天王寺さんがいる。

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