序章 夏休みのはじまり
ご覧いただきありがとうございます、ポメロです。この作品は愛をテーマにした小説です。
暴力や性的な描写は一切ございません。
[フィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません]それでは、お楽しみいただければ幸いです
夢、そう、これは夢だ。そう思った。いや、そうでなくてはならないのだ。だって、これは、あり得るはずのない記憶だからだ。
だれかが僕に、手を差し伸べる。その手は確かに、僕の心に、温もりを与えた。
だれかが僕に、唄を歌った。その唄はどこか懐かしく、僕の魂に、勇気を刻んだ。
ありがとう、君のおかげで、ぼくは………
―――――――だからぼくは、■■■を、とりもどせたんだ――――――
この晩、寄島未織は―――世界を歪めた―――
「……暑い」
ちょうどの頭上にある太陽が、ギラギラと辺り一帯を灼いている。
これは早く涼んだほうが良さそうだ。そう思い、早足で、目前の小山へとつながる一本道を、ズンズンと抜けていく。
「しかし、綺麗だな」
そう言って、辺りを見回す。両脇には、胸のあたりまで伸びている稲が、青々と美しく輝き、風に揺られている。そして、これまで登ってきた道を見下ろすと、果てのない蒼が広がっている。太陽から押し付けられた光を、一つひとつの波が、抱きしめてはそっと手放し、また次の波へと受け渡していく。
それは、どんな形容詞でも陳腐に思えてしまうほど、夏だった。
寄島未織は、この夏にここ、藤坂村に越してきた。父親が脱サラして農業をやりたいと言って聞かなかったので、母と二人で、渋々ついていく他なかったのである。
さらに、村での未織の家は最寄りのバス停から、徒歩で1時間かけてやっとの、山の麓にあった。
「まったく、なぜこんなに歩かなければならんのだ……」
この村に先に来て、家や荷物の整理を行っていた両親から、携帯に送られてきた地図を見る。
あまりの不便さに辟易する。
が……
「意外と悪くない、フフフ」
波が砂浜を打ち付け、折りたたまれる音が一定の時を刻む。うみねこたちの、村全体に語りかけるような合唱。無数に広がる稲田と、その隙間を縫うように走る小川が織りなす協和音。
まだ見ぬ冒険に思いを馳せ、歩き続ける。なんとも言えぬ期待が肺を満たした。そんな時だった。
「……け…ぇ、、た……け…ぇぇ」
そんな音が未織の鼓膜をかすかに揺らす。
「ん?今、なにか聞こえたような……」
前方、道。左右、田んぼ。後方、道。異常なし。
「うん、気のせいだな」
そうして道を駆け抜けると、視界の端に、2本の棒状のものが掠めた。
―――まぁ、気のせいだろう。勘違い、錯覚、聞き間違い。うんうん、―――
そう自己暗示し、歩調を速める。
しかし、それは水の泡に終わった。
「ちょっと、待ちなさいよ!さっきから声かけてるでしょうがぁぁぁぁああ!」
棒がしゃべったと驚き、振り返る。
………足だ………は?……足が人語をしゃべった、、、だと?
ふと我に返る。そんなはずはない。人だ。
「ええと、何してるの、そんなとこで……もしかして、不審者……?」
おずおずとその女に声をかける。
「不審者ちゃうわ!誰が好きで、用水路に頭突っ込んで、逆立ちなんてしてんのよ!」
未織はその日、―――長い、長い、旅がはじまった―――
なぜだかわからないけど、そう、思った。
なぜこんな状況になっているのか、未織自身にもわからなかった。素麺をいっぱいに詰め込み、喉をつまらせている少女。
未織は自身のめんつゆの入った茶碗に目をおとし、諦めたように言った。
「君、なんで人の家で昼飯食べてんの?」
「おなかすいてたから……」
単純明快な解答だった。
少女はもの言いたげに未織を見つめる。
「あと、まどか」
「えっと……あ、、名前?」
「うん、あたし、瞬道まどかっていうの。眩しいに、華で、眩華。よろしく!」
眼の前の少女、瞬道眩華はそう名乗った。
よろしくされてしまった。達人の如き間合いの詰め方にたじろいでいると、後方からの気配の主が食卓に影をひろげる。
「へぇ、おしゃれな名前じゃないのぉ。眩華ちゃん、未織と仲良くしてあげてねぇ。」
振り向くと、この家の支配者がエプロン姿で立っていた。
「やめてよ、母さん。僕もいつまでも子どもじゃないんだ、恥ずかしい。」
未織の母、寄島みなみだ。
「はじめまして、寄島みなみです。息子だけじゃなくて、私とも仲良くしてくれたらありがたいな」
刹那、眩華の顔にかすかな疑問符が浮かんだのを未織は見逃さなかった。
「はい!よろしくお願いします、みなみさん!……ところで、寄島って、あの寄島……ですか?」
あの寄島とは、どの寄島のことだろうか。
未織は、眩華がなにを言いたいのか、皆目検討もつかなかった。
「ええ、そうねぇ。あなたが想像している通りだと思うわよ」
「ちょっと待てよ。さっきから一体、なにを言ってるんだよ。」
未織は、自分だけが理解できない会話にたまらず、声をあげた。
「はぁ?あんた、なにも知らずここに来たの?寄島っていったら、この村の権力者のお家じゃない」
「あっ、そういえば、未織には説明してなかった……かも?実はね、この村は私のふるさとなのよぉ」
ウフフ、と、なんてことのないように微笑む自らの母を尻目に、未織は大きなため息を漏らす。
かすかな怒りを押し殺そうと震える未織とは対象的に、眩華は元気よく素麺を頬張っている。
「それじゃ、これからよろしく、寄島未織くん!」
その後、満腹になった彼女はそういって、来た道を駆け戻っていった。
オレンジ色の海は、空との境界を失い、どこか寂しげで、懐かしく見えた。もう、うみねこの歌は聞こえない。代わりに、すずむしの音が赤く染められた世界にカラカラと響く。こうして、夏の新しい一日が終わった。
その晩未織は夢を見た。どんな夢だったか、目が覚めると同時に、その形はおぼろげになる。そして、次第にほろほろと崩れ落ちていくのを感じる。なにか大切なものが、失われてしまうような。
しかし、胸には確かな温もりを感じた。その正体はやはりわからない。が、心地よい。そのことさえも、段々と世界に溶け出し、薄れ、無に帰ってしまった。未織はそんな感覚を覚えた。
こうして未織は新たな一日を迎えた。
みなさん、こんにちは、はじめまして。ポメロです。もちろん偽名です笑。
ずっと前から小説を書きたいと思っていたんですけど、何から始めれば良いのやら……、といった具合で手を出せずにいました。が、とうとう重い腰をあげ、本格的に執筆開始じゃ!
ということで、初投稿です!
本シリーズはかなり長めになりそうで不安ですが、我が子のように育てていきます。ので!皆さんもぜひ最後まで付き合ってください!!
では、末永くよろしくお願いします!




