10話 決闘
今日、僕たちDクラスは朝から学校の庭に集まっていた。
「一応確認だけど、決闘のルールは殺し以外何でもありでいいよね」
「ええ、それで構いません」
「では、互いに位置につけ。審判は俺が務めてやる」
公平さを保つため、審判はDクラス担任の紅炎先生に頼んだ。
「それじゃあ修行法をかけた決闘、始め!」
戦いが始まる前に集めた情報。
まず、不知火 火影は火属性の魔術を得意とすること。そして能力はクラス一だということ。
僕は普通の剣を手にして火影に向かって走り出す。
火影は手にした杖を光祐へと向けて火弾を撃ってくる。その火弾を剣で弾いてどんどん近づいていく。
だが、僕が近づくだけ火影は僕から離れていく。
弾かれた火弾の煙に扮して追いつかれないよう距離をとっていた。
典型的な中遠距離タイプの戦い方、近づけは勝てる。
「私の火弾を弾くとは、ただ休んでいたわけではないんですね。ですがその程度では私には勝てませんよ」
会話の中に隙ができるかもと期待はしたが、火影は隙をし一切見せずに会話を続ける。
「私が中距離タイプだからと言ってただひたすらに近づいてくるだけとは。しかも魔術は強化以外ろくに使っていない、それで勝てると思われているのなら心外ですね」
火影はさらに距離を取る。
僕が無策でやっていると思われるのは正直ありがたい。僕の作戦はその方が成功率が上がる。
「もう10発目だけど、このまま続けてたら先にそっちの魔力が底を尽きるんじゃない?」
「心配無用です。私、魔力量には自信がありまして。学校に入ってからどんどん向上してくれましたから、やはり修行のおかげですね」
この状況でも自分の修行が正しいと主張してくるとか、否定されたのがそんなにショックだったのか?
「否定されたのがそんなにショックか?逆にお前はあのスケジュールで体調不良とかないわけ?」
「そんなのありませんよ。体調不良は弱さの証。そんな弱さを晒している暇があったら修行した方がいいでしょう」
マジかこいつ、もはや恐怖すら超えるな。なんて考えながら、僕と火影の距離はベストな距離となった。
僕は足に太陽の魔力を溜め、火影に勘付かれる前に一気に爆発させる。
ドンッ!という衝撃音が響く。体は物凄いスピードで正面にいる火影目掛けて飛んでいく。
「ッ!?」
反応が遅れる火影。驚きの表情をする時には回避不可能な位置まで接近していた。
剣が火影の肩から胴体へ一本の線を描く。
「なッ!?」
目の前で切ったはずの火影の体はゆらりと揺らいで消える。
そしていつのまにか火影は背後にいた。その杖は炎を纏い剣のようになり、切り掛かる。
「ッるぁあ!」
僕は無理矢理体を捻じ曲げ、間一髪で攻撃を防ぐ。
何が起こったのか。僕の一撃は確かに火影の体を切った。だがその体は消え、いつのまにか後ろを取られていた。一体何が起こったんだ。
「我が不知火の家系に伝わる火属性魔術、その一つ、
『陽炎』
炎で自分の分身を作り、囮にする。あなたの作戦は見抜けなかったけれで、油断してなくてよかったです」
なるほど、誘われたのは僕の方だったわけだ。そしてこの魔術、厄介だ。
「さっきの加速、ただの強化魔術ではないでしょう。その謎の力を隠すのは自由ですが、そのままで勝てるとは思わない事です」
「確かに、このままじゃこっちが不利か。じゃあ隠すのはここまでだな」
そして僕は太陽の魔力を全身に纏った。
辺りが光と熱に包まれる。
「さあ来い!」
太陽の魔力を纏い、剣を構える。
火影も杖を構えた。だが先刻までの距離をとって戦う戦法から打って変わって近接戦の構えを取る。
近接戦も行けるのか、本当に厄介。
僕は火影目掛けて突進する。
火影の杖がまたしても剣の形の炎を纏う。鉄の剣と炎の剣がぶつかり合い、火の粉が散る。
温度が高い!まずい、このままじゃこの剣が溶かされる。
僕は咄嗟に火影から距離を取る。だが遅かった。鉄製の剣は溶かされ、ぐにゃりと変形する。
「さあ、これで武器がなくなりましたね。どうします?素手でも構いませんが」
「いや、むしろあんな剣いらないよ。僕のメインウェポンはこれだから」
そして僕は創造魔術で新たな剣を作り上げた。
「創造魔術ですか。確かにこれなら解ける心配はないですね」
そう言うと火影はこちらへ向かって火弾を放つ。
僕は剣で弾くと地面を蹴って一気に距離を詰める。
またしても剣と火の剣がぶつかり合い火の粉が散る。だが今回は解ける事なくぶつけ合う。
「良い精度の創造ですね。そして纏った魔力、火属性のような、光属性のような」
「少し特殊なもんでね!」
僕は火の剣を弾いて火影の胴体へ一撃を加える。
だが火影の体はまたしても陽炎のように揺らいで消える。だが二度も引っかかる僕ではない。
消えた瞬間、剣を円形に振るう。
突如後ろに現れた火影を剣が襲う。
「!?」
火影は間一髪でその攻撃を防ぐ。だが予想外の攻撃に体が飛んでいく。
「見切ったぜ、その陽炎。おそらくその魔術は連発不可なんだろ」
「•••••だからなんだ、状況は依然私の有利、その程度でこの状況が覆るとでも?」
なぜか少し苛立ちを感じているらしい。魔術が一つ見破られただけでそんなに怒るか普通。
「いや、それが分かったのはなかなかありがたい情報だぞ」
「そうか、そうさ。私はこの陽炎を連発できない、だからなんだ、だからなんだというのだ!その程度で私が、私を否定できるとでも思っているのかッ!」
辺りは火属性魔法に燃やされた。火影の周りにはその怒りを体現したように炎が燃え盛る。
どこでそんな地雷を踏んだのだろう。
「なんでそんなに怒るんだ?そんなに悔しかったのか?」
「うるさい、うるさいうるさい!そうさ、私の陽炎は連発できないさ。所詮私はその程度さ!母様も父様も、先生も、兄様も、そしてお前も!私には出来ないと、勝てないと、魔術師なんて向いていないと口にするのか!」
「ま、まて!何もそこまでは•••••」
「五月蠅い!私は、私はぁ!」
怒り任せの連撃が光祐を襲う。だが怒りに任せた雑な攻撃なんてもっと見切りやすい。
ーーーそこだっ!
火影の手にしている杖を叩き落とす。火影の動きが一瞬止まる。
僕が勝ちを確信した瞬間、動きを止めたと思っていた火影の拳が僕の腹に突き刺さる。
「ぐッ!?」
火影は杖を無くした事を意に変えさず、殴る蹴るで攻撃してくる。
突きを剣で防ぐと、その流れで回し蹴りをした。その一撃も剣で防ごうとしたが、剣を折られ、蹴りが頬を掠める。
その技術はプロの格闘家と引けを取らず、魔術で強化された身体能力は、プロのそれをはるかに凌駕していた。
技術的な面で言えば僕よりよほど上だ。僕は体に纏う魔力を高め、その猛攻に対処する。
火影の動きは確実に光祐を推していた。だが攻め切ることができない。
私はいつもそうだ。どんなことでも修行を重ねても80まで。どうしても100に届かない。
そう、気づいていた。私には才能がない。お兄様も、母様も父様も、私を見限っていた。出来ないと、お前は無理だと。
私はどうしても諦められなかった。認められなかった。
努力は誰よりもしてきた。それでも追いつけない。その努力を、否定され、挙句は憐れまれる。
馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして馬鹿にして馬鹿にして!!
火影の猛攻は止まる事を知らず、どんどん激しくなっていく。
一本、また一本と剣を叩き折られる。
今のままでは捌ききれない。もっと力を上げなければ、でも•••••
「何故貴様は全力を出さないッ!馬鹿にするのもいい加減にしろよ!!」
バレていた。僕が本気を出せていないことが。
そう、僕は本気を出せていない。なぜなら手加減を知らないからだ。僕が修行した理由はシャドウ、つまり命の取り合いだ。だがこの戦いは命の取り合いでない。
これ以上力を出してしまえば相手を殺してしまうんじゃないか。もちろん慢心しているわけでも、相手を舐めてるわけでもない。でも、
「確かに、これ以上力を出さなかったら負けてしまうな」
「では本気でこい!それこそ、殺すきでな!」
「ああ、そうさせてもらうさ!」
負けるはけにはいかなかった。
そして僕は自分が纏える魔力を最大まで上げた。
辺りがより強い光と熱に包まれる。火影は驚かない。むしろ怒りを強くする。だがどこか息遣いが荒くなっている。
「それだけの力を隠していたとは、本当にふざけたやつだ」
僕は剣を捨て、拳を構える。火影も同じように構えを取る。
そしてほぼ同時に地面を蹴り、両者の足元が軽く抉れる。
「はあああぁぁぁぁぁ!」
「はああぁぁぁぁぁぁーーー」
拳を交える寸前で、火影の体が傾く。
そのまま火影は地面に倒れ伏す。
一拍おいて、辺りからは歓声が巻き起こるのだった。




