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外伝4「43.5話」

過去編でエリオットとアリアナが夜会で踊り、アリアナが毒を飲んで周囲を威圧しまくった数日後の話。



 毒を飲んだ二日後……。アリアナは街へ買い物に出かけようと城の出口へと向かっていた。

 次の日は流石に寝込んだが、朝起きたら気分はスッキリしていた。

 吹きすさぶ雪の中でアリアナを膝枕していたエリオットはまだ熱にうなされているらしい。申し訳ないことをした。

 ベンジャミンからは「主君に風邪を引かせるなんてテメェは何考えてんだ?」という目で見られた。だが、主君と共に恥を演じ、代わりに毒を飲んだことで相殺になったらしく、ただ睨まれるだけで済んだ。奇跡だ。

 ただ、酔っ払って主君に甘えて、その上風邪を引かせてしまったのでちょっとしたお詫びの品でも買いに行こうと思ったのだ。


(殿下、何が好きだろう。皇子様でもお花って好きかな)

 そんな事を考えながら城の人気のない道を歩いていたら、見覚えのある赤茶けた髪が目に入る。

 逃げる前に相手に気づかれた。内心で舌打ちをする。


「……うわぁ、生きてたんだ。てっきり、薔薇園に死体で転がってると思ってたのに」

 あの日、アリアナの主君に毒入りワインを差し出してきたアレクシスだ。

 どうやら彼は街へこっそり抜け出してナンパでもしようとしていたらしい。簡素なシャツとパンツ姿は、人混みに紛れやすそうだ。手に持っている薔薇は口説くための小道具だろうか。

 隣で苦労症の従者がこちらを見てアワアワとした表情をしている。


「ええ、生きてました。化け物なので」

 微笑むアリアナの瞳は、真っ赤に染まっている。


「……しぶといなぁ。もういい加減、弟のオモチャやめてさ。こっち来ない? ほら、お礼もたっぷりするよ?」

 彼は手に持っていた赤い薔薇をアリアナのこめかみに刺した。

 薔薇の棘は抜かれておらず、耳と、頭皮に鈍い痛みが走る。


「いいえ、結構です」


 あの後、アレクシスは病床のエリオットに涙ながらに訴えた。

『毒が入ってるなんて知らなかったんだ!』

『こんな兄さんを赦してくれるか』と。

 家族思いのエリオットはホッとしたようにその謝罪を受け入れた。

 だが、アリアナはそんな三文芝居で騙されるような人間ではない。

 現にアレクシスがこちらを見る目には申し訳無さなんて無い。

『次はどうやって殺してやろうか』という隠すつもりの無い悪意がにじみ出ていた。

 あの日、ワインを持ってきた給仕は死んだらしい。

 仮に毒殺が成功しても皇族殺しで処刑、失敗しても殺されていたのだ。アリアナがそれに対して、なにか思うことはなかった。


「――我が主は夢見がちなので、あなたの嘘にも騙されましたが」

 アリアナは腰に佩いていた護身用の剣を抜き取った。アレクシスの従者が思わず身構える。

 髪に刺された薔薇を丁寧な所作で抜き取り、ふっと空中へ――次の瞬間、一閃。


「……次回は容赦しません」


 次の瞬間には赤い薔薇は真っ二つに切り裂かれ、アレクシスの足元に転がっていた。

 花びらが、血のように石畳の上に広がる。

 従者は顔を蒼白にして、言葉も出ず、ただぽかんと口を開けていた。


 暫くの間の後、アレクシスが吐き捨てるように言った。


「なんて女だ……化け物よりたちが悪い!」

『化け物』……その言葉を真っ向から浴びながら、アリアナは勝利の笑みを浮かべた。


「あと、“主君の秘密”を抱えてしまった以上、乗り換えるわけにはいきません」

「……は?」


 アリアナはふっと軽蔑したように笑い、アレクシスの耳元で囁いた。


「寝ぼけた声で”もう一回……”とあなたに乞われても、興奮しなさそうなので」

 そう言い残して、アリアナは静かに去っていった。


 アレクシスの顔がみるみる青ざめていく。

“アリアナとエリオットは精神的にも肉体的にも深くつながっている”

 それがどこまで事実で、どこまで脅しなのか。

 だがアレクシスには、確かめる術はない。

 あと、従者は”お前がそっち側(攻め)なのかよ……!!”という驚愕の目でアリアナを見ていた。


 おまけ


 最近、第三騎士団では、就寝時間前に行うカードゲームが流行っていた。

 お酒や配給の干し肉やビスケットなど、ちょっとしたものを賭けて行う「イケない遊び」は、これまで育ちの良いエリオットに衝撃を与えたらしい。

 「こんなイケないことを知ってしまった……」と頬を染めて言うエリオットには傾国の気配がにじみ出ていた。


『お前らもっと殿下にイケない遊びを教えろよ』


 アリアナはそう思って同輩の騎士たちを睨んだが、彼らはベンジャミンの圧が怖くてできないらしい。なんて腑抜けなんだ。それでも誇り高き冬の国の騎士か。

 血の守護騎士の睨みよりも、殿下の保護者のほうがよっぽど怖いらしい。


(私が男だったらなぁ、……ベンジャミンの目をくぐり抜けて殿下にイケない遊びを1から100まで仕込めたのに)


 思わず自分が女であることを憎んでしまうほどだった。

 十三歳から騎士団で育ち、騎士たちの猥談を聞いてしまうことも多いアリアナはそっち方面に大変詳しくなっていた。

 残念ながら一番のイケナイ遊びになりそうな娼館などは、一緒に行けそうにない。


「アリアナ! もう一回やろうよ! ね?」

 エリオットはあくびを噛み殺しながら言った。

「殿下、もう寝ましょうよ」

 口ではそう言いながらも、主君の知る唯一の「イケない遊び」であるカードゲームに興じることにした。


(べつに、嘘はついてない)

 アリアナは内心でアレクシスに対して、舌をだした。

これにて外伝は一通り更新完了になります。

年内に完結できてよかったです。

長い間ご愛読いただきありがとうございました。

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