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 あの婚約破棄騒動から2年、私は無事卒業を迎えることができた。



 ヘマに対する慰謝料の支払いを夏の長期休暇前に終わらせることができた私は、長期休暇前に行われたテストの赤点対象者向けの、夏季特別補講に参加することができた。

アニタは参加する必要がないのに、「ビト様と少しでも一緒にいたい」と言い一緒に夏季特別講習を受講してくれた。改めて、アニタを大切にしていこうと心に決めた。


 また、ピンクダイヤモンド鉱山から家に帰ってすぐに父親に謝罪し立派な跡取りになるために勉強を頑張ることを誓い、母親にアニタをいびることを辞めるように言った。どちらも目に涙を浮かべた。父は喜び、母は言い訳をしてきた。

 もちろん、アニタの両親にも謝罪をした。アニタの父親には力一杯殴られた。そして、改めて心からヘマに謝罪し感謝を伝えた。その時に「アニタの将来の旦那様になるのでしょう?“ペドロサ男爵令嬢”なんて他人行儀の呼び方はやめて。ヘマって呼んで」と言われた。


 王都に戻った後も、時間を作ってはダイヤモンド鉱山の学び舎の手伝いを行った。ダイヤモンド鉱山に行けないときは、王都にある教会や孤児院で文字の書けない人たちに文字や計算を教え続けた。


 私は、在学中上位クラスになることは無かった。しかし、ダイヤモンド鉱山や教会・孤児院で文字を教え続けたことが評価され、卒業式で優秀学生に選ばれた。両親はもちろんアニタも喜んでくれた。



 そして、これから卒業パーティーが始まろうとしている。



 私は、今とても緊張している。このパーティーで改めてアニタに感謝と愛を伝えようとしているのだ。もちろん、生徒会長であったデレオン様には許可はとってある。



「アニタ・フロレス子爵令嬢。君に改めて伝えたいことがある」

「フランカ・ボースマ!!貴様と婚約は、ぶへっ」


卒業パーティーの始まりの挨拶をしたデレオン様と入れ替わるように、私はアニタの名前を呼んだ。


「私は入学当時勉強が嫌いで、私より頭が良かったアニタに嫉妬した」

「私の愛する人に嫌がらせ、ボヘッ」


 私の言葉と被るように誰かが何かを言っているが、そんなことを気にしている余裕は今の私には無い。


「愚かにも、アニタに婚約破棄を突きつけた。しかし、アニタは私を見捨てなかった」

「悪魔のような貴様ではなく、私は運命の相手と、うぐっ」


「私はここに誓う。生涯アニタを愛し守ることを。アニタ改めて言う。私と結婚してくれ」

「私はヘマ・ペドロサ男爵令嬢を新たな婚約者に、ぐはっ、げぼっ」


 アニタの前に片膝を着き、私はこの日のために準備したピンクダイヤモンドの指輪をアニタに差し出した。このピンクダイヤモンドの指輪は、教会で文字を教えていた時に出会ったバルドメロ様のアドバイスで準備した。


 私はピンクダイヤモンドと聞いて、市販されているものではなく自分の手で採掘したものをアニタに渡したくなった。モブ侯爵・アリリオ・エロイ・ゴヨ先生に相談したら、皆喜んで手伝ってくれた。


 3年生は卒業のひと月前から自由登校となる。私はその時間を使ってピンクダイヤモンドを発掘することに専念することにした。アニタには「体を鍛えるため山に籠る」と伝えた。

 ピンクダイヤモンドの採掘は私が思っていたよりも大変だった。剣術の授業があるとはいえ、ペンより重いものを持ったことのない私の手は、すぐに皮がむけてしまった。アリリオ達が「自分たちが代わりに採掘する」と言ってくれたが、自分の手でピンクダイヤモンドを採掘したかった。


 卒業式の一週間前に私はやっとの思いでピンクダイヤモンドを採掘することができた。それは、鉱夫達からしたら何の価値もないクズと呼ばれている小さなピンクダイヤモンドの原石。しかし、私はそんなクズでも喜んだ。


 急いで、原石を研磨してくれる職人の元を訪れた。職人が磨き終わった原石はゴマ粒ほどの大きさになった。私はそれをモブ侯爵御用達のジュエリーショップに持ち込み、指輪への加工を依頼した。侯爵御用達ということもあり、値段は私達伯爵家が贔屓にしているジュエリーショップより一桁高かった。予算の関係で、そのジュエリーショップで一番安い指輪にダイヤモンドを付けてもらうことにした。


 そして、私の手元に昨日そのジュエリーショップから指輪が届いた。その指輪を見た瞬間私は驚いた。ピンクダイヤモンドを挟むようにペリドットとラピスラズリーが配置されていた。

 領収書だと思った紙を開くと、その紙には鉱夫達から、私とアニタの幸せを願うメッセージで溢れていた。エロイからのメッセージで、ペリドットとラピスラズリーは私が勉強を教えていた鉱夫達がお金を出し合ってくれたことが分かった。「今まで勉強を教えてくれたお礼」だと書かれていた。


「ビト様ッ……ありがとうございます。実は、私もビト様に渡したいものがあります」

「これは……」

 アニタは私から指輪を受け取ると、白いハンカチを取り出し私に渡してきた。渡されたハンカチを広げると、白とピンクの胡蝶蘭が刺繍されていた。


「私もここに誓います。生涯ビト様を支えることを!!」

「アニタッ!!」

 アニタの力強い宣言に、人目も憚らずアニタを抱きしめた。私とアニタを祝福する拍手が、卒業パーティー会場に溢れた。

 

 ここで、アニタに思いを伝えることを許してくれてデレオン様にお礼を言おうと、振り向いたら、そこには鋲の付いた手袋……いや、グローブと言った方がいいか?を身につけたヘマと、メリケンサックを身につけているヘマの婚約者である辺境伯、辺境伯の足元でうずくまる隣国からの留学生がいた。


 ヘマの眉間に青筋が浮かんでいること、熊辺境伯と言われるほど厳つい顔をしている辺境伯がいつもより険しい表情をしていることから大体のことは察した。

 バカな留学生だ……ペドロサ男爵令嬢がいる卒業パーティーで婚約破棄をするとは。



 多少の騒動はあったが、私たちの卒業パーティーは問題もなく幕を閉じた。




 後日談ではあるが、翌年から卒業パーティーや卒業パーティーの前後に、婚約者にピンクダイヤモンドの指輪と胡蝶蘭の刺繍がされたハンカチを交換することが流行した。


その流行はいつの間にか市民にまで広がり結婚前夜に、女性にピンクのアクセサリーを、男性に刺繍が施された白いハンカチを渡すことが文化として根付いた。そして、数多くのピンクのアクセサリーや、白いハンカチと色とりどりの刺繍糸を取り扱っているアスール商会は一段と繁栄していった。










数年後、バーカジャナイノ王国と我が国の間で戦争が起こった。戦争とは関係ない教育大臣補佐の一人として働いている私の耳にも戦況の話が届く。最初は軍事国家であるバーカジャナイノ王国の優勢を告げるものが多かったが、いつの間にか我が国の優勢となり、あっという間に我が国の大勝利で幕を閉じた。その大勝利にはヘマとカミラ様の活躍があったと言われている。


 バーカジャナイノ王国との戦争が終結後、戦争で大活躍したヘマを「戦女神いくさめがみ」や「暁の女神」と多くの騎士・国民が崇めた。

一方で、バーカジャナイノ王国の者や他国の者からは、「ピンクの悪魔」「ピンクの死神」と呼ばれている。そして、非暴力的(言葉による攻撃)にバーカジャナイノ王国の大使をボコボコにしたヘマの姉であるカミラ様は「ピンクの女狐」と呼ばれている。


 ペドロサ元男爵令嬢達の活躍により、他国に「ピンクの髪の奴は危険」と認識された。他国の者は我が国でピンク色の髪をした人物を見ると、後ろめたいことを行っていない人でも怯えるようになった。


 そのことを利用して、軍部でピンク髪部隊を創設しようという話が上がった。物はためしに、ある部隊に所属する騎士たち全員の髪をピンクに染めたところ、その部隊の駐屯地付近では、外国人によるあらゆる犯罪が激減した。


 のちにこの現象は「ピンク効果」と呼ばれ、後世に語り継がれることになる。




 また定かではないか、この戦争にカミラ様が隊長を務めていると噂されている「ハニトラ部隊」の暗躍があったと言われている。


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