その96 魔王城本城改善計画案 その9
とりあえずインプには改善案に取り掛かって貰う為、魔王広場から送り出してやった。
これでようやく全階層の魔王城本城改善計画案を、無事に告げることが出来た。
残すところは身内事情や諸々の詳細を、今の今まで一切説明しなかった右腕の尋問だ。
未だに広場の隅で、冷凍マグロの真似事をしてやがる有様だ。
ご機嫌取りに笑わせようとしているならば、最も浅はかで失笑すら溢れないぞ。
自力で解凍出来るだろうに、私の手を煩わせる点も、全く持って頂けない。
一層の事、最も愚かで残念だった初代魔王像として、竜人王の住処に設置してやるか。
だが、気に入るのは竜人王だけだろうし、そもそも景観を損ねては可哀想だ。
やはり、今この場で右腕という存在を消し去るしかないようだな。
ただ慈愛深い事で名を馳せている私だ。
最後にチャンスを1つぐらい与えてやらん事もない。
さぁ右腕よ、数秒でも反応に遅れたりすれば、私の拳が炸裂するから気を付けろよ。
私をいつでも拳を放てるよう、しっかりと握り締め、右腕へチャンスの言葉を投げてやった。
「おい、右腕。ちゃっちゃと元に戻らんと、粉砕するぞ」
「お疲れ様でした勇者様!」
頼んでもいない綺麗な敬礼姿で、冷凍マグロから復活しやがった。
とりあえずムカついたので、目覚ましビンタを景気良くやってやった。
「ふベぇす!? な、何すんですか!?」
「こういう目覚め方が好きだろ?」
「な訳ないでしょ! ワシじゃなかったら頭吹き飛んでましたよ!」
「そんなの知らん」
「本当に貴方は人間ですか?」
何を分り切った事をほざいているんだ、この元ハゲ野郎は。
ともあれ、コイツには色々と聞かねばならないんだ。
まずは場所を正す為、私は玉座に座り直し、右腕には正座をさせた。
さて、何が何やらさっぱり分からんって面で、見上げて来てるが本題に入ろうか。
「インプに聞いたが、貴様の娘夫婦は魔び舎で、教員だそうだな」
「あ、はい……で?」
「察しの悪い奴だ。何故に貴様の口から説明されなかったのかを、説明しろと言ってるんだ」
ヘコヘコと媚び諂う商人の如く、あれやこれやと説明を始めた。
まず第一前提として、長女は右腕に対し、名前以外の情報を口外しない事を、キツく釘を刺されてるみたいだ。
「だからと言って、現魔王である私にまで適用されるのは、随分とおかしな話だと思わないか」
「お、仰る通りでごぜぇます!」
「分かったのなら今後、如何なる理由があろうと私には情報開示するんだ。いいな?」
「へ、へい!」
どんな些細な情報であっても、思わぬ場面で役立つかもしれない以上、把握する必要がある。
だからまず手始めに、右腕の娘達について根掘り葉掘り情報を吐かせる事にした。
まず長女のボスサキュバスと、旦那のデス太郎についてだ。
魔界大学の同じ学部のゼミで、ゆっくりと仲を深め合い、在学中に籍まで入れたそうだ。
両者共に才色兼備のエリート中のエリートで、魔の者達からも絶大な人気と信頼があり、2代目魔王候補人気1・2を独占中だと。
本当に右腕の血を引き継いでいるのか疑わしいが、きっと右腕の遺伝子を削りに削って、生まれて来たに違いない。
続いての次女は魔高生の2年生。
つまり人間界で言う高校2年として魔び舎に、現在も通っている。
魔界大学を首席で合格出来るよう、日々勉学に精を出すのと並列で、魔界アイドルを目指しているそうだ。
「あわわわ……言っちゃった言っちゃった……娘達にバレたらどうしよう……あばば」
「どうもこうもないだろ。今の今まで喋らんかった貴様が悪い」
「いやいやいや! 喋ったからには、勇者様も同罪ですからね!」
同罪をほざく以前に、コイツは父親としての威厳がスッカラカンなのは自覚してるのだろうか。
もし自覚があっても同情する気もさらさら無い。
さて、聞く事は聞けた事だし、今日はもう仕事は切り上げて、明日に備えるか。
「ワシの声聞こえてるんですか! ねぇ! 勇者様ったら!」
「ピャーピャー耳障りだ。私は今日働き詰めだったんだ。休息ぐらいゆっくり取らせろ」
「それだったら、同行していたワシも同じですよね!」
「たく……分かったから、さっさと休むなりなんでもしておけ」
「あじゃじゃじゃっす! では失礼します!」
スタコラサッサと魔王城広場からルンルン気分で去った右腕だが、随分と元気が有り余っているように見えたな。
全くふざけたやつだ。
明日会った時にでも、何かしらの一撃を喰らわせるか。
こうして長い長い魔王城本城見学と魔王城本城改善計画案を終えた私は、自分へのご褒美として第一食堂のデザートを食いに向かった。