その97 竜人族エアライン
魔王城本城改善計画案を告げてから早3日が経過。
改築総指揮者として命じたゴーレム仙人の、現役当時より勝る働きっぷりの甲斐あって、全階層の改築が完了した。
素晴らしき働きに免じて、好きなだけ休暇を与えたが、食い気味に遠慮された。
むしろ休暇なんて必要とせず、もっと働きたいという仕事馬鹿っぷり。
なので、跡形も残っていない魔獣管轄塔の跡地に、魔獣動物園を新たに造れと命じた。
ゴーレム仙人はバリバリやる気に満ち、現在進行形で魔獣動物園を造っている最中だ。
そんな魔王らしく指揮をとる私は今、鱗男のいる竜人族の住処へと、右腕と共に来ている。
来た理由は至ってシンプル、魔び舎へと足を運ぶのに、竜人族エアラインを利用しなければ行けないからだ。
魔王城から離れているとインプから聞いてはいたが、まさか大海と大陸を渡った先にある距離だとは思わなかった。
右手曰く、立地的には人間がまだ足を踏み入れていない、遥か辺境の地らしく、安全面はピカイチだとの事。
ただ、右腕の奴が、ダーツを投げて適当に立地決めしやがった結果だと聞いた時は、秒で右腕の奴を魔王城から放り投げてやったさ。
とまぁ、そんな数時間前の出来事を振り返りつつ、私と右腕は鱗男の準備待ちだ。
「遅いな。30分も待ってるぞ」
「いやいや、勇者様が今日魔び舎に行きたいと言ったから、竜人王君が大急ぎで準備してくれてるんですよ」
「想定していない鱗男が全面的に悪い」
「相変わらず己を貫き通しますね……」
「お待たせしました魔王様!」
オオトカゲモードの鱗男が目の前に降り立って、ようやく来やがった。
ゴーグルに頭部の形状をしたメット、背中には半球状の小さな部屋らしきものがあるな。
まさか、こんなチンケな小部屋の密室空間で、右腕と空の旅をしなくちゃいけないのか?
気分がめっきり下がった私とは反して、右腕の奴は鱗男と仲良しこよしを楽しんでいた。
「いつ見てもエアライン姿はイカすね!」
「キュン! この竜人王! 魔王様の為ならば、なんにでもなります!」
「じゃあ今度、ワシの部屋でパジャマパーティーしようね!」
「パパパパパジャマパーティー!? た、楽しみしゅぎりゅ〜」
どうしてコイツらはいつも、こんなにも気持ち悪くなれるのだろうか。
目と耳が腐り落ちる前に、なるべくコイツらを視界に入れないようにし、周囲の音量も下げてやった。
5分程すると、鱗男が私に向かって何か言ってる様子だったから、仕方がなく音量を元に戻してやった。
「聞いてるのか人間の女!」
「急に大声出すな。で、なんだ」
「もう一度しか言わないから、よく聞けよ人間の女。我が竜人族エアラインには、いくつか機内ルールがある」
どうやらルールは主に4つあるそうだ。
その1、トイレと飲食はパーキングエリアまで控えて貰う。
その2、冷暖房がない為、個人個人がしっかりと準備。
その3、要望があっても人出が皆無なので、一切受け付けていない。
その4、飛行中の風切音が凄まじく煩いので、耳栓必須。
「以上のルールを原則として守り、今回のフライトは5時間になる」
「分かった分かった。で、機内で映画はやるのか」
「ある訳ない」
「ラジオは」
「ない」
「音楽は」
「ない! 分かったならさっさと乗れ!」
「さ、勇者様。竜人王君のフライトを楽しみましょ?」
最悪環境でのフライト5時間、私は我慢できる自信がないぞ。




