その後 元魔王達と女勇者
またな
勇者様が口にした最後の言葉で、目がパッチリ覚めた。
ここ最近になって、よく同じ夢を見ては目が覚める、そんな日が続いてる。
もう3000年経っているのに、当時の記憶は未だに鮮明なままだ。
「……勇者様……本当にまた会えるんですかね……」
《またお姉さんの夢を見たの? マウロ君》
「ふぇ? あ、カォスリュさん。なんでワシの部屋にいるの?」
《はぁ……ここはマウロ君の部屋じゃなくて、ゴーレムトレインの車両内だよ》
「あ、そうだったね!」
三世界平和統括後、10年に一度、魔界・天界・人間界の代表3名が一か所に集う事になってる。
場所は人間界の王都外にある、勇者様の自宅庭。
三世界の主要場所は亜空間ゲートで行き来できるけど、滅多に遠出する機会がないから、こうやってゴーレムトレインに乗って旅行気分を味わっている。
ワシって空席の魔王の右腕だから、こう見えて結構多忙なもんなんだ。
10年に一度のこの機会以外、まともにゆっくりと息抜きできないんですよ。
《ほら、寝落ちした分、ちゃんと働いてね》
「あ、はい。えーっと……魔び舎の課外活動内容……魔王城全域の清掃道具リストのチェック……うげぇ……まだまだびっしり……」
《口は極力動かさないで、黙々とやってね》
「は、はいっす」
空席の魔王の左腕として働くカォスリュさんは、全てを超越した祖って言われる人だ。
何かずっとワシの中に眠っていたらしくて、3000年前カォスリュさんが目覚めた事で、一度三世界の存亡が掛かっていたそう。
それを止めたのが勇者様だったのだけど、もうこの世にいない。
やっぱり、またなって言葉が鮮明過ぎて、今でも生きてるんじゃないかって思ってる自分がいます。
とまぁ、勇者様が死んでからすぐ、三世界平和統括の契りを結んだ永久契約書を、カォスリュさんが継承してから、世界中で色々わちゃわちゃがあった。
けれど、カォスリュさん自らが率先して対処したのもあって、数日後には嘘みたいにわちゃわちゃは無くなった。
カォスリュさんが只者でない事は確かだけれども、俯瞰的に見ると、どことなく勇者様の生き写しの様に思えるんだ。
《僕の顔に何か付いてる?》
「え? あ、何でもないよ」
《?》
小首を傾げバリバリと仕事をこなすカォスリュさんは、本当に美しき敏腕キャリアウーマンにしか見えない。
勇者様の遺志を継いでいるのもあってか、綺麗な黒髪ロングを伸ばして、ポニーテールにしている。
自作の抑制チョーカーで力を抑えて、被害が出ないようにしてるそうだけど、正直魔界天界代表のお二方と同等の力はあるみたい。
そんなキャリアウーマンのカォスリュさんと仕事をゴーレムトレイン内でもこなし、のんびり予定だった旅はあっという間に過ぎて行った。
で、数日後、王都駅で降車したワシらは、キャリーバッグをガラガラ引いて、勇者様の自宅庭に時間通り到着した。
マイナスイオンたっぷりの自然に囲まれた、二階建て木造家屋は随分と年季が入っているも、3000年経った今も充分に住める環境を保ってる。
10年振りに来ても変わらないのどかな景色は、ワシもカォスリュさんも大好きだ。
「って、まだお二方は来てないみたいだね」
《すでに5分オーバー……時間にルーズなのはダメだよ》
「ぴ、ピリ付いてるね……」
《時間は有限だからね》
「お、お茶でも淹れてくるから待ってて!」
自宅にお邪魔して、カォスリュさんの大好きな特濃ミルクティーを温め直してると、窓から眩いばかりの光と、禍々しい漆黒の闇が一瞬だけ見え、急いでコップを追加。
大慌てで庭に戻ると、遅刻して来たお二方が早速いがみ合っていた。
『何故いつも時間過ぎに来ているんだ! ハルデル!』
『はん! ゼウンのクソみたいな身だしなみ整えに比べたら、マジだろ!』
魔界代表ハルデル様と天界代表ゼウン様は、いつもお互いの遅刻理由で口喧嘩するのが恒例だ。
よく飽きないなーって思うのも束の間、カォスリュさんが仲介役に入るのもお約束だ。
《ほらほら兄妹喧嘩しないの! 僕のげんこつ欲しいの?》
『や、やめるから! カォ姐さんのはシャレにならんし!』
『あばばば……げ、げんこつ怖い……』
「ま、まぁまぁ! 特濃ミルクティーでも飲んで落ち着きましょう! ね?」
こんな風にワシが最後に特濃ミルクティーを出して、場がようやく落ち着くまでが流れだ。
ほっこりと庭木のテーブルと椅子でティータイムを楽しみ、カォスリュさんが早速本題を切り出した。
《さて……定期的に近況報告会はして貰ってるけど、重要なのはここで報告して貰うよ》
『じゃあ我か』
『ワシから先だ! ゼウンは引っ込んでろ!』
《……ゼウン君からお願いね》
《うっす! へっ! えー……今までに前例のない話になるんだけど……》
ゼウン様の重要報告は、天使と魔の者のハーフが5年前に爆誕したとの事だった。
関係値が平等となった世界とは言え、すぐには公に出来る訳もなく、今日に至ったそう。
ハルデル様も初耳だったのか、前のめりで食い付いている。
『そ、そんな事があったの!? だ、誰と誰の子だ!?』
『セレイオとベルゼの子だ』
3000年前のカォスリュさんが目覚めた時、天界から魔界に避難して来たセレイオ君が、避難指示中だったベルゼさんと運命の出会いを果たしたんだよね。
2000年前に結婚してからずっとラブラブだったらしいけど、まさか2人の間に子供が出来たなんて驚きだ。
《それで? ハーフの子はちゃんとすくすく成長してるの?》
『そう言われると思って、セレイオ夫婦から許可を得て、この場に連れて来てる!』
『《「な、なんだってー!?」》』
『って事で、連れて来るから少々お待ちを』
閃光移動で目の前から消え、すぐに閃光移動で戻ってきたゼウン様の後ろに、小さな美少女が隠れていた。
天使の羽と魔の者の角を生やし、人間らしさもある姿は、まるで生前の勇者様と姿が重なるようだった。
『ほら、皆に名乗りな』
「……アノン」
『アノンたそか~かわわ♪ 頬っぺたぷにぷにしたいのぉ~♪ ワシはハルデル♪ よろしくなぁ~♪』
メロメロなハルデル様だけど、その巨躯と圧にアノンちゃんは隠れてしまってる。
初対面にしては距離の詰め方が下手だなって、思っていたら、カォスリュさんがアノンちゃんに近付いていた。
《初めましてアノンちゃん……僕はカォスリュです。よろしくね》
「……うん」
なんだろう。
カォスリュさんが今にも泣きそうなのを堪えてる様に見える。
《アノンちゃんは何も覚えてないかもしれないけど、僕には分かるよ……お姉ちゃん……やっと会えたね》
「ふぁにゅ?!」
優しくハグをしたカォスリュさんの言葉通りなら、これは3000年振りの再会になる。
でも、ワシは信じきれず、また夢の続きなんじゃないかと思っている。
「あ、あの……カォスリュさん。アノンちゃんが勇者様の生まれ変わりだって言いたいんですか?」
《……マウロ君も感じなかった? お姉ちゃんの面影を……》
確かに生前の勇者様の姿が重なったけど、あくまでも雰囲気だけ。
カォスリュさんの言葉は否定しないものの、ワシはアノンちゃんが勇者様の生まれ変わりではないと信じる事にした。
もし仮にそうだとしても、勇者様は何もかも忘れているんだ。
だからワシはアノンちゃんには、初めましての挨拶しか出来ない。
ワシはアノンちゃんの傍で片膝を着き、目線を合わせながら小さな咳払いを一度だけした。
「こほん……こんにちはアノンちゃん。ワシはマウロです。よろし」
「みぎうで……」
「……へ? い、今なんて?」
「……分かんないけど、お口から出ちゃったの……はみゅ……」
恥ずかしそうにカォスリュさんに、ギュッと抱き着いたアノンちゃんの背後には、忘れもしない勇者様の半透明な姿がハッキリくっきりと見えていた。
微笑みながら何か伝えようと、口を動かしてるけど、ワシの視界がいつの間にか滲んで分からなかった。
すぐに袖で滲んだ視界を拭ったけど、勇者様の姿はもうどこにもなかった。
沢山の感謝とか、世界が今どうなっているかを、どうしても伝えたかった。
けど、勇者様が何を伝えたかったのかが分かって、ワシは口にするのを止めた。
頑張ったな。
そんな短い一言だったけど、今までの事が報われて心から満たされたんだ。
勇者様の姿はもう見えないけど、もう一度勇者様に会わせてくれたアノンちゃんに、感謝とこれからの事を言わせて貰った。
「アノンちゃん……ありがとう。ワシ、空席だった魔王に復帰して、もっともっと皆の為に頑張るよ!」
「……うん」
アノンちゃんのその一言は、ワシの背中を強く優しく押してくれた。
カォスリュさんもグシグシと目を拭い、アノンちゃんと視線を合わせていた。
《さて、アノンちゃん! せっかく来てくれたから、遊ぼっか!》
「っ! お……おいかけっこしたい!」
《よーし! お姉さんが鬼になってあげるね! マウロ君達も参加だからね?》
『じゅ、重要報告会はいいのか?』
『やいのやいの五月蠅いぞゼウン! 今日はアノンたそと遊びまくる日だぁ!』
勇者様と次会えるかは分からないけど、ワシらはワシらなりに勇者様の遺志を継いで、より良い世界にして守り続けます。
これがワシが貴方から学んだ、生き甲斐ですから。
長かった!




