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小話:かつての姉の気持ち

リジーの母親の視点です。

しんみりしています。


思い出すのはあの子の幸せそうな笑顔――



******


イリスは昔からお転婆な子だった。

木に登りさえしないものの、あっちへふらふら、こっちへふらふら…

いくら注意されてもどこ吹く風で、本当に貴族令嬢なの?と疑いたくなるくらい、いろんな所に出掛ける子だった。

それに口が達者で、よく二人で喧嘩もしたけれど…それでも仲の良い姉妹だったと思う。



そんな妹がある日、パートナーを連れて来た。

デビューから一週間も経っていないのに、一体いつの間に知り合ったんだと両親共々驚いた。

よくよく彼女の話を聞いてみると、何でも王都にある植物園で偶然知り合い、そこから逢瀬を重ねたらしい…。そしてイリスのデビューに合わせて婚姻の許しを得るため紹介しに来たという。


お相手の青年はいかにも好青年といった感じの優しそうな見た目で、きっと人気がありそうだった。しかも身分も申し分なく、むしろ相手の方が上という…こんな優良物件よく掴まえたなというレベルだ。

抜けてそうで、ちゃっかりしている所はしているのね…と呆れを通り越して私は感心してしまった。



その後、ルーカスとも何回か話をしたけれど、誠実そうないい人で妹には勿体無い位だと感じた。両親も同じ様で、二人の婚姻はすんなりと認められた。


******


二人の結婚式は未だによく覚えている。

幸せそうな二人の笑顔は見ているこっちまで幸せな気持ちになった。

今までずっと一緒だった妹が離れてしまうことに、少しの寂しさを感じたけれど、それ以上に幸せそうな妹の姿を見ることができて嬉しかった。

だから私は自分に出来る精一杯の祝福を二人に送ったのだった。



私はその後、自分の夫と子供達を連れて度々イリスの元を訪れた。

夫婦仲は良好みたいで、見ているこっちが砂糖を吐きそうな位だった。

それでも、そんな妹の様子を見る度に幸せそうでよかったと私は安堵したのを覚えている。


******


イリスが亡くなったのは二人目の子を産んでから五年後の事だった。

私はその日、彼女の最期に間に合わなかった…

屋敷に着くと目に入ったのは、ベットに横たわる彼女の傍らで泣きじゃくる子供達の姿と、そんな彼らに寄り添うルーカスさんの姿だった。


ああ…神様。あの子が一体何をしたというの?

優しかった彼女がこんなに幼い我が子を置いて逝かなければならないなんて…

なんて酷いことをするのでしょう…


私は彼女の子供達の様に涙が溢れて止まらなかった。



葬儀の日、私は嘆き悲しむ両親に寄り添っていた。

全てが終わった後、妹の墓標の前で佇み動こうとしないルーカスさんの姿に、イリスはこんなにも彼に愛されていたのだと知り、胸が苦しくなった…



私はその後妊娠が発覚し、彼らの屋敷から足が遠のいてしまった。

彼らはちゃんと暮らしているのだろうか…

そればかりが心配だった。


******


産まれた子は女の子で、妹のイリスによく似ていた。

私や夫に似ている所もあるのだが、髪の色が銀色と妹と同じだったこともあり、全体的な雰囲気は妹そっくりだった。


私は基本、現実的なことしか信じない質だが、ふとした仕草や行動が妹と似ている(リジー)を見ると、まるでリジーが妹の生まれ変わりの様に感じることがあった。


そんな彼女が突然、従姉弟達に会いたいと言うようになった。その時はまだリジーは幼いから駄目だと言い含めたが、その後、彼女が余りにもしつこく訴えるものだから、私達は折れて、リジーが五歳の時に会いに連れていった。


私の気持ちとしては、彼らに会わせてあげたい半分、会わせたくない半分だった。

だってリジーは余りにも妹に似ていたから、そんな彼女を見て彼らがどう思うか私は心配だったから…


彼らは案の定、イリスそっくりのリジーを見て驚いた様だった。

しかし、私の心配を他所に彼らは彼女に良くしてくれて、私は安心した。


それからはリジーが彼らの所に行きたいと言えば行かせるようにしていた。

しかし、その頻度が三日に一度になると流石に迷惑だからと止めに入ったのだが…

それなのにルーカスさんの所に謝りに行った際に、むしろ逆に、子供達も喜ぶからぜひ来て欲しいと頼まれた時は驚いた。

そんな風に言われたらこちらも了承する他ない。

夫はリジーと触れ合う機会がさらに減ると嘆いていたが仕方ないだろう…。家の格的にもあちらの方が上だし、こちらから強くは言えないのだから。


そんな感じで、リジーがルーカス家に通うことを認めていたのだが、まさかそれだけに留まらず、今度はルーカスさんの職場に入る許可を貰ったと知り驚いた。

彼がリジーに弱い事はわかっていたが、いいのかそれで?

…流石にそれはやりすぎだろう。ルーカスさんがリジーに甘い理由はなんとなくわかっているが、それは甘やかし過ぎだ…。

このままリジーを放って置けば、もっと凄いことを彼に言い出しそうで不安なのに、ルーカスさんがそれを許しているのだから私からは強くは言えないし…困ってしまった。


そして、今までルーカス家としか殆んど関わらなかったリジーが、一時期クラリス家のご令嬢と交流しだしたことに安心したのも束の間…その頻度が尋常じゃない事に、かつての光景を思い出した私の頭痛の種は増えてしまった…。


******


夫はリジーに向けて事ある毎にパパと一緒にいようアピールをしていたが、父親の自分よりもルーカスさんといる方がいいと言う娘に、酷くショックを受けていた。


私はそんな父と娘のやり取りを横目で見ながら、この子はいつか離れて行ってしまうのだろうなと感じた。

もちろん、いつかは結婚して出ていく事になるが、そういう事じゃない。

(リジー)の幸せはルーカス家の所にある気がしてならないのだ…


そんな私の予感がまさか数年後に当たる事になるとはこの時はまだ思っても見なかったのである…。

大勢の方々に読んで頂けて嬉しい限りです。

今回のお話はしんみりしていますが、リジーの母親がこんなことを考えていたという事が伝われば幸いです。

お読み頂きありがとうございました!

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