−−− 鳳翔祭後編!!「悔」
「玲・・・」
「更科くん・・・」
「「更科さん・・・」」
「あ、だ、大丈夫だから!!」
四人が不安げな顔を俺に向ける。心中悟られまいと、わざと明るく振る舞うが、琉依さんは、それを見逃さなかった。
「玲、何かあったな」
「・・・後で、話します」
それ以上は、言うつもりなどなかった。察して、琉依さんも何も聞かなかった。今は少しだけ、麻希の事を忘れよう・・・今は、ステージに集まっているお客さんに向かって、精一杯の笑顔を、見せる為に−−−。
『では、今年度女装コンテスト、栄えあるグランプリの発表です!!』
ステージ中央から五人、真ん中でポーズをとりながら、人込みに紛れた麻希の幻影を、探していた・・・。
『栄えあるグランプリは−−−』
→→→→→→→→→→→→
[麻希ちゃん−−]
「もしもし・・・?」
『鷹峰さん?麻希です・・・』
電話の先に、更科の幼なじみの、震える声・・・。
「どうか、したのか?」
『さっき、玲に告白しました・・・』
「えっ!?」
震える声はそのままに、彼女の発した言葉は、私の心を締め付ける・・・。
『フラレちゃった・・・ハハッ』
「・・・」
『玲には、好きな人がいる』
「・・・え?」
『私が言えるのは、それだけ・・・です』
ブツッ・・・ツー、ツー・・・
「あ、オイッ・・・!!」
電話は、切れていた・・・。彼女の震える声が、最後は・・・掠れていたように聞こえた。
「そうか、フラレ、たのか・・・」
見えざる不安が、私を包む。
「会長?」
「あ、ああ・・・なんでもない」
副会長に声をかけられ、私は現実に引き戻される。ステージ中央でポーズをキメていた更科の笑顔が、ぎこちない・・・無理して笑っている。そんな感じだ。
更科の決断・・・これでよかったのだろうか!?恋愛などした事の無い私には、わからない・・・。
不安ばかりが、付きまとう−−−。
→→→→→→→→→→→→
ステージで合流した更科さんに、心からの笑顔は無かった。明らかに、無理矢理造った笑顔・・・。
「鮎華?」
「えっあ、何?」
「ぼんやりしてたわよ」
「・・・ちょっと、ね」
沙夜姉には、見透かされてるだろう・・・私の心中を。田舎育ちの私は、都会に憧れ、垢抜けた更科さんに、惹かれた。強引に引き留めた私に嫌な顔一つしなかった更科さん・・・出会った時の柔らかい笑顔が忘れられなくて、ここまで来て−−−。
好きですって一言を、コンテストが終わった後に、言うつもりだった・・・。
けど−−−。
私の知らない過去・・・。明るく振る舞おうと、無理してる更科さんが・・・とても痛々しい。きっと、さっきの麻希さんと、何かあったんだ・・・。
そう考えたら、出来ないよ・・・。
告白なんて−−−。
→→→→→→→→→→→→
「・・・しな」
・・・・・・・・・
「・・・らしな」
・・・・・・
「更科っ!!」
・・・え?
「更科っ!!早く前に出らんか!」
「えっ、あ!」
会長の怒声で、慌てて前に進み出る・・・。
「頭を下げろ」
「あ、はい・・・」
いまいち状況が飲み込めないまま、言われたように頭を下げた。
「おめでとう!!更科玲・・・」
「は!?」
頭の上に、少し重い“何か”・・・。
『本年度女装コンテスト、グランプリに輝いた更科玲さんに、大きな拍手を!!』
なっ−−−!!
『では、グランプリに輝いた更科さんに、今の感想を一言伺いたいと思います!!』
「えっ、あの・・・」
マイクを向けられ、言葉に詰まる・・・周りを見回すと、会場はおろかステージに立つ全ての人が、俺の言葉を待っていた。そこで、ようやく自分の置かれた立場を確認した。
俺、グランプリ獲ったんだ・・・。
『更科さん?』
「あ、あぁすいません。正直、まだ実感が湧かないっていうか・・・」
『みたいですね〜!でも、すごいんですよ、会場内の得票数の約八割が、更科さんだったんです!!』
「なんて言えばいいんですかね・・・複雑です」
会場が、静寂から笑いに変わる・・・。一通りの質問を終え、暖かい拍手を背に受けて、俺はステージを降りた。この間だけ、少し心が晴れていたような・・・そんな錯覚に襲われたんだ。
まだ、心には麻希の存在が残っている。アイツの想いに気付いてやれず、俺は何をやっていたんだろう・・・。
心が、痛んだ・・・。




