−−− 鳳翔祭最終日!!後編:「不安」
歓声が一度静寂に包まれ、私はポツリ・・・言葉を漏らす。
「綺麗・・・」
女の私ですら、息を呑む程に・・・玲の姿は美しかった。元々中性的な顔立ちで、肩幅もそんなに広くはない。小さい頃は、よく女の子に間違えられてたっけ?
「更科くん、本当の女性みたい!」
「あぁ、あいつが本当に女だったら、完璧惚れたかも・・・」
感嘆の言葉を漏らす、優と水城くん。それほどまでに、玲の姿は綺麗・・・。
「あ・・・」
ステージ中央まで足を進めた玲と、目が合う。何か吹っ切れたような玲の表情は、柔らかくて、ウィンクされて、私も小さく手を振った。ほんの数秒間が、とても長く感じる・・・。
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「化けたか・・・」
特別席に座った私の前で、優雅と気品を併せ持ったような女性・・・いや、男性か。更科、完全に吹っ切れたな・・・。たきつけたのは私だが、まさかここまで・・・。
「しかし・・・な」
会場内は喧騒を忘れ、ただ更科の姿に息を呑む・・・。
これは本当に、優勝するかもしれない。
優勝しろと言ったのは私だが・・・これは少し、私の計画が狂ってしまう。
罰を考えていたのは、少しでも更科の側に居たいという私の我が儘。会場の誰一人として、私の意図を知る者はいない。もし、更科が優勝出来なかったら、彼には一日私の仕事の手伝いをやってもらうつもり。会長室という場所を利用して、二人っきりで過ごす・・・そこで、告白。彼なら、もし断られるとしても、彼は無下に避けたりしないだろう。
今は、彼の・・・いや、彼女の容姿をその瞳に収め、ただ、審査結果を待つだけだ。
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さて、ふむ・・・玲め、完全に女になったか、しかし・・・
「男にしておくのが勿体ないな」
「そうね」
隣で賛同する沙夜梨は、頷きながら微笑む。ドレスアップした姿は当時と変わらず綺麗だ。高校時代、引っ切りなしに告白されてたのも頷けるわね。まぁ、私も例外なく告白されてたけどな。
「しかし、沙夜梨も玲のような男が好きなのか?」
「う〜ん、どうかしらねぇ。まぁうちの妹はそうかもしれないけどね」
「次女のほうか?」
「フフッ、鋭いわねぇ」
悪戯な笑みを浮かべ、視線を彼女の妹達に向ける。あどけない姿の残る三女(鮎美)と大人らしさを身につけた次女(鮎華)。特に次女は化けたな。何と言うか・・・
「玲に惚れたみたいだな」
「あら、やっぱりわかるかしら。本人は気付いてないみたいだけど」
やはり・・・な。
「それにしても、琉依にあんな素敵な従兄弟がいたなんてねぇ」
「ふむ、自慢の従兄弟だ」
目を細め、モニター越しに従兄弟を見る。アンコールに応え、再度ステージに上がる玲は、照れ臭そうに頬を淡く紅潮させていた。
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「あ〜終わった!!」
女装コンテスト決勝戦を終えた私・・・あ、違う!俺っ!!危ねぇ、自分を見失うとこだった!!
「お、お疲れ様!!」
「お、おぉ・・・」
控室を出てすぐに、声をかけて来たのは鮎華だった。突然と自分の気持ちが交錯して、思わず吃ってしまう。
「更科さん、本当に綺麗ですよ!!」
「鮎華こそ、マジで惚れそうなくらい綺麗だよ」
半分本気、半分冗談に言った言葉は、鮎華の頬を真っ赤に染めた。ついでに言った本人も、恥ずかしさで頬が真っ赤になっていくのを感じている。
「更科さんも、今はチャイナ姿だけど、すっごいカッコイイです!!」
そう、チャイナ姿なのだ。
初日、和服。
二日目、欧米風ストレートファッション。
最終日、チャイナ・・・。
和・洋・中のこのスタイル!!どうよ!?・・・って俺のメイクやらセットをしてくれた執行部の安久津さん(女性)が言ったけど、あんたの感性がどうよ!?おかげで紅いロングチャイナ服に合わせる為に、強制的に腕と足の毛を全部剃りやがって!!(超強力ガムテープ使用)あ、もちろんチャイナ服にはスリットが入ってました。
「アハハ、ありがと!」
「更科さん、まだ時間もあるみたいだから、みんなで近くの喫茶店みたいな所行きません?」
冗談とも本気とも思える鮎華の言葉に、俺は愛想よく笑った。審査結果が出るまでしばらく時間がある。結果が出るまでは着替える事が出来ないので、チャイナ姿のまま、俺・鮎華・鮎美・沙夜梨さん・琉依さんの5人で、九条さんがウェイトレスをやっている喫茶店へと向かう。
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ん、あれって玲だよね。それから隣で歩いてるのって、さっき特別コンテストに出てた女の子だ。後ろの女の子達(年上?)も、コンテストに出てた人だ。しかも美人ばっかり!!!なんか玲、すっごい楽しそう・・・。ま、まさか!?
「ゆ、優。喫茶店行かない!?ね、行こうっ!!」
「ど、どうしたの麻希!?」
嫌な予感がする・・・。玲の楽しそうな顔を見た時、私は不安になった。
私は一度、自ら玲の手を離した。離れてみて、彼への想いを認識した。私はまだ、玲の事が好き・・・。
けど・・・。
その彼の手を、誰かにもっていかれる気がしたんだ。
不安が、私を包みこんだ。




