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今日は昼休みに櫻凛会に顔を出した。今日は放課後は習い事で行けないからだ。特に仕事はなかったのでお姉様方とお茶をして、少し早めに教室へ戻るため休息室を後にした。
教室の扉を開けようとしたら、中から話し声が聞こえてくる。
「小百合様はケチよね。何で龍崎様と藤堂様のこと教えてくださらないのかしら。」
「一人占めなさりたいんじゃないのかしら。」
「ヤダわ。選べないとかいって御二方のこと両方好きなのよ、きっと。」
「二股ね。いやらしいわ。」
「もう、皆様ったら。聞かれたらどうしますの。本音は全部言っていいわけじゃなくってよ。」
女の子達はクスクス笑っている。
…聞いちゃってるんですが。はぁ…教室に入りにくいよ…化粧室にでも行こうか。
まさか、みんなにそんな風に思われているとは。でも、実際話したことないから話せることないし…ヤバいぞ…このままだと結菜が来た時、取り巻きの暴走を止められなくて破滅エンドまっしぐら。それにしても、いい度胸してるな。天下の西園寺家のお嬢様の悪口言うとか。私がお父様にチクリでもしたらあんたらの会社やばいぞ。(まぁ、そんなことしないけどね。なんか、めんどくさいしさ。)
私は力を証明すればみんな従うと思っていた。力は証明されてるはずだ。初等部には中・高等部のようなテストはないが授業中にテストを行ったりする。勿論全て満点だ。それに、体育も合気道やっていて鍛えてるから体力もありそれなりにできる。何がダメなのだろう。リーダーシップ性がないのか?溢れ出るリーダーとしてのオーラがないのか?
本当はお兄様に人間関係を円滑に築く方法を教えて欲しいが、あいにくお兄様は6年生。エスカレーターと言ってもいちよう受験はあるし、何もしないと外部から入ってきた生徒と学力差が大変なことになるため勉強が大変なのだ。櫻凛会メンバーとして全校の見本にならなくてはならないから。櫻凛会は学院の顔なのだ!
うん、とりあえず自分で何とかしなければ…リーダーシップと言えば帝王学か。マネジメントか。よし、帝王学を勉強しよう。
そんなことを考えていたら学校は終わった。
放課後の習い事が終わり、家に着いた。学校に行くようになってからノートパソコンを両親からもらった。小学1年生にパソコン…とか思ったが私は1人で外出させてもらえないのでこっそり欲しいもの買うのに使っている。だってさ、小学1年生の娘がいきなり「帝王学学びたい!」なんて言ったら驚くし、頭おかしくなったのかとか思われそうじゃない?だから、ネットショッピングで買うんだ。お金は問題ない。お小遣いはたくさんもらっている。多すぎるくらいに…前世の私は小学生の時はお小遣いはなく、中学生で月に500円、高校生で1000円だった。(決して貧乏だったわけではないのだが親が倹約家だったのだ。)今は小学1年生にして月に1万円。(もっと欲しいと言えばたぶん貰える。)それに出かける時はお父様とお母様が一緒のことがほとんどだから、欲しいものはお父様達が買ってくれる。よって、お小遣いはたまる一方なのだ。だから、お金は問題ない。
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「お嬢様、お荷物が届いております。」
ふふふ…ついにきた。待ってました。
ダンボールの封を開け本を取り出す。買ったのは帝王学についての本とマネジメントについての本、そして国語辞典。持っていた国語辞典は小学生用だからたぶん役に立たないだろうから、新しいのを買った。
わぁー、普通の本を読むのは久しぶり。前世では割と難しい本も読んでいたが、現在与えられるのは絵本ばっかで物足りなかったのだ。良くて、文字のやたらと大きくひらがなばかりの本。
まず、帝王学についての新しい本を開く。なになに?
《支配者であり指導者であり責任者でもある意識を絶えず持ち続けなければならない》
ふむ。
《足下と広い世界を同時にとらえる感性を要求される》
広い視野…
《帝王学を求められる者は本人の好む好まぬと言う思いの選択の機会与えられない》
うむ、これはそうだな。私が悪役令嬢になりたかったわけではないし何とかしないと破滅確定だしな…
《愛する心を備えてなければならない》
んん?愛する心……
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「小百合、小百合。」
んん?お兄様…どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。
「小百合、おまえこんな難しい本わかるのか?」
「…えっと。」
ヤバいぞ…言い訳思いつかん。これは小1でわかる内容じゃないことは確か。でも、わからないというのも不自然。だって、今読んで大切そうなとこにアンダーライン引いてあるから。どうする…
「なんか、心配事あるのか?俺でよかったら聞くよ。」
どうやら、頭がおかしくなったのかと思ったらしい。ここは、悩みを打ち明けるべきなのか?
「…えっとね。私…リーダーシップ性が足りないのかなと思って…人間関係を円滑にする方法わかるかなって…」
んん?何だ、すごい真面目に言ってるのに…お兄様笑ってますよね。震えてるからバレバレですよ。ムー
「ごめん、ごめん。小百合、人と仲良くするのに帝王学はいらないと思うぞ。」
お兄様はポンポンと頭を撫でていった。
「じゃあどうすればいいんですの。」
「んー、もうちょっと歩み寄ってみたらいいんじゃないのかな。小百合は櫻凛会で見た感じだと人との間に壁作っちゃってるみたいに見えるたから。」
歩み寄る…?うむ、正面突破ということかな。『私、龍崎隼人も藤堂薫も、全く興味ありません!』って宣言すれば…いや、それはそれで面倒だな…
「あとはね、相手に優しく。思いやりを持って、ね。」
思いやり…優しく…ニガテなんだよなぁ。
「ありがとうございます、お兄様。小百合、ガンバリマス。」
「小百合、表情こわばってるよ。そうそう、夕食の時間だよ。ちょっと遅くなっちゃったね。お父様とお母様が待ってるから行こう。」
お兄様の差し出してくれた手をとって一緒に食堂へ向かった。向かってる途中もお兄様はずっと肩が震えていた。もう、何がそんなにおかしいのよ!