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俺の仇は俺が討つ!!   作者: 魔桜
episode.03「灰色の悪魔は真実を嘯く」
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phrase.20「期待していない人間は、そんなこと言えないだろ」

 縦に並べられたテーブルには、銀の燭台や大皿が並べられている。

 バイキング方式で自由に取れるようになっていて、料理の種類も豊富。こんがり焼いた鳥の丸焼きの中に米が入っていたり、花びらが咲いているように見えるサラダなど、視覚的にも面白い。

 芳ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、自然と涎が口内に溢れる。タダ飯にありつける学園の食堂は、多くの生徒が重宝している。勿論、紫苑もその内の一人に数えられる。

 大広間のような多目的ホール。

 このひらけた場所は、全生徒を収納できるほどの面積を持っている。他にも食事を取れる場所は、『学園区域』『住居区域』『商店区域』にもあるが、この食堂が一番近かかった。

 小皿に乗っている肉をナイフで切り分け、フォークで肉を突き刺しながら、紫苑は疑問を呟く。

「前から思ってたけど、こうも露骨に避けられてると食べづらいよな」

「そこまで豪快に食べてるのに……いまさらッスか」

 座る場所は自由席。

 だからこそ、塊っている紫苑とアシュレーの二人は異質。その傍には誰も近づこうとはしない。少し怯えたような瞳をしながら、遠巻きにしている。

「フイファン先輩の力は絶大ッスからね。当然、こうなるッスよ」

「でも、ここまで露骨にやられるとちょっとな……」

「何言ってるんスか。最強クラスである『三竦み』の三人の力はまさにバケモノじみてるッス。その中でも、フイファン先輩は最も派手にやらかす人ッスからね。その『隷属』と仲間も、そういう目で見られて当然ッスよ。……でも、むしろこの状況の方がアッシにとっては好都合ッス」

「……なんでだよ?」

 ワイングラスに入った飲み物は紅色。

 紫苑は怖々と飲むが、どうやらアルコールは入っていないらしくほっとする。

「色なしっていうのは、それだけで阻害されるッスからね。もしもフイファン先輩がいなかったら、アッシ達は何をされてたか分からないッスよ」

 確かに、周りを見ると堂々と食べているのは、上位の色をしているバッジをしている人間ばかり。他の色なしの連中は、こそこそと隅で食べているような印象を受ける。

 アシュレーは、憎々しげに厚い肉にフォークをブスリと突き刺す。

「……ただ、操術ってやつは、どれだけ巧みに操れるかって代物ッスからね。それは上の人間になればなるほど、他人を容易に操ることができるってことッス。だから旦那は、フイファン先輩には完全に心を許さない方がいいッスよ」

 咀嚼をしながら、アシュレーは話をしてくる。

 口内の砕かれた食べ物が見えてしまって、マナーも何もない食べ方。

 不愉快そうに顔を歪めながら、紫苑は食べる手を止めて話す。

「……許すも許さないも、フイファンは俺の『操術師』だからな。フイファンを疑うなんて、考えもしていなかった」

「だからこそッスよ。その気になれば、『操術師』は『隷属』を完璧に操ることもできるッス。独立した『隷属』なんて、『国斬り』先輩以外に聞いたことがないッスからね」

 紫苑が手を止めたのを見てとったアシュレーも、ナイフとフォークを置く。

 アシュレーは声を落とすと、

「……そうッスね。誰かが誰かを裏切ることなんて、それこそざらなんスよ。だからこそ、アッシは他人を疑いたいんス。他人を信じることがしんどいのなら、いっそ最初から誰も信じなければいいんスよ。そうすれば、ずっとずっと楽に生きれるんス」

 周囲が騒いでいるせいで、まるでここだけ切り離されているように感じられる。

 楽しそうに騒いでいる中、ここにいる二人だけは真剣な顔つきになっている。こんな話をする場所ではないからこそ、周りは二人のことを気にしていない。

 だからこそ、きっとアシュレーは饒舌に話せている。

 そして、……アッシ、ひねくれてッスよね。でも――、と言葉を紡ぎながら、

「『他人を信用をしている』とか口に出す人間に限って、『友情』だとか『信頼』だとか目に見えないものを押し付けるッス。そして、それが自分の考えと少しでも合わなかったら『裏切り』だとか言ってくるんスよね。そんな身勝手な偽善者になるぐらいだったら、アッシはずっとひねくれ者でいいッスよ」

 アシュレーの口ぶりは、自分の過去の体験を通して言っているようだった。

 でも、どこか引っかかった紫苑は、アシュレーの持論に口を挟む。

「……なんだか聞いてると、アシュレーって本当は他の誰より、他人に期待してるんだな」

「はあ? なんでッスか? 旦那ちゃんと話聞いてくれてたッスか?」

 アシュレーは目に見えるほどに狼狽する。

「本当に期待していない人間は、そんなこと言えないだろ」

 紫苑は誰かに期待したことなんてなかった。

 そもそも、そんな対象がいなかった。

 だから、アシュレーのことを羨ましく思った。そんなことを言ってしまえば、きっと反感を喰らう。口ぶりからして、昔誰かに裏切られたのであろうアシュレーに言ってしまえば反駁されるだろう。

 だけど、紫苑にとって、そんな経験はないことだった。

 裏切られたことがある。

 裏切られたことすらない。

 いったい、どちらが幸福なのかも分からない紫苑には、押し黙ることしかできなかった。

 ……なぜなら、裏切られたことがないってことは、他の誰かを信じたことが一度もないってことだから。

 俄かに食堂内がざわついてくる。

 どうしたのかと二人顔合わせていると、漏れ聞こえてくるのは「…………『戦闘区域』での……」「……入学最終試験の……」という言葉。

 アシュレーはやおら立ち上がる。

「……どうやら、ようやく発表されたみたいッスね。入学最終試験ってやつが」

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