第18話
「部隊長は全員揃っているわね」
場所は3年生校舎、最上階の角にある一室。
そこには、三極の一角『アーシェントレギオン』が誇る四人の部隊長を筆頭に、数多くの精鋭が集結していた。部隊長たちは、いずれも単独で夜会を率いられるほどの実力者ばかりだ。
その中には、どこか心ここにあらずといった様子のクーデリカの姿もある。
「姐さん、呼び出しなんて珍しいわね。何かあったの?」
「私たち四人が同時に揃うなんて、いつ以来かしら」
久しぶりの勢揃いに、部隊長たちの間でもわずかに期待と緊張が高まる。
「急な呼び出しでごめんなさいね」
主催者であるリアーナが柔らかく微笑むと、第一部隊長のエイミーが身を乗り出して熱く語った。
「何言ってるんですか、姐さん! 姐さんの呼び出しなら、たとえ火の中水の中、すぐに駆けつけますよ!」
「……リー。用件があるなら、早く言ってほしい」
一刻も早くガウの元へ駆けつけたいクーデリカが、事務的にリアーナを急かした。
「そうね、単刀直入に言うわ。まずはこれを見て頂戴」
リアーナは、幹部たちが囲む中央のテーブルに、一枚の紙切れを無造作に放り投げた。
「……なんですか、これ」
「『は・た・し・じょう』……?」
「明後日、うちと『スモーキーズ』との抗争よ。全員で叩き潰しに行くわ」
「おっ、全員ですか! 燃える展開ね!」
「夜会戦なんて久しぶりだわ、腕が鳴るわね!」
色めき立つ面々を制するように、リアーナが隣の人物へ視線を送った。
「ミランダ。あなたから何かある?」
静かに状況を見守っていた、ミランダが重々しく口を開く。
「スモーキーズが我々に牙を剥いてきた。三つ巴の均衡が続いて久しいが……今回は派手な戦いになるだろう」
部屋の空気が一瞬で引き締まる。ミランダの声には、抗いようのない威圧感が宿っていた。
「今一度、我らアーシェントレギオンがこの学園で最強であることを知らしめる。歯向かってきたことを後悔させろ。心を鉄にしろ」
鋭い眼光が一同を射抜く。
「全滅だ。最後の一人まで逃がすな」
「「「ウォォォォーーー!!」」」
絶対的なリーダーによる激励に、部屋中に地鳴りのような歓声が響き渡った。
「場所と時間は追って連絡するわ。まずは下の連中をまとめておいてちょうだい」
上がりすぎた熱を冷ますように、リアーナが冷静に告げる。
「クー、ミー。……もう、いいか?」
熱気冷めやらぬ空間で、クーデリカが一人だけ落ち着いたトーンで問いかけた。
「ええ、そうね。伝えたいことはそれだけよ。あとは任せるわ」
「ロビン、今の話を全員に伝えておいて」
「了解っす、クー先輩!」
自分の隊の副隊長であるロビンに指示を飛ばすと、クーデリカはそそくさと一人で部屋を出ていった。
――クーデリカの背中を見送りながら。
「……最近、クーデリカの様子がおかしくないか?」
部隊長の一人、フォリーがリアーナに耳打ちした。
「ええ。何事にも興味を持たず、感情の起伏が少なかったあの子が、ここ数日、妙に表情が豊かになったわね」
「趣味でも見つけたのかしら。それとも……まさか男……?」
「それはないっすよ」
割って入ったのは、クーデリカに後を任されたロビンだった。
「最近、例の銀髪の転校生とよくつるんでるみたいっす。たぶん、それ関係かと」
「銀髪とつるんでるだぁ!? あいつは我らの敵だろうが! 何を考えてるんだあいつ!」
聞き捨てならない言葉に、第一部隊長のエイミーが怒りの形相で詰め寄る。
「ボ、ボクに言われてもわかんないっすよ~!」
ロビンが涙目で身を縮める。
「……あいつは昔から何を考えているか分からんからな。あいつなりに思うところがあるのだろう」
ミランダが独り言のようにつぶやいた。
「それにしても、あのクーデリカが懐くとはな。やはり、面白い女だ……」
「ボスは昔からあいつに甘すぎますよ」
第二部隊長のエルザが不満げに抗議する。
「ふっ……甘いか。そうかもな」
厳しい自分にそんな一面があったのかと、ミランダは自嘲気味にわずかな笑みを浮かべた。
だが、その瞳から鋭さは消えていない。
「それでも、アーシェントレギオンの規律は絶対だ。それに関しては、特別扱いするつもりはない」
窓の外を見下ろすミランダの視線の先――。
そこには、自身の夜会の幹部クーデリカと、噂の転校生リューネ、そしてルナとフェリスの四人が、親しげに談笑しながら歩く姿があった。




