表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとメインキャラと。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/92

限界オタクが同人誌を読み聞かせてみたら

「……して、この本はおいくらで売るつもりで?」

「えっ。売る……?」


 イオリはぽかんと口を開けた。


「いやいやいや! 売らないですよ! ただの趣味です!」


 言葉を理解して、慌てて否定した。


「趣味にしておくには勿体無い! 異世界の読み物を聖女様が描いたとなれば、文芸界の話題を掻っ攫うこと間違いなし!」

「これは同人なんで……! 正規で売る訳には!」

「はて、〝どうじん〟とは?」


 キャンサーは首を傾げた。

 異世界人から飛び出した未知の造語に、目を期待で輝かせている。


「原作があるんです!」

「原作があるんですか!?」


 キャンサーは前のめりになる。


「それは何という題名で!?」

「……この世界……の人物です……!」


 イオリは言葉を濁した。

 この世界がゲームの世界だということは、混乱を招く恐れがあるため、キャンサーに教えられない。


「ほほう。モデルとなった人物がいる、と……」


 キャンサーは姿勢を正した。


「誰でもあるんじゃないですかね、モデル。小生はモデル取らない主義ですが」


 イオリは首をブンブンと横に振った。


「絶対駄目です! 誰にも見せられません! モデルの人に見られる訳にはいかないんです! ナマモノの扱いには気をつけないと!」


──史実を元にしたアルタイル兄弟本だけど、かなり私好みの脚色されてるし……!

 知っている人が読んだら、モデルが誰かわかるだろう。

 そして、脚色された部分を本気にされたら、モデルの二人に迷惑がかかってしまう。


「ナマモノ……? 本は生き物ではありませんよ」

「生き物みたいなもんです!」


 支離滅裂な言動であったが、本の発行を止めるためにはなりふり構っていられなかった。


「それに、右閉じの本ですし! 修正するのは大変です!」

「右閉じで売りましょう! 異世界の文化に皆触れるべきです!」

「言語も違いますし!」

「小生が文章を訳します!」

「絵だって下手の横好きで……!」

「絵の上手い下手など、その人の好みのよって判断が分かれるもの! それにマンガというのは、絵の技量を見せるのではなく、物語を魅せるためなのでしょう!? 絵は表現方法に過ぎません! お話がわかればそれで良し!」

「そうだ! 勉強! 勉強で描く時間がありません!」

「アシスタントはこの小生が!」

「うぐぐ……!」


──逃げ道がどんどん塞がれていく……! 先生の余裕そうな笑顔が憎い!

 イオリは頭を抱えた。


「それと、それと……えーと……!」


 イオリは視線を泳がせて言い訳を探す。


「何を迷うことがありますか。執筆者にとって、出版というのは願ってもないチャンスでしょう」


 キャンサーは不思議そうに言った。


「同人誌制作は営利目的じゃないんです。内なる衝動の発散というか、妄想を同志達と共有するためというか……。本当に趣味なので」


 同人誌を売るのは、グレーゾーンである。

 著作権は著作者にあるので、訴えられても仕方がない。

──我々オタクは、著作者が目を瞑ってくれている、ということに念頭に置き、目立たぬよう、ひっそりと、内々で楽しませて頂く身……。


「私は目立ちたくないんです……」


 イオリは弱々しい声で本音を呟く。


「……すみません、姉聖女殿。姉聖女殿の気持ちも考えず、一人で盛り上がってしまって」


 キャンサーはしおらしくそう言った。


「い、いえ、こちらこそすみません」


 イオリは慌てて謝った。


「小生、このマンガに興味を惹かれました。我が世界の言語に翻訳したら、小生も読めるのですが……逐一、姉聖女殿に翻訳して貰っては、貴女にご迷惑をかけてしまいます。金になるのであれば、それに越したことはないと思ったのですが……」

「いえ、そんな。いくらでも教えますよ、私」

「真ですか!?」


 キャンサーは目を輝かせ、持っていた原稿をイオリに差し出した。


「では、お願いします! 最初から!」

「は、はい……」


 イオリは勢いに押されて頷いてしまった。


「ああ! 何回も読み返せるように、メモを取っておかなくては!」


 キャンサーは懐から取り出したメモ帳と羽ペンを握り締め、イオリの本の読み聞かせが始まるのを待っている。

 イオリは自分が描いた同人誌の読み聞かせをすることとなった。


 □


 イオリは恥ずかしくて顔から火が出そうになりながら、同人誌の読み聞かせをした。

 キャンサーはメモを取りながら、真剣な顔で同人誌を読んでいた。

 早く終わってくれ、とイオリは願っていた。


「──これで、今出来てる分は終わりです……」


 ようやく、読み終わった。


「興味深い……」


 キャンサーは原稿を読み返した。


「ゾンビと神官との間で、聖女殿の奪い合いがあったとは……」

「奪い合いじゃないですけど……」

「確かに、聖女殿の存在感は薄いですな。重要人物ですのに」

「本当は邪魔なので存在を消したかったんですけど、そうすると『何故二人が争ったのか?』という矛盾が生まれてしまって。仕方なくモブ顔で登場させました」

「そうなのですね」


 キャンサーは原稿から顔を上げた。


「これからお二方はどうなるのでしょう……。いやはや、続きが気になりますな! 続きを描くご予定は?」

「一応、プロットは出来て……」

「プロット……なんとプロっぽい響き……!」


──〝プロ〟が入っているからかな?

 イオリは多分そう、と思った。


「続きが出来上がりましたら、小生に見せて頂けませんか!?」

「良いですよ」

「ありがとうございます! それと、もう一つお願いがあるのですが……」

「お願い?」

「小生の友人に、こういうお話が好きそうな方がいらっしゃるのです。見せてもよろしいでしょうか……?」

「ええ。構いませんよ! 他の人に見せるのなら、製本した方が──」

「製本! とても良い案ですね!」


 キャンサーは食い気味に言った。

 しまった、とイオリが思ったときにはもう遅かった。


「では、製本代は払わないとなりませんね。執筆と翻訳の労力の代金も上乗せしてお渡しします。友人が欲しがるかもしれないので、何冊か刷らせて頂きますね」

「それは出版と何が違うんです……?」

「書店に並べる訳ではありません」


 キャンサーは満面の笑みでそう言った。

──そういえば、授業で言っていたな……。

 イオリは先日ののキャンサーの言葉を思い出す。

「水の都の民は、一見温厚に見えますが、皆腹に黒いものを抱えています。水の都の民と話すときは、簡単に信用しない方が良いですよ」──と言っていた。

 キャンサーも狡猾な水の都の民の一人だったという訳だ。


「続き、楽しみにしておりますよ、イオリ先生」


 キャンサーは人好きのする笑顔でそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ