会議の後に
【星の守護者】会議は終了した。
王子・ベリエは妹聖女・ヒナを連れて、いち早く会議室を出た。
騎士であるレオは二人の護衛のため、二人と同時に外へ出る。
ジェミニとポルックス、ポワソンは足早に会議室を後にした。
その場に留まる者もいた。
他の人と談笑する者──キャンサー、スコルピオン、サジタリウス。
椅子に座ったまま動かない者──ヴァルゴ、アクアーリオ、シュタインボック。
同じ【星の守護者】でも、行動はまちまちだった。
「お前、大丈夫かよ! 肌を削ぐなんて無茶して……!」
ノヴァはリブラを叱りつける。
「イオリ様の聖女の力のおかげで、傷は塞がりました」
ほら、とリブラが胸の傷を見せる。
胸には傷跡一つなく、天秤座の証がそこにあった。
「そういうことじゃ……はああ」
ノヴァは深いため息をつき、その場にしゃがみ込んだ。
「どうすんだよ。これで、オレが失敗したら……」
「気負うことはありません。例え、遠征で良い結果が得られずとも、お前は我が家で飼い殺しにするつもりです」
「飼い殺しって……」
ノヴァは不愉快そうに眉を顰める。
「ん?」とノヴァは首を傾げる。
「でも、シュタインボック様はオレを〝処分〟するって」
「〝処分〟と〝処刑〟は違います」
「へ、屁理屈だ……」
ノヴァは呆れた。
「嘘はありません。必ず、皆を納得させます。ですが……」
リブラは視線を下に向けた。
「従属契約は他の人と交わさなくてはならないでしょう。外出も制限されるでしょうが、お前の処刑を回避出来るなら何だってします」
「馬鹿じゃねえの、本当……」
ノヴァは減らず口を言いながら、頬を赤らめた。
「ノヴァくん、もっとちゃんと叱らないと駄目だよ。リブラさん、また危ないことするよ」
イオリの言葉に、ノヴァは「確かに!」とハッとした。
「次こんな危ないことしたら、許さねえからな!」
とってつけたようなノヴァの説教に、イオリは胸がきゅんとした。
リブラは背中を丸めて、しゅんとしていた。
──まさか、守護者の証ごと肌を削ぐなんて……。我々、とんでもないブラコンを目覚めさせてしまったのでは……?
イオリは顔を青くさせながら、こうも思った。
──兄弟愛、尊い。
「リブラよ」
シュタインボックがイオリ達に近寄り、声をかけてきた。
「シュタインボック様」
リブラは姿勢を正す。
「さっきはすまなんだ。そなたらが実の兄弟であることは、わしが言わずとも、少し調べればわかること。情報を後出しすると、そなたらの心象が悪くなるからのう。あの場で言わせて貰ろうた」
「いえ。隠し立てするほどのことでもありませんでしたから」
「言うべきことでもないからと、言わなかったのか?」
「はい」
シュタインボックはため息をつく。
「そなたが実直であるのは知っておる。じゃがそれは、つけ入る隙にもなろう。そなたが言わなかったことは、隠したいからじゃと、悪意を持って解釈する者もおる」
──ヒナとかね……。
イオリはヒナと、ヒナにべったりなベリエの顔を思い浮かべた。
シュタインボックはリブラの胸に拳を当てた。
「実直を謳うなら、常にそうであれ。リブラよ」
「……肝に銘じます、シュタインボック様」
リブラは頭を軽く下げた。
シュタインボックは続いて、ノヴァに目を向ける。
「そなたがノヴァか」
「は、はい!」
ノヴァは背筋をピンと伸ばした。
「しゅ、シュタインボック様のお噂は予々聞いております! 魂に山羊座の証が刻まれてから、シュタインボック様は知識と経験を積み、王国に貢献してきたと……! 魔王軍幹部の一人を討伐した功績は素晴らしく……!」
ノヴァはキラキラとした目でシュタインボックを見つめ、囃し立てるようにシュタインボックを褒め称える。
それはまるで、憧れのアイドルと会えた時のようだった。
「私にもそんな顔したことないのに……」
リブラはしょんぼりと頭を横に垂れる。
「馬鹿野郎! シュタインボック様とお前が比べられる訳ねえだろ!」
リブラはますます項垂れた。
ノヴァにとって、シュタインボックは〝憧れの人〟らしい。
シュタインボックは目を細め、ノヴァの顔を見つめた。
「……似ておるな」
「え?」
ノヴァはきょとんとした顔をする。
シュタインボックは続けた。
「そなたらの祖先には、【星の守護者】に選ばれた者がおった。知っておるか?」
「〝リゲル・アルタイル〟のことですね!」
「……ほう」
シュタインボックは目を見開いた。
「まさか、名前まで知っておるとは驚いた」
「知ってて当然です! リゲルも兄さんと同じ、【天秤座の守護者】に選ばれたんですよね!? アルタイル邸の書庫にリゲルの記録がたくさん──」
「ふっ」とシュタインボックは笑いを堪えきれず、声を出した。
ノヴァはその声にハッとした。
「……あっ。申し訳ありません……。一方的に話して……」
「良い。リゲルはわしの友人でな」
「あ、そうですよね。シュタインボック様はずっと【山羊座の守護者】……リゲルとも知り合いなんですね! リゲルはどんな人だったんですか!?」
「実直な男じゃった。そう……まるでリブラのように」
シュタインボックはリブラに目を向ける。
それにつられるように、ノヴァもリブラを見る。
みるみるうちに、ノヴァの表情は暗くなった。
「……やっぱり、そうですよね。同じ【星の守護者】に選ばれるくらいですから。兄さんはリゲルと似ている──」
「何を言う。全く似ておらん」
「え?」
シュタインボックはリブラの頬を摘み、引っ張った。
「リゲルはこんな仏頂面ではなかった」
「シュタインボック様、おやめ下さい」
文句ありげにリブラは言う。
シュタインボックが指を離すと、リブラはつままれた頬を摩った。
「あやつは素直過ぎてなあ、全ての感情が顔に出る! 作戦すら顔に出てしまい、魔王軍に全部見抜かれるほどじゃ」
「どういうことです……?」
「わしにもあやつの顔の仕組みはわからん。……じゃが、悪い奴ではない。そなたはそんなリゲルに似ておる」
ノヴァは自分の顔に手を当てる。
「……オレも作戦が顔に?」
「わははははは! そうかもなあ……」
シュタインボックは遠い目をする。
「リゲルに言われたのじゃ。『自分が死んだら、子孫達を見守ってくれ』……と」
ノヴァとリブラは無言で顔を見合わせた。
「アルタイル家が愚かな子孫の手で没落して行こうとも、その約束は守るつもりじゃった」
「でも、アルタイル家は……兄さんが……」
──潰してしまった。
「……すみません」
「何故そなたが謝る。謝るのは張本人の方じゃ」
シュタインボックはリブラの脛を杖で叩いた。
「シュタインボック様……」とリブラはシュタインボックの名前おを呼び、痛みを訴える。
「元はと言えば、オレがゾンビにならなければ……」
「そんなことばかり気にしていたら生き辛かろう。リブラのせいにしとけ」
シュタインボックは豪快に笑った。
「アルタイル家がなくなろうとも、残ったものはある」
リブラとノヴァは不思議そうな顔をする。
「リブラ、ノヴァ──そなたらじゃ」
「シュタインボック様……」
シュタインボックはフッと笑った。
「気張れよ、若人。未来は明るい」




