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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとメインキャラと。

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限界オタクが兄の覚悟を見てみたら

「さて──本来の議題『そのゾンビを王国に残しておくか』……意見を出し合おう」


 リブラは立ち上がる。


「墓場のゾンビ──ノヴァは魔王軍の幹部でした。魔王軍の情報を聞き出している最中です」

「何か、聞き出せた情報はあるのか?」

「魔王軍幹部の情報を。魔王軍幹部スターダスト。現在は、一等星から八等星の八名まで在籍しているようです」


 これは、コーヒーブレイクのとき、ノヴァがリブラに共有した情報だ。


「事実だと思うか、シュタインボック様?」


【獅子座の守護者】騎士団長のレオがシュタインボックに尋ねる。


「百年前に得た情報とさほど変わっておらぬ。じゃが一つ、わしの記憶と差異がある」

「スターダストには、〝八等星〟などいなかったことですか?」


 リブラが先手を取ってそう言った。

 シュタインボックは頷いた。


「そうじゃ。魔王軍幹部は七等星までしかおらんかったはずじゃ」

「四年前、ノヴァが幹部の一員となったとき、新たに〝八等星〟の座が用意されていたと聞きました。〝八等星〟は最近加わったものかと」

「信憑性はあるな。魔王軍の幹部は、種族の長がなるもの。今まで、ゾンビの長などおらんかったからな。新たに作られたとしても、不思議ではない」


 シュタインボックは腕を組んで言う。

──良かった。シュタ様の感触は良さそう。


「幹部の詳細な情報は今、書面にまとめている最中です。まとめ終わり次第、共有します」

「それは良い」


 シュタインボックは頬杖をついた。


「魔王軍の情報を聞くだけなら、他の捕虜と変わらん。他にも手土産がないとな?」


 シュタインボックは妖しげに笑う。

 リブラはそう言われることがあらかじめわかっていたかのようだ。

 表情一つ変えず、言った。


「ノヴァの固有スキル《死霊の指揮者(ネクロマンス)》はゾンビを操れます」

「ゾンビを……!?」


 ノヴァのスキルを見たことがない【星の守護者】達が驚きの声を上げた。


「そのスキルを見込まれて幹部入りか……」


 レオは納得したように頷く。

【墓場の森】は魔王領と聖ソレイユ王国の間に位置する。

【墓場の森】にいるゾンビは、ゾンビ以外の生き物を見ると、仲間を増やそうと噛みつく。

 人間であれ、魔物であれ。

 魔王軍側も【墓場の森】のゾンビには手をこまねいているのは、何となく予想出来ていた。


「ゾンビ蠢く【墓場の森】……彼のスキルを使えば、ゾンビに襲われることなく、通り抜けることが可能でしょう」

「人間を襲わせる……その逆のことが出来ると言うのか」


 ベリエが疑いの目を向ける。


「はい。ノヴァは我々に協力する意思を見せています」

「私達に取り入るための嘘ではないか?」

「嘘ではないと断言しましょう。ノヴァは私と従属契約を交わしています。人間に嘘をつかないよう、命令しています」

「その従属契約は万全ではないだろう」


 ベリエは食い下がる。


「従属契約での命令は絶対だ。従属契約で不自由を強いられているこの俺様が保証する」


 元盗賊団のボスで、受刑者のスコルピオンが答えた。


「犯罪者が保証してもな……」


 ベリエは呆れた。


「ノヴァの従属契約はこのまま継続。魔王軍の情報を聞き出しつつ、ゾンビを操るスキルを活用し、魔王軍領に進軍。……どうでしょう? ノヴァを利用するというのは?」

「……従属契約を受け入れたのもそうだが、そのゾンビが魔王軍を裏切ってまで、我々に尽くす理由はなんだ。何か、見返りがなければ、協力などしないだろう」


 ノヴァが見返りを求めていない。

 彼はただ、人のため──イオリとリブラの立場のため、役に立ちたいと思っている。

──ノヴァくんのことを知らない人達は信じないだろうけど……。ノヴァくんは人のために動ける子なんだよ。


「……ノヴァは王国内で生活することを望んでいます」


 リブラはそう答えた。


「ゾンビが王国内で? 馬鹿を言うな。ゾンビが街中を歩いていたら、国民は不安になる!」

「表を歩かせろ、とは言いません。ただ、王国内にある家で『人間らしい生活』を、と」

「『人間らしい生活』!? ただのゾンビだろう!」

「体はゾンビでも、心は人間となんら変わりありません。感情があり、言葉を理解している。『人間らしい生活』を望むのは、人間として当然のことです」

「──リブラよ」


 シュタインボックが徐に口を挟んだ。

 シュタインボックは頬杖をついて、妖しく笑っている。


「そのゾンビにこだわるのは《《元弟》》だからか?」

「弟!?」


 会議室内が騒ついた。


「そのゾンビ……名は『ノヴァ』と言うらしいのう。五年前、行方不明になったそなたの弟と同じ名前じゃ」


 視線がリブラに集まる。


「『元弟』ではありません。──ノヴァは《《今も私の弟です》》」


 リブラは真剣な顔でそう言い放った。

 会議室の中がしん、と静まり返る。


「……おいおい」


 スコルピオンが冷や汗をかきながら笑った。

 皆の、リブラを見る目が変わった。


「まさか、リブラさんがあいつを利用しようと強く主張するのは、王国のためとか、固有スキルに利用価値があるからじゃなくて……」

「元弟だからってこと……?」


 ジェミニとポルックスが周りに聞こえるような声でそう話している。


「【星の守護者】の模範が私情を挟むのでは困る」


 シュタインボックは首を横に振る。


「今まで最前線で魔物を殲滅してきたのはそなたじゃろう。《《元弟であれ》》、《《魔物は斬り捨てよ》》。そなたは【天秤座の守護者】リブラ・ズベンエルゲヌビであるぞ」

「……【天秤座の守護者】」


 リブラはキャソックの首元にあるホックを外し、服を脱ぎ、自身の胸板を露出させる。

 そこには天秤座の星座──【星の守護者】の証が刻まれていた。


「《正義の秤(ユースティティア)》」


 リブラの頭上に剣を召喚される。

 刃先を下に向け、自分の目の前で、床と垂直になるように落とした。

 天秤座の証がある、自身の右側の胸の皮膚を削ぎ落としたのだ。


「リブラさん!?」


 イオリは悲鳴混じりにリブラの名を叫ぶ。

 リブラの右胸から血が滲む。


「何してんだ馬鹿!」


 ノヴァは傍目も気にせず叫んだ。


「イオリ! 聖女の力で回復を!」

「う、うん!」


 イオリは立ち上がり、リブラの胸の上に手を翳した。

 リブラの胸の辺りでキラキラと星が瞬いた。


「……こんなものに何の価値がある」


 リブラは恨めしげに言う。


「星の神が『弟を殺せ』と言うのなら、私は神に反逆しよう。【星の守護者】の証が剥奪されても構わない。いつでも【星の守護者】を降りる準備が出来ている」


 シュタインボックは鼻で笑った。


「星の神を讃える大神官が言って良いセリフとは思えんな」


 シュタインボックは立ち上がった。


「そこまで言うのなら、証明してみせよ」


 シュタインボックはトン、と杖で床を叩く。


「近々、数名の【星の守護者】を伴い、【墓場の森】に遠征に行く。そこで利用価値を見出せねば、そなたの弟は処分する。良いな?」

「構いません。必ず、皆に認めさせます」


 リブラは頷いた。


「シュタインボック様! 冷静なご判断を! ゾンビは国内に留めて置くのは危険過ぎます!」

「遠征だって、何が起こるか……!」


 ジェミニとポルックスが叫ぶ。


「【星の守護者】の証を削ぐほど、本気ということじゃ。次の削がれるのは、わしらの誰かかもしれんぞ?」


 シュタインボックは「くく」と笑った。

 ジェミニとポルックスは怯えた顔をする。


「冗談じゃよ。リブラは冷酷じゃが、非情ではない。わしらに刃を向けるときは、わしらが不実を起こしたときじゃ」


 そうだろう、とシュタインボックはリブラに目を向ける。

 リブラは何も言わず、シュタインボックを見つめ返す。


「リブラは言ったら聞かん子じゃ。しかし、約束を反故にするほど、不誠実ではない。そなたらも知っておろう?」


 シュタインボックはポワソンに目を向ける。

 ポワソンは体をこわばらせた。


「ポワソン、そなたは共に行った魔物討伐の際、リブラに助けられたろう」

「え!? は、はい……。リブラ様には魔物に殺されそうになったときに助けて頂きました……」


 ポワソンは頷いた。

 続いて、シュタインボックはサジタリウスに目を向けた。


「サジタリウス、そなたは王都での生活を始めるとき、リブラに世話になったろう」

「……まあ、色々と口利きをして貰ったかな」


 サジタリウスは肩をすくめた。


「リブラの顔に免じて、一度だけ、チャンスをやろうではないか」


 シュタインボックがそう言うと、文句を言う者はいなかった。

 リブラのこれまでの行いが、【星の守護者】達を納得させたのだ。

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