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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとメインキャラと。

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限界オタクが博士に味方されてみたら

「ハッハッハッハッハ!」


 そんな中、声を上げて笑ったのは、【水瓶座の守護者】アクアーリオだ。

 オーバーサイズの白衣を着て、試験管の入ったバッグを腰に下げた、長髪の男だ。

 左頬には、【星の守護者】の証である、水瓶座の星座が刻まれている。


「想像力の足りない愚か者達で本当に困る」

「何だと!?」


 ベリエは声を荒げる。

 アクアーリオは指でトントン、と自身のこめかみを叩いた。


「想像したまえ……姉聖女クンを追放した後のことを。姉聖女クンは魔王軍に拾われることだろう。そうすれば、我々の情報を敵にみすみす渡すことと同義」


「……ああ、そうだ」とアクアーリオは思い出したかのように続けた。


「妹聖女クン達の報告によれば……聖女の力は魔物にも有効だったな。魔王軍側についても、立派な戦力になり得る訳だ……。どうだね? 姉聖女クンは王国で飼うのが得策だと思わんかね? 諸君」


 アクアーリオは皆に問いかける。


「まー、確かに。一理ある。姉聖女様が魔王軍に入られたら困ったことになるねえ」


【射手座の守護者】サジタリウスが手を叩いて笑う。

 お前は一体どちらの味方なんだ、と言うように、ベリエがサジタリウスを睨みつける。

 しかし、サジタリウスはへらへらと笑うだけだった。


「そうですな。姉聖女様には王国にいて貰った方が良いでしょうな」


 発言したのは【蟹座の守護者】キャンサーだ。


「だが、姉聖女はスパイの可能性もあるのだぞ!」

「我々が情報の管理を徹底するのはどうですかな? 姉聖女殿が魔物側のスパイかどうかなど、今は判断出来ませんでしょう。我々は、姉聖女殿のことをほとんど知らないのですから」

「……ヒナは姉が洗脳されていると言っている」

「魔物に洗脳されているのなら尚更です。我々が姉聖女殿を邪険に扱えば扱うほど、洗脳はより強固なものになりましょう。魔王軍の思う壺です」

「ぐっ……」

「姉聖女殿の聖女の力は、敵に回れば毒に、味方に回れば薬になるのですから。まずは、我々の信頼を取り戻さなくては」


「へっ」と【蠍座の守護者】スコルピオンが笑った。


「無職の癖に常識人みてえなこと言う」

「無職ではありません。作家です。著書はまだ出しておりませんがな」


 中立派のアクアーリオとキャンサーがイオリの味方をしてくれるのはありがたい。

 これで、姉聖女追放の件で評決を取る場合、イオリが追放される可能性はなくなる。

 アクアーリオはフッと笑い、椅子の背もたれに背をつける。


「……まあこれは、一介の錬金術師の意見だ。判断は、かの高名なシュタインボック氏に任せるとしよう。なあ?」


 全員がシュタインボックに目を向けた。

 今まで黙っていたシュタインボックは、口元に笑みを浮かべ、杖で床を一回、つく。


「聖女の追放は議論するに値せぬ」

「それはつまり……?」


 ベリエが恐る恐る尋ねる。


「聖女は我が世界に呼び寄せた客人じゃ。丁重にもてなす義務がある。姉聖女も妹聖女も、裁かれることはない」


【星の守護者】達は黙るこくる。

 ヒナは訝しげにシュタインボックを見た。


「誰……? この生意気なガキ」

「ひ、ヒナ姉!」


【双子座の守護者】ジェミニとポルックスが慌てて、ヒナを止めに入る。


「この方は最古の【星の守護者】! 僕達より数倍もの時間を過ごしている! そんな口の利き方をすると──!」

「リブラの説教より、長〜い説教を受けることになるぞ?」


 シュタインボックは笑い、双子座の二人は震え上がる。


「えっ……! リブラさんより!?」


 ヒナは咄嗟にシュタインボックから距離を取った。

 シュタインボックは笑う。


「はは。冗談じゃ。聖女にそう距離を取られると寂しいでな。ほれ、もっと近う寄れ」


 シュタインボックは手招きをする。

 しかし、ヒナは疑わしげに見るだけで、元の位置には戻らなかった。


「姉聖女・イオリ、妹聖女・ヒナ、両人は決して追放せぬ。何をしていようと、何をしようとな」


 リブラはシュタインボックの言葉に深く頷いた。


「しかし、彼女らの行動は目に余るものがあるのは事実じゃ。──よって、二人にはこの世界についての勉強をして貰う」

「勉強ですって……!?」


 ヒナの表情が一気に曇る。

 イオリはヒナが勉強嫌いなのを知っていた。

 夏休みの宿題はいつも最終日まで残していたし、テスト前日だというのに全く勉強する気配がなく、テストでは赤点ギリギリの点数を取るのが常だった。

 イオリは期日前にちゃんと課題を終わらせており、テストの点数は中の上くらいをキープしていた。

 故に、イオリは『ヒナの勉強を見てやりなさい』と両親に言われていた。

 自分が課題を早く終わらせるのも、テストの点数を取るのも、ヒナに教えるためではないのに。


「聖女のための勉強会──題して、〝聖女勉強会〟! ……ううむ、なかなか良いネーミングセンスじゃな」


 シュタインボックはうんうん、と満足そうに頷いた。

 シュタインボックの提案に、リブラは頷いた。


「良い提案だと思います。イオリ様もヒナ様も、この世界についてまだ何も知らないでしょう」


 姉聖女・イオリが魔物に傾倒するのは、魔物の危険性を知らないから。

 妹聖女・ヒナが聖女の威光を振りかざし好き放題するのも、【星の聖女】の役割を正しく理解していないから。


「二人の問題は、二人がこの世界について無知であるからこそ、生じたものと言えるでしょう」


『罪を憎んで、人を憎まず』──。


「聖女様の世界ではそう言うと、過去の文献で読みました。とても良い言葉です。罪人を憎み、罰を与えるのではなく、罪の根本を断つ。そのためには、やりましょう。〝聖女勉強会〟を」


 リブラの目は心無しか輝いて見えた。


「嘘でしょ……? 異世界まで来て……勉強しなきゃなの……?」


 ヒナは顔を青くし、頭をフラフラさせた。


「で? 肝心の教師は誰が務めるんだい?」


 アクアーリオが尋ねる。


「勿論、【星の守護者】じゃ。言い出しっぺのわしが教師を全て担うべきなのじゃが、生憎と、わしは忙しい。他の【星の守護者】にも協力を仰ぎたい」

「元より、シュタインボック様お一人に任せるつもりはありません。協力して貰えますね?  ジェミニ、ポルックス、アクアーリオ博士」

「は、はい!」


 ジェミニとポルックスが同時に返事をする。


「ええ? ボクもかい?」


 アクアーリオが自分の顔を指差す。


「貴方も私やジェミニ、ポルックスと同じ、風の都出身──風の都の教育を受けた身ならば、教えられたことを他者に伝えるべきです」


 アクアーリオは視線を天上に向け、ため息をついた。


「錬金術なら、姉聖女クンにだけ教えてやっても良い。妹聖女クンはガサツそうだから駄目」

「ガサツじゃないわよ、失礼ね!」


 ヒナがアクアーリオに突っかかる。


「話もちゃんと聞けないのか。『ガサツそう』と言っただろう。ボクの単なる感想だ」

「どっちでも同じじゃない!」

「そういうところがガサツなのだ。錬金術はね、繊細なんだ。ボクと同じように」

「繊細? あんたの何処があ?」


 アクアーリオは面倒く臭そうに手を払って、ヒナとの会話を早々に中断した。


「言語学ならば、作家である小生にお任せを」


 キャンサーが言う。


「自称・作家でしょ」


 ポルックスが呆れたように言った。


「はは。……それはともかくとして、教材は小生が取り寄せましょう。伝手がありますので。勿論、勉強嫌いの子でもわかるようなものをご用意しますよ」

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