限界オタクが【星の守護者】会議に出席してみたら
【星の守護者】会議当日。
イオリ、ノヴァ、リブラの三人は、【星の守護者】達の住まう寮──【明星寮】に来ていた。
明星寮は【星の守護者】のための住処である。
メインストーリーでは、聖女降臨祭の後に案内される場所だ。
他に住居のある【星の守護者】達も入寮することとなる。
【星の守護者】会議が行われるのは、明星寮にある会議室である。
明星寮の廊下を歩きながら、イオリは深呼吸をした。
「緊張する……」
イオリは脈打つ胸の鼓動を敏感に感じて、胸を抑える。
ノヴァも同様だ。
「ご安心を。イオリ様が王国を追い出されることは決してありません」
「なんでそう言い切れんだよ」
ノヴァがリブラに悪態をつく。
「イオリ様は異世界から招待された者。我々の都合で呼び出され、頼れる家族も異世界にいる状況で放り出されることなど、あってはならないでしょう。非人道的、身勝手にも程があります」
「そんな常識が通用する相手だと良いけどな……。向こうには同じく、異世界から来た妹聖女様がいるだろ。もし彼女が嫌がったら……」
「イオリ様の追放とヒナ様の要望に応えることは、必ずしも一致しません」
「それはそうなんだけどさ……」
「イオリ様と同様、ヒナ様も追放されることはありません。……例え、罪人であろうと」
──罪人……?
リブラの含みのある言葉が、イオリは引っかかった。
「イオリ様、ノヴァ、二人は聞かれたことだけ答えるように。全て私に任せなさい」
イオリとノヴァは頷いた。
□
会議室には【星の守護者】が集まっていた。
【牡羊座の守護者】ベリエ。聖ソレイユ王国の第一王子。
【牡牛座の守護者】トロー、不在。
【双子座の守護者】ジェミニとポルックス。若き天才魔導師。
【蟹座の守護者】キャンサー。自称・作家。
【獅子座の守護者】レオ。流星騎士団団長。
【乙女座の守護者】ヴァルゴ。舞踏家。
【天秤座の守護者】リブラ。大神官。
【蠍座の守護者】スコルピオン。元盗賊団のボス。
【射手座の守護者】サジタリウス。弓術師。
【山羊座の守護者】シュタインボック。最古の【星の守護者】。葬儀屋。
【水瓶座の守護者】アクアーリオ。錬金術師。
【魚座の守護者】ポワソン。占星術師。
流石、女性向けゲームのメインキャラクター達だ。
全員漏れなく、イケメンである。
イケメンが集う会議室は圧巻──その一言に尽きる。
勿論、【星の聖女】の一人、妹聖女・ヒナもいた。
ヒナはむすっとした顔でベリエの隣に座っている。
「イオリ様はこちらへ」
イオリはリブラに促され、リブラの隣の席につく。
ノヴァはリブラとイオリの後ろに立った。
ゾンビが同じテーブルにつくのは嫌だろうから、とノヴァが配慮したのだ。
リブラは良い顔をしなかったが、ノヴァが説得していた。
ノヴァのその行動に、【星の守護者】達は文句を言わなかった。
全員がいることを確認して、リブラは口を開いた。
「【星の守護者】の皆様、本日は突然の召集に応じて頂き、感謝します。今回は聖女様方の今後について、意見を出し合いたいと思います」
「話し合いなど不要だ」
最初に声を上げたのはベリエだった。
「姉聖女は我々の敵だ。即刻、国を追放すべきだ!」
【牡羊座の守護者】聖ソレイユ王国第一王子のベリエ。
彼はヒナを盲目的なまでに慕っている。
「それは出来ません、ベリエ様」
リブラがばっさりとそう言った。
「何故だ。王子の私が言っているのだぞ」
「イオリ様は異世界からの招待客。我々は聖女様方を保護する義務があります」
「本物の聖女はヒナ様だ。イオリ様は偽物だろう? 保護する義務はない」
リブラは「フゥー」とため息をつく。
「べリエ様の教育係には、自分の職務を果たすよう言わねばなりませんね」
「……何?」
「聖女様に本物も偽物もありません。聖女召喚の儀でこの世界に招かれた者は、総じて保護する義務があります。そのことを教育係から教わっていないようですので、注意をと」
「なっ……!」
ベリエは怒りで顔を真っ赤にさせた。
「リブラ殿、あまりベリエ様を怒らせないでくれ。議論にならないだろ?」
【獅子座の守護者】流星騎士団の団長・レオが口を挟む。
「怒らせているつもりはありません。私は思ったことを正直に言っただけです」
「まあ、うん……あんたはそういう人だよな……」
レオは呆れて笑うしかなかった。
リブラとレオが問答している間に、ベリエは茹だった頭が冷えたようだ。
「……聖女を保護する義務があることは理解している」
ベリエは落ち着きを取り戻して、そう言った。
「だが、姉聖女は魔物の味方をしているだろう。今後、王国に多大なる不利益を与えるに違いない。私は聖ソレイユ王国の第一王子として、国民の不安の芽は摘んでおかなければならないのだ」
ベリエはリブラの顔を真っ直ぐと見た。
「大神官リブラ、お前も国のために魔物を殲滅して来たからわかるだろう」
リブラは眼鏡のつるの部分を掴み、眼鏡の位置を正す。
「……イオリ様が魔物に傾倒しているのは、我々の責任でもあります」
べリエは眉を顰める。
「……我々の責任だと?」
「見知らぬ土地に無理やり連れて来られ、聖女を気にかけるべき【星の守護者】達も、妹聖女・ヒナ様につきっきり。姉聖女・イオリ様の悪い噂を諌めることも、咎めることもなかった」
べリエが顔を背けた。
同じヒナ派の、【双子座の守護者】ジェミニとポルックスも天井を向いて、目を泳がせる。
「魔物に優しくされ、心を奪われてしまうのも無理はない。それでも……全て、イオリ様の責任であると?」
「それは……」
べリエが言い淀む。
「だ、だが、魔物は危険な存在だ。それは姉聖女も理解しているはず。魔物の味方をするなんてあり得ない」
「聖女様の元いた世界に魔物は存在しておらず、居住している国は戦争も紛争もしてないと聞いています。魔物も、戦争も、危険性を十全に理解出来ると?」
「り、理解出来るだろう! この世界の魔物とよく似た創作物もあるそうだし、戦争だって、全くない訳ではない。それに、同じ異世界から来たヒナ様は、十分に理解している」
「たった三人の護衛だけで【墓場の森】に行ったヒナ様が、危険性を理解しているとは思えませんが……」
リブラは眼鏡の位置を正しながら冷酷に言う。
「ひゃはは! 危険だとわかって行ったんなら、相当な馬鹿ってこったな!」
【蠍座の守護者】スコルピオンが大口を開けて笑う。
「実姉を救うためだ! 少しぐらい、周りが見えなくなっても仕方ないだろう!」
べリエは笑うスコルピオンを咎める。




