限界オタクが【星の守護者】達をもっと解析してみたら
リブラはヴァルゴの写真を手に取った。
「【乙女座の守護者】ヴァルゴは──」
「アナタ達の味方よん。【天秤座の守護者】リブラちゃんも勿論ね」
リブラの後ろから手が伸びてきて、リブラの手から自分の顔写真を奪った。
その後、ひょっこりとヴァルゴが顔を出した。
「ヴァルゴ姉! 来てたんですか!」
イオリはヴァルゴの顔を見て、表情を明るくさせた。
「久しぶりねん、イオリちゃん、ゾンビちゃん」
ヴァルゴはバチン、とウインクをした。
「議論の運び方はリブラちゃんに任せるわ。アタシ、会議とかそういうの苦手だし」
そう言いながら、ヴァルゴは空いている椅子に腰掛けた。
「ヴァルゴと仲良くしているようで何よりです」
リブラは満足そうに頷く。
「ヴァルゴをイオリ様の食事係にして正解でした。女性同士の方が話せることもあるでしょうし」
「女……性……?」
ノヴァはヴァルゴを疑いの目で見た。
「あら。何か問題でも?」
「い、いや……」
ヴァルゴの笑顔の圧に、ノヴァはさっと顔を背けた。
「話を続けましょう」
リブラは顔に傷のある男の写真をとんとん、と指で叩いた。
「【蠍座の守護者】スコルピオン。元盗賊団のボスで、現在は受刑者」
「受刑者!? そんな奴も【星の守護者】に選ばれんのかよ……」
「星の神にとって、罪人も誠実な人間も、同じものなのでしょう」
リブラは呆れたように言った。
「スコルピオンは【蠍座の守護者】に選ばれたことで、特別措置を取られています。従属契約を交わすことで、監獄の外に出ることを許可されました」
イオリはふと思い出す。
【よぞミル】のストーリーで従属契約の話が出て来るのは、スコルピオンが初登場したときだ。
おそらく、従属契約という設定は、スコルピオンから生まれたものなのだろう。
「スコルピオンは犯罪者ということもあり、発言力はありません。とはいえ、奴は狡猾な犯罪者。言葉巧みに人の心を操ろうとします。くれぐれも、奴の言葉に耳を貸さないように」
「……お前、もしかして、そいつのこと嫌いなのか?」
「犯罪者は嫌いです」
リブラはばっさりと言い放った。
リブラの実の両親は犯罪者であった。
リブラは彼らを嫌悪し、告発をしている。
犯罪者の憎んでいるのは当然だ。
「こいつはどちらの聖女ともあまり接点がないので、中立と言えば中立です」
リブラはそう言って、次の【星の守護者】の写真を指差した。
写真に写っているのは、弓を持った男だ。
被写体は後ろを向いていて、表情は見えない。
「【射手座の守護者】サジタリウス。彼も中立派の一人です。……というのも、彼は無類の女性好きでして。全ての女性の味方、というスタンスを取っています」
「じょ、女性好き……。自称・作家だったり、受刑者だったり、【星の守護者】って何でもありだな……」
ノヴァは【星の守護者】に夢を見ていたようだ。
信仰心が強く、責任感がある者達の集まりだとでも思っていたんだろう。
ノヴァの中での高潔な【星の守護者】のイメージが、ガラガラと崩れていっているのが伝わってくる。
「サジタリウスは空に浮かぶ風船のような性格なので、評決を取る際は多数派の一人になるでしょう」
「風船……?」
次に、リブラは白衣を着た男の写真を指差した。
「【水瓶座の守護者】アクアーリオ。彼は……そうですね。どちらの味方をするかわかりません。非常に気紛れで」
「どんな人なんだ?」
「博士気質な人って感じかな。」
リブラの代わりにイオリが答えた。
「イオリは話したことあんの?」
「うん。錬金術を教えて貰ったんだ」
イオリはこの世界に召喚された直後、アクアーリオに錬金術を教わりに行った。
──「馬鹿め」「こんなことも出来ないのか」とか鼻で笑われたっけ……。
イオリはそのときのことが遠い昔のように感じられ、懐かしく思った。
「大丈夫でしたか? アクアーリオ博士は大変口が悪いでしょう」
リブラが心配そうに言う。
「まあ……喜ぶと口数が多くなるタイプの人だと知っていたので」
「なら、良いのですが……。何を言われてもあまり気にしないで下さい。誰に対してもああいう物言いをする方なので」
イオリは頷いた。
最後にリブラは前髪の長い男の写真を指差した。
「【魚座の守護者】ポワソン。ヒナ様派ですね。臆病で、サジタリウス殿と違うベクトルで流されやすい性格です」
「違うベクトルって?」
「気が弱いのです。強気に押せば、意見が通ります」
「なるほど……」
これで、牡羊座から魚座までの【星の守護者】の解析を一通り終えた。
「えーと、これまでの話をまとめると……」
妹聖女・ヒナ派は牡羊座、双子座の二人、獅子座、魚座の計五名。
姉聖女・イオリ派は乙女座、天秤座の二名。
中立派は蟹座、蠍座、射手座、水瓶座の四名。
不明なのは牡牛座。
「……ってところか。上手く中立派を説得出来れば、ってところだな。……ん? そういえば、シュタインボック様は?」
最古の【星の守護者】、伝説の人、【山羊座の守護者】シュタインボック。
無論、ノヴァもその名は聞いたことがあった。
今の話の中に、彼の名前だけ出ていなかった。
リブラは「フゥー」と息を吐く。
「……【山羊座の守護者】シュタインボック様は、【星の守護者】で一番発言力を持つ存在です」
「つまり、オレ達の行く末は──」
リブラは眼鏡のつるを掴んで言った。
「シュタインボック様の一声で決まるでしょう」




