限界オタクが【星の守護者】についての話をしてみたら
ある日、リブラの家。
イオリ、ノヴァ、リブラは昼食後のコーヒーブレイクを楽しんでいた。
リブラはコーヒーのコップをテーブルに置く。
「近々、【星の守護者】会議が行われます。イオリ様には勿論、出席して頂きますが……」
リブラはノヴァに目を向ける。
「ノヴァも出席するように」
「……【星の守護者】会議?」
ノヴァは首を傾げる。
「【星の守護者】が集まる会議です」
「それは何となくわかるわ! ……その会議にどうしてオレが?」
「今回の議題はノヴァとイオリ様のことについてです」
イオリとノヴァはごくり、と唾を飲む。
「私とノヴァくんをどうするか、ですね」
リブラは頷く。
「聖女様の世話は【星の守護者】に一任されています。聖女様とゾンビが密接な関係にある、ということで、二人を引き離すべきか否か、【星の守護者】で議論されるでしょう」
「つまり……」
「ノヴァを国に残留させるには、【星の守護者】の同意が必要です」
ノヴァの表情が途端に暗くなる。
【星の守護者】に自分の存在を認めさせる自信がないのだろう。
ノヴァの心境を感じ取ったのか、リブラは眼鏡のつるを摘み上げ、眼鏡の位置を正して言った。
「これはノヴァの有用性をアピールする、良い機会です」
ゾンビを操るノヴァの固有スキル《死霊の指揮者》。
それを使い、【墓場の森】を労力無しで突破し、その先にある魔王軍の領地に攻め入ろうと、リブラは計画している。
「魔王軍の領地に攻め入るのは、主に【星の聖女】率いる【星の守護者】になります」
騎士団は国に残り、国を守る。
魔王を討つべく星の神に選ばれた、【星の守護者】が魔王軍と戦う。
それは数百年前から変わっていない決まり事だ。
「ノヴァは【星の守護者】と共に行動することになります」
「会議で【星の守護者】達を説得出来れば、イオリとの関係無しに、オレが国に残れるかもってことか」
「はい」
リブラは頷く。
「しかし、【星の守護者】の説得は一筋縄ではいかないでしょう」
「そうだろうな……」
「そうでしょうね……」
ノヴァとイオリが深刻そうな顔で言う。
しかし、ノヴァとイオリの思いは全然違う。
ノヴァは、
──【星の守護者】は国を守る者。ゾンビを国に残すのは、どれだけ有用なスキル持ちであっても嫌だろう……。
と思っている。
しかし、イオリは、
──個性が強いからな……。
と思っていた。
【星の守護者】は【よぞミル】のメインキャラクターだ。
女性向けのソーシャルゲームは大体、メインキャラクターが多い。
サービス開始時点でも二十人近くキャラクターがいるのが多く、そこから新しいキャラクターを追加していくソシャゲもある。
増やし過ぎて、五十人近くいるアイドル育成ソシャゲも存在している。
誰か一人がユーザーの好みに刺されば良いと思っている節があり、新規ユーザー獲得のため、運営はキャラクターを多くする傾向にある。
そんな中、【よぞミル】はたった十三人という少数精鋭。
しかも、【星の守護者】の設定の都合上、これ以上増えないと予測される。
──だから、【よぞミル】は一人一人のキャラクターがかなり濃い……。
リブラがその最たる例だ。
真面目。かと思いきや、結構面倒臭がり屋。天然。敬語キャラ。眼鏡キャラ。プライドが高い。聖書で殴るタイプの神官。最強。冷酷かと思いきや、情がある。酒に酔うと赤ちゃん言葉を使い出す。
……などなど、上げたらキリがない。
──このお兄ちゃん、属性盛り盛り過ぎる。
イオリはリブラの顔をじっと見つめる。
「何か?」
イオリと目が合い、リブラは首を傾げた。
「何でもないです」
イオリは首を横に振って答えた。
初期の頃、リブラはこんなに属性が盛られてはなかった。
お堅く、真面目故に少し天然な、人類最強の大神官……程度だった。
イベントストーリーの追加と共に、どんどん属性が増えていったのだ。
勿論、他のキャラクターも同様、属性が増えており……。
──みんな、かなり我が強い……。
世間知らずで小心者の高飛車なキラキラ王子。
その実、民のことを真に大切に思っており、魔物を恐れる彼らをどうにか救いたいと思っている、優しい心の根の持ち主。
実は双子ではない【双子座の守護者】の二人。
明るく兄貴肌な体育会系騎士団長。
だと思いきや、前は陰で国を守る団体に所属していたりする。
それぞれが確固とした個性、そして、信念を持っている。
それが原因で意見がぶつかることも多々あるようだ。
──盛り盛りの属性と強い願いを持つキャラクター達。彼らを束ねるリブラさんは純粋に凄い。例え、圧倒的な力のおかげであっても……。
「一人一人を説得するのは、かなり骨が折れるでしょうね……」
「ええ。彼らはそれぞれ、強い願いを持っていますから」
「願い……」
ノヴァが顎に手を当てた。
「【星の守護者】は強い願いに呼応して、星の神様に選ばれるって聞いたことがある。兄貴は星の神様に何を願ったんだ?」
「……お前が知る必要はありません」
リブラの返答に、ノヴァはむっとした。
「『人々の安寧』って答えないんですか?」
イオリがあっけらかんと答えた。
「本当は『理不尽に対抗する力が欲しい』なんですよね」
「イオリ様、何故、私の真の願いを知ってるんです? 誰にも話したことはないんですが」
「え? ……それは、その……」
──『個別ストーリーで語ってました!』なんて言えないよな……。
イオリが考えあぐねていると、ノヴァが言った。
「こいつ、たまに全知全能っぽいこと言うんだよな」
「先見の明があると……? これも聖女様のお力なのでしょうか」
「そうかも」
──良かった。なんか勝手に納得してくれた。
イオリはほっとした。