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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとお兄ちゃんと。

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限界オタクが壁になってみたら

「信じたくなかった。お前がまだ星になっていなかったこと」


 リブラは項垂れて、話をそう綴った。


「ゾンビになって、【墓場の森】を当てもなく彷徨っていたなんて。魔王軍の幹部になっていたなんて。どれだけの孤独を、苦痛を、感じながら過ごしていたのか。……想像したくなかった」


 リブラは力なく、首を横に振った。


「イオリ様の言う通り、私は逃げていたのだ」


 弟から。

 否、弟の死から。

 弟と向き合わなかった過去の自分から。


「わかっている。目を逸らしてはいけないと。……お前を見ていると、自分を責められているように感じる……」


 だから、魔物に変わり果てた弟から目を逸らした。

 ゾンビになったノヴァは、ノヴァから離れた自分の罪そのものだ。


「あの家にお前を一人置いて行ったこと。忙殺されて、お前を気にかけなかったこと……。お前が死体を操る固有スキルを発現させて、あの二人がどう思うか、予想出来たはずなのに」

「……あんたのせいじゃない」


 ノヴァはそう言うしかなかった。

 実際、ノヴァがゾンビに噛まれたのは父の不手際だ。

 リブラが未然に防げるような事故ではなかった。


「それだけではない。私はお前を殺した」

「葬式をしただけだろ」

「最も残酷な行為だ。……生きたまま、死んだことにしたのだから」


 葬儀のとき、棺桶の中にノヴァはいなかった。

 空っぽの棺桶に向かって、リブラは手を合わせた。

──ノヴァは突発的な事故で死んだのだ。

 そう思い込むことにした。

 ゾンビに噛まれて、ゾンビになって、【墓場の森】に消えた、哀れな弟は存在しなかったことにした。

──弟は人間のまま死んだ。それで良いのだ……。


「自分が楽になるためだけに、私は自分に嘘をついた……」


「申し訳ない」とリブラはノヴァに頭を下げる。

 リブラが「弟は死んだ」と言い張ったのにも合点がいく。

 そう思い込まないと、苦しかったからだ。


「お前は私を恨んでいるでしょう……」

「……別に、あんたを恨んでねえよ」


 リブラは顔を少しだけ上げる。

 長く苦しみ、疲れ切った顔をしている。

 ノヴァは馬鹿にしたようにハッと笑う。


「そりゃ、どんどん遠くに行っちまうあんたを羨ましく思ったさ。追いかけようとしても、オレにはどう頑張っても無理だった」

「お前はよくやっていました」

「慰めにもなんねえよ。あんたくらい──いや、それよりも成果を上げなきゃ、家に居させて貰えなかった」


 不気味なスキルを持っている。

 その事実だけでノヴァは両親から煙たがられた。

 挽回するためには、リブラより優れていると証明しなくてはならなかった。

 だから、ノヴァはリブラが大神官となったとき、浮かない顔をしていたのだ。

──大神官にならなければ捨てられる──。

 教会に顔を出させて貰えず、学校にも通わせて貰えず、どうやって兄に追いつけば良いのか。

 わからなかった。

 その直後、父はノヴァを家から追い出すように、墓守りの仕事を命じた。

 父はあわよくば、そこでゾンビに殺されろと思っていたに違いない。


「あんたが家に帰らなくなったのも、オレを見限ったんだと思ってた。……お父様とお母様も、そうだったから」

「……お前をあの家に一人、置いて出て行ったこと、本当に後悔している……」

「あんたは悪くねえよ。オレが無能だっただけ」


 ノヴァは眉を下げて笑う。


「そんなことない……」


 リブラは震える声で言う。

 その言葉が気休めにしかならないとわかっている。

 黙ってしまったリブラを見て、ノヴァは一つ、息をつく。


「オレは人間じゃなくなった。死体は残らねえ。星屑になるだけ。ただの化け物だ。抵抗はねえだろ?」


 何の、とは聞けなかった。


「あんたにまた会えて本当に良かった。最期に、オレの願いを聞いてくれ」


 リブラは次の言葉を聞きたくなくて、耳を塞いでしまおうとも思った。

 しかし、ノヴァの言葉を聞かないなんて、出来なかった。


「オレを殺してくれ。星になったオレを弔ってくれ。悼んでくれ。忘れないでくれ……。ここで、人間として死ねるなら、それにを越す幸せはない……」

「……私にお前は殺せない……」

「頼むよ……〝兄さん〟」


 リブラは目元を手で覆う。


「狡いな、お前は……。こんなときに、再び私を兄と呼ぶなど……」

「ごめん」

「謝らないでくれ……」


 ノヴァは力なく笑う。

 その笑顔をリブラは懐かしいとさえ思えない。

 そのくらい、二人の距離は離れてしまっていた。


──弟さんを知るのは、今からでも遅くないです。


 リブラの頭にイオリの言葉が思い浮かぶ。

 リブラははっとした。

 ノヴァは話の通じない魔物になっていなかった。

 生前となんら変わりなく……いや、口は悪くなっているが、魔物のように人間を襲うつもりもない。

──何故、殺さねばならない? 国の安全のため? 私はそんな真面目な人間だったか? 

 違う。

 自分の目の前からノヴァを消したいのだ。

 ノヴァはリブラの罪そのもの。

 目に入るだけで、罪を思い出して苦しむ。

 だから、星屑にして、消してしまいたいのだ。

──結局、私は、自分が楽になりたいだけなのか……。


「ここにいてくれ」

「え……?」

「『勝手に星屑になるな』……命令だ。生きて、動いて、話して。私を責め続けてくれ。……それが私の罰になる」


 その言葉を聞いて、今までしおらしくしていたノヴァの表情がみるみる内に、激怒に変わる。


「……ふざけんなよ……」


 ノヴァの口から、地を這うような低音が発された。

 次の瞬間、ノヴァはリブラに掴み掛かった。


「てめえの都合にオレを巻き込むなよ! 罰を受けてえなら、勝手に受けてろ!」


 リブラは何の抵抗もせず、じっとノヴァの目を見つめている。

 それがノヴァの神経を逆撫でした。

 ノヴァはくしゃりと顔を歪めた。


「オレはずっと! てめえのせいで肩身の狭い思いをしてきた! お父様とお母様は口を開けば、てめえのことばっかりで! オレを見てくれたことなんて一度もなかった!」


『兄のようになれ』だの、『兄はあんなに優秀なのに』だの、ことあるごとに言われた。

 目標の兄は遠くに行くばかりで、全く追いつけやしない。


「てめえが優秀でなけりゃ! てめえが【星の守護者】なんかに選ばれなけりゃ……! オレは幸せになれたはずなのに……!」


 ノヴァはリブラの胸に頭を押し付けて、啜り泣く。


「最期くらい……オレの願いを叶えてくれたって良いだろうが……!」

「……そうだな。もっと私を責めろ。罵れ。お前にはその権利がある」

「クソッ……嫌いだ! お前なんか、嫌い……!」

「駄目な兄ですまない」


 リブラはノヴァを抱き締める。


「私に……罰を与え続けてくれ、ノヴァ」


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