限界オタクが人間の国に帰ってきたら
聖ソレイユ王国、王都。
そこは魔物の侵入を防ぐべく、高い壁に囲まれている。
締まり切った門の前で、二人の屈強な兵士が目を光らせていた。
門兵の目と鼻の先にゾンビの根城【墓場の森】がある。
近づいてきたゾンビをときには追い払い、ときには討伐するのが、門兵の仕事であった。
しかし、今日はいつもと違う。
「リブラ様とヴァルゴ殿はご無事だろうか……」
昼頃、【星の守護者】リブラとヴァルゴの二名が、姉聖女イオリの奪還のため、【墓場の森】の中に入って行った。
門兵は二人の帰りを今か今かと待っている。
「二人は聖ソレイユ王国屈指の実力者だ。必ず姉聖女様を奪還してくるさ」
「しかし、先日、妹聖女様と三人の【星の守護者】が奪還に失敗したばかりだろう」
「ヒナ様をお守りしながらでは本来の実力を発揮出来まい。今回はきっと上手くいく……」
門兵二人が世間話をしていると、ぱきり、と枝を踏み締める音が森から聞こえてきた。
ゾンビの襲撃かと、門兵二人は咄嗟に槍を構える。
リブラとヴァルゴの顔が見えたとき、門兵二人は表情を明るくさせた。
「リブラ様! ヴァルゴ殿! よくぞご無事で!」
門兵二人はリブラとヴァルゴに敬礼をする。
ヴァルゴの横には姉聖女イオリの姿もあった。
「姉聖女様の奪還に成功されたのですね! 流石、リブラ様とヴァルゴ殿だ……!」
門兵二人は優秀の【星の守護者】を褒め称えた。
そして、リブラとヴァルゴ、姉聖女イオリの他に、もう一人の客がいることに気づいた。
ノヴァだ。
顔色も人相も悪いその男に、門兵の一人は眉を顰め、もう一人は不思議そうな顔をした。
「失礼。そちらの男は……?」
眉を顰めた門兵が問いかける。
「門兵に話をしてきます。こちらでお待ち下さい、イオリ様。……ヴァルゴ、任せましたよ」
「わかったわん」
リブラは他三人に待機を促し、門兵に近づいた。
「耳をこちらに」
耳元に口を寄せ、何かを小声で話している。
門兵は目を見開いた後、再び眉を顰めた。
イオリやノヴァには何を話しているのか全く聞こえない。
しかし、ノヴァのことについて話しているのは、門兵の表情から推測出来る。
「し、しかしですな。魔物を都内に入れるというのは……」
「責任は私が取ります」
その会話だけ少しだけ声が大きく、内容が聞こえてきた。
その後、直ぐに小声に戻り、会話が聞こえなくなった。
「……わかりました」
門兵は渋々頷いた。
リブラと門兵の内緒話が終わると、ゆっくりと門が開く。
リブラが先頭に立ち、王都の中に入る。
続けて、イオリとヴァルゴ、最後にノヴァが入った。
ノヴァが王都に足を踏み入れた瞬間、門兵がノヴァの肩を掴み、地面に押さえつけた。
「ノヴァくん!?」
「姉聖女様、離れて下さい!」
駆け寄ろうとするイオリの前に、門兵が立ちはだかる。
それでもノヴァに近寄ろうともがくイオリを、ヴァルゴはやんわりと押さえ込んだ。
「近づくと怪我するわよ、姉聖女ちゃん」
「でも、ノヴァくんが……!」
門兵はノヴァの背中に跨り、起き上がれないようにする。
直ぐに応援の兵士が数名現れ、ノヴァを取り囲む。
「こいつはゾンビだ!」
「口を塞げ!」
「噛まれるなよ!」
「もっと応援を呼べ!」
門兵は口々にそう言い、ノヴァの口に猿轡を噛ませる。
その間、ノヴァは一切抵抗しなかった。
「ちょっと! 手荒な真似はしないでって言ったじゃないですか!」
イオリはリブラに訴える。
しかし、リブラは何も答えず、止める素振りすら見せない。
──まるで、最初からこうなることを知っていたような……。いや、こうなるように指示してた?
「姉聖女様、こいつは魔物ですよ。乱暴に扱ったって、バチは当たりません」
門兵はへらへらと笑う。
何も言わないリブラ。
イオリを止めるヴァルゴ。
抵抗しないノヴァ。
そして、無抵抗のノヴァを大勢で取り押さえる兵士達。
その全てに腹が立った。
「このっ……! いい加減にっ……しなさぁいっ!」
イオリが叫ぶと、イオリの体から星が瞬き始める。
その光はノヴァの傷を癒したときと同じものだった。
「これは……聖女ちゃんの力……!?」
ヴァルゴが驚く。
「グウッ……目が……!」
一部の門兵が眩しさに目を抑える。
──凄い。これ、フラッシュの効果あるんだ!
「じゃあ、もっと輝けー!」
イオリがそう叫ぶと、星の輝きが増した。
目を覆い、ノヴァを抑え込む動きが止まる。
「貴様……っ!」
門兵がイオリに向かって、槍を構えた。
その門兵をリブラが手で制する。
門兵は動きを止める。
「……失礼しました、イオリ様」
リブラが胸に手を当て、イオリに向かって頭を下げる。
「こちらで手違いがあったようです。申し訳ありません」
「リブラ様!」
門兵が短い言葉でリブラに文句を言う。
リブラは門兵に冷たい目を向けた。
「これでわかったでしょう。イオリ様の機嫌を損ねてはならないと」
門兵は押し黙る。
「そのゾンビのことは、くれぐれも、くれぐれも丁重に扱いなさい」
「……わかりました、リブラ様」
門兵が槍を収め、ノヴァを押さえつけている兵士達に退くように指示を出した。
それを見届けると、イオリは聖女の光を引っ込めた。




