限界オタクが最強の男と対峙してみたら
【天秤座の守護者】リブラ。
星の神教の高位の神官であり、ノヴァの実兄〝疑惑〟のあるキャラクターだ。
疑惑、というのも、ストーリー内での言及が一切ないのだ。
わかっているのは、リブラに年の離れた弟がいたこと。
今は疎遠状態という情報と、二度と会えない──つまり、既に死別しているという情報がネット上で錯綜している。
そのリブラの弟がノヴァであると、一部のノヴァファンに囁かれていたのである。
『ノヴァくんって十代でしょ? リブラ様は二十代後半だし、年の離れた弟がノヴァくんの可能性はある』
『ノヴァとリブラ様、どちらも髪の色は黒がベースだし、目元比べると本当そっくり……。兄弟と言われても納得』
『ちょっと待って今気づいた。二人の戦闘開始モーションほぼ同じじゃん!? 二人共右手の指で眼鏡のつる掴んで上げてる!』
『↑実は戦闘勝利ボイス、敗北ボイスもほぼ同じやぞ』
『↑マジだ……』
などなど、ノヴァリブラ兄弟説が持ち上がったとき、SNSは大いに盛り上がった。
しかし上記の通り、ノヴァとリブラ兄弟説は〝匂わせ〟程度しか存在しない。
ほぼ言いがかりと言っても良い。
だが、世の限界オタク共はそれを啜って生きている。
そんなリブラがメインストーリーで登場するのはもっと先だ。
決して、序章に登場して直ぐに退場するノヴァと顔を合わせることはない。
イオリはそのことに嘆いたから覚えている。
──聖女の私が帰らなかったから、ストーリーが滅茶苦茶になってるの?
イオリは戸惑いを隠せない。
隣にいるノヴァも動揺している様子だった。
「イオリ様、こちらへ」
リブラが手を差し出す。
イオリは顔をこわばらせた。
──嫌だ。行きたくない。
王国に戻ったら、ヒナが待っている。
ヒナはイオリにポーションを作らせ、そのポーションの効力を聖女の力と偽り続けるつもりだ。
ヒナは王国民に感謝される。
決して、イオリは報われることがない。
──もうヒナに利用されるのは嫌……!
「『行くな』! イオリ!」
ノヴァが焦って叫ぶ。
イオリの手の甲にある従属の証が熱くなり、力を発揮する。
足を踏み出そうとしても、全く動かない。
イオリは少しだけホッとした。
リブラは目を細めて、イオリの手の甲にある従属の証を見る。
「それは従属の証……。これによって、イオリ様は逆らえなかったのか」
「なんてこと……。姉聖女ちゃんは洗脳されたのではなく、従属契約によって逆らえないようにされていたのね!」
ヴァルゴが大袈裟にリアクションする。
「大方、強要されたのでしょう。野蛮な魔物達を前にして、異世界人の娘一人。恐怖は計り知れないものだったでしょう」
リブラは「全く」と息をついて続ける。
「魔物の考えることだ。忌々しい」
「可哀想に。もう大丈夫よ、姉聖女ちゃん。アタシ達が今助けてあげるからねん」
ヴァルゴはパチンッ、とイオリにウインクをする。
「……お早い再戦だなァ。オレは魔王軍幹部スターダスト七等星、ノヴァだ」
ノヴァは胸に手を当て、丁寧にお辞儀をする。
土の中からボコボコと部下ゾンビが出現する。
「あら! 礼儀の正しいゾンビちゃんね。嫌いじゃないわ。アタシは舞踏家であり武闘家、【乙女座の守護者】ヴァルゴよん。ほら、リブラちゃんも名乗って」
「名乗りなど必要ありません。早く制圧しましょう。──正義執行。《正義の秤》」
天空から巨大な剣が降り注ぎ、部下ゾンビ達を一掃していく。
リブラの固有スキル《正義の秤》。
巨大の剣を召喚し、手足のように操り、敵を攻撃する。
シンプルなスキルだが、リブラの強さの真髄はそこにはない。
自身のスキルを正確に理解し、勝てるギリギリの強さの魔物と対峙し討伐。
それを繰り返し、着々と実践経験を積み上げて行った。
特筆すべきは、魔王軍幹部の一人を〝たった一人〟で討伐した記録だろう。
その後、リブラは『人類最強』と呼ばれるに至る。
彼の原動力は、魔物に対する怒りだという……。
その名に違わず、ゲーム内でも随一の強さを誇る。
リブラの初期実装最高レア──どのガチャでも排出される恒常リブラは、どの戦闘においても有用だ。
リセットマラソン──欲しいキャラが出て来るまでアカウントを作り直す作業のこと──略してリセマラにおいて、恒常リブラは〝大当たり〟と呼ばれている。
攻撃面、体力面、防御面、サポート面、どれをとっても群を抜いているのだ。
初期実装キャラにたまにある、運営が匙加減を間違えたキャラである。
【空ミル】運営もこれは不味い、と思ったのか、これ以降、恒常リブラを超える性能のキャラは実装されることはなかった。
ストーリーにおいても、ゲームの性能においても、圧倒的な強さを誇るリブラ。
そんなリブラが手に持った聖書の角をノヴァに向けた。
「《正義の秤》」
リブラが宙に浮かぶ無数の剣。
その先端が全て、ノヴァに向く。
来る、と思ったノヴァは防御の姿勢を取る。
「オレを守れ!《死霊の指揮者》!」
ゾンビ達が土の中から現れ、ノヴァの前に壁を作る。
「無駄な足掻きだ。貫け、《正義の秤》」
巨大な剣がゾンビの壁を貫き、瓦解する。
「くっ……!」
「捕らえよ」
リブラの剣がノヴァの頭上から降る。
ノヴァはそれを避ける。
避けた先に、もう一振りの剣が地面に突き刺さり、ノヴァを挟み込み、動きを封じた。
拘束を強めるように、複数の剣が突き刺さる。
出来上がったのは、剣で出来た針の筵……。
剣に囲まれて、ノヴァは身じろぐことすら出来なくなった。
──これが……【空ミル】最強格の実力……。




