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駅弁試食会 前編

 聖堂での祈祷を終えてオフィスに戻る。私は社長のデスクの前で、仲間の面々を見た。皆私の言葉を待っている。

「さて、人は集まった。資金も集まった。駅弁を販売する場所も整った。では、駅弁を販売するのに足りないものは何か?」

「はい! 駅弁そのものですぅ! もちろんそちらについても準備は着々と進めていますよぉ!」

 エミリアが手を挙げ元気よく答える。頼もしい限りだ。

「素晴らしい! では進捗を教えてくれ」

「はい! まず駅弁はその土地の名産品と名物を詰めたものだと伺いましたぁ。 そこで! 帝立ピンカーブリッジ大学の学食、農林水産学部、医学部栄養学科と掛け合い、試作品を作っている段階ですぅ。おそらく来週には試食会が開催できると思いますぅ」

「それは楽しみだ。ちなみにどんな駅弁を考えているんだ?」

「それは試食会の楽しみにとっておいてくださぁい! では、今日も試作に立ち会ってきまぁす!」

 エミリアは明るい笑顔でオフィスを出ていく。本当に彼女は頼りになる。いや、彼女だけではない。ここにいる皆が、頼りになる、かけがえのない仲間だ。


     *     *     *


 その週の水曜日のこと、最後の試作に行ってくるとオフィスを後にしたエミリアが、昼休み明けに戻ってきたーー満面の笑みで。

「皆さぁん! 試食会の日時と場所がきまりましたよぉ!」

 オフィスに湧き上がる歓声と拍手。エミリアは一人ひとりに小さな封筒を手渡していく。最後に私にも手渡した。

「どうぞ開いてくださぁい! 招待状ですぅ!」

 私は早速中身を確認する。そこには普段のエミリアの言動からは想像できないほど達筆な文字が並んでいた。彼女はドジなだけで、根は几帳面なのかもしれない。

 日時は来週月曜11時〜13時。集合場所は農林水産学部棟W103教室。出席者は我々駅弁商会一同、農林水産学部農学研究科教授フェルミ=サンドル、同畜産学研究科教授サーニャ=ペスカトーレ、医学部栄養学研究科教授アリッサ=モーメント。錚々たる面子だ。試食会のためにエミリアは教授陣との日程調整や会場の手配等入念に準備してきたのだろう。であるならば、この試食会を最高のものにしなければ。

「その試食会、グロース鉄道の方々も参加させるのはどうだろう? 実際に駅弁を売るのはグロース鉄道の駅構内でになるんだし」

 私の提案に、エミリアは頷く。

「分かりましたぁ! 用意する食材の量もあるので、今週中にお返事くださぁい!」

「もちろんだ。すぐにアポを取る」

 そう答えて私はグロース鉄道営業部に電話をかける。電話局とのやりとりの後、電話はすぐに繋がった。

「もしもし、リーザよ」

「リーザさん、直々にありがとうございます」

「いいのよ。御社からの電話は私が直々に取ることにしてるの」

「光栄です。それで、駅弁の試作品ができましたので、もしご都合よろしければ、御社から何名かご招待したいのですが」

「場所と日時は?」

「来週月曜11時から13時、帝立ピンカーブリッジ大学農林水産学部棟W103教室に集合です。ですので10時45分ごろ、正門にお越しいただければと」

「分かったわ。私は当然行くとして、企画部長のワグナー=アンドリュース、広報部長のマルシコフ=リビアンスキーも同席させるわ」

「承知しました。では来週の月曜日、お待ちしております」

 私はそう答えて電話を切る。そうしてルシアの方に向き直り言った。

「グロース鉄道からは三名いらっしゃる。当日の流れを説明してくれ。皆も聞いてくれ」

 私の指示に、皆静かにエミリアの言葉を待った。エミリアは懐から手帳を取り出し、朗々と説明を始めた。

「まず教室で私から、今回の駅弁のコンセプトを説明しますぅ。その後アリッサ教授とフェルミ教授、サーニャ教授より駅弁に使用した食材についての説明がありますぅ。その後研究農園を見学し、食材の実物を見ていただきますぅ。12時より医学部栄養学科実習室にて駅弁の試食を行いますぅ。その後意見交換会を行い、13時に解散という流れですぅ」

「ということだ。当日私とマラートヴィチはグロース鉄道の三人を出迎える。エミリアは教室で待機、アンリとルシアは実習室で待機していてくれ」

「「「「はい!」」」」

 欠けていた最後のピースがはまろうとしていた。



     *     *     *


 そして迎えた当日。私とマラートヴィチは10時40分から正門で待っていた。生前の日本と違ってじめじめしているということはないが、照り付ける日差しは容赦なかった。そして45分、彼らは定刻通りにいらっしゃった。私は初めてユニコーンというものを見た。ユニコーンが二頭立てで馬車を牽いてきたのだ。その光景に、ここがやはり”異世界”なのだと実感させられる。馬車の扉が開き、最初に降りてきたのはリーザさんだった。

「お迎えありがとう」

「こちらこそご足労ありがとうございます」

 私たちは固く握手を交わす。

「こちらがワグナーとマルシコフ」

「初めまして」

 私とマラートヴィチは名刺を差し出し、二人と交換する。ワグナーさんは歳は三十代後半だろうか、長い顎髭を生やし、こめかみから立派な角を生やした高身長の男性だった。マルシコフさんは歳は五十くらいだろう、恰幅が良く、丸い耳をしていた。

「では、案内いたします。こちらへどうぞ」

 そうして私たち五人は農林水産学部棟へと向かった。

 教室には演台が設けられ、すでにエミリアがマイクを手に待っていた。黒板の前には三人の教授陣の姿もある。私は教室の最前列の席に三人を案内した。そうして私たちの着席を確認して、エミリアが口を開いた。

「本日は我々駅弁商会の試食会にお越しくださりありがとうございますぅ。早速ですが今回の駅弁のコンセプトについて私の方から説明したいと思いますぅ。今回の駅弁のコンセプトはずばり、『帝立ピンカーブリッジ大学らしさ』ですぅ。具体的には、食材に帝立ピンカーブリッジ大学の研究成果を詰め込みましたぁ。それらについて弊学教授陣三名より簡単な説明がありますぅ」

「医学部栄養学研究科のアリッサです。今回の駅弁では、日ごろ不足しがちなビタミンを多く含み、過剰に摂取しがちな油分と塩分を避けることを意識しました。今回の駅弁はとうもろこしの生地で作った包み焼きパンですが、具材は肉と野菜をバランスよく入れることはもちろんのこと、揚げるのではなくフライパンで焼くことにより油を控え、味付けに塩ではなくレモン汁を用いることにより塩分を控えました」

「農林水産学部農学研究科のフェルミです。私からは野菜について説明したいと思います。まずパンの原料となるトウモロコシについてですが、ピンカーブリッジの気候では降水量は適量ですが気温が低いという問題があります。そこで、温室栽培を行っております。またニンジンや玉ねぎ、キャベツなどは、ピンカーブリッジの気候が生育に適していることから、収量を増やすことを重視して品種改良に取り組んでおります」

「農林水産学部畜産学研究科のサーニャです。私からは肉について説明します。まず、弊学で育成しているのは、肉付きが良く、食用に適した黒毛種です。ただ、赤身肉は焼くと固くなるという問題があります。そこで、パンに入れる前にほろほろに煮込むことで食べやすく仕上げました」

「それでは、農場に移動して実物をご覧いただければと思いますぅ」

 エミリアの進行により、教授陣は立ち上がり先導する。私はグロース鉄道の方々を促し、教授陣の後をついていった。

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