24話
「エマ、今日からしばらく二人きりでランチしないか」
「ええ、そうします」
ステラに話をしておいたので、休み時間に迎えにきたセオドアと二人で敷地内にいくつか設けられた東屋に歩いていく。
真っ白な東屋に緑の蔦が絡んで夏の陽射しをしっかり遮っていて涼し気な内部に、ピクニックみたいに食べ物がセッティングされていた。
「用意を頼んでおいたんだ」
この人はこういうところに気が回るのだとしみじみ感じ入る。
「二人でゆっくり食べよう」
それぞれ手にとって食事を進めていると、
「エマ」
ためらいがちに声をかけられる。
「その・・僕にも食べさせてみてくれないか」
「給餌行動ですね」
「うん」
オスカーにしたような、できるだけ汚さず食べられるものを探す。
「サンドイッチ・・スコーン・・アマレッティ・・どれがいいですか?」
「アマレッティを」
アマレッティ・・一口サイズのこのお菓子を給餌するのは難しいのでは?と思いつつ、ひとつつまみ上げてセオドアの口へと差し出した。
開けられた口に放り込めばいいのかと思っていたら、セオドアが私の指ごと口に入れる。
「!!」
微かに濡れた自分の指をどう扱えばいいのだろう。
困惑していると、目の前にアマレッティが差し出される。
「エマもどうぞ」にっこり笑うセオドアに、否と言えず口を開けると、そっと口の中へ押し込まれたあと、唇を人差し指で押さえられた。
口の中でアマレッティが溶けていく感触と、セオドアの指が触れている唇がこそばゆくて体温が上がった気がする。
「唇が震えてる」
そんなことを言われてもどうしたらいいかわからない。
「キスをしても?」
むず痒い唇をどうにかしたくて頷くと
「ダメだね」
オスカーの声が割り込んてきた。
「オスカー、邪魔しないで」
「くっ」
「オスカーが邪魔しても、私はセオドアとキスをするわ」
「ダメだ」
「セオドア、オスカーがものすごく邪魔です」
「本当に」
「邪魔をしにきたんだから最高の褒め言葉だな」
そう言いながら私の隣に腰を下ろす。
「オスカーが執念深さを発揮してるわ」
「自分でも驚いてるよ」
「あのー・・・邪魔をすればどうにかなるとおもってらっしゃる?」
「二人が仲良くなるのを見ているだけなんて無理だ」
「だから、参加していると・・」
「ダメです邪魔です。今はセオドアとわたくしの蜜月です!」
「どうしよう、エマがかわいすぎる」
「セオドアといちゃいちゃしたいの!」
「犬のときは私といちゃいちゃしたじゃないか!」
「乗っかる前に私の意識はあの世界から消えてます!」
「「あ、そうなのか」」
「それに今は人間です。犬のピュアな思いを再現したいと思ったこともあるけど、私はもっと深い愛を体験したい」
「私とだってできるじゃないか」
「わたくしが決めたの、セオドアと愛を深めていきたいと。邪魔もいらないし、もどかしさもいらない。プラスかどうかを確認するためのマイナスな要素などいらないのです!」
「わ、私がマイナス要素・・・」
「だいたい邪魔をすればどうにかなると思っているのが傲慢すぎるわ」
「う」
「だけど、今日だけ見逃してあげる。もうすぐ夏休みだもの。私とセオドアはオスカーのいないところでいちゃいちゃ仕放題です」
「エマはどんなことがしたい?」
セオドアが私の手を握って優しい声できく。
「いちゃいちゃの限りを尽くしたいけど、具体的に何をすればいいのかわからないの」
「じゃあ・・僕がいっぱい考えておく」
「私を無視するな」
□ □
夏休みに入った途端、新商品のポスターが街中に貼られた。反響がすごいとリカルドから呼び出される。
「予想通り相手によって変わる香りが売れている」
「へえ」
「なんだ、興味ないのか」
「ここへ来るまでの間、セオドア・オスカー・セオドア・オスカーの繰り返しで凄かった」
「ああ、そうそう。面白いことになってるんだ」
「?」
「エマに似合うのはオスカーだと主張する派閥と、セオドアこそがエマに似合うと主張する派閥に分かれて、日々論争になってるらしい」
「はい?」
「君たちに理想像を重ねているんだろう。話題になるのは大歓迎だ」
「そんな他人にはどうでもいいことで論争に・・」
「今のところ半々だな」
「私はセオドアと付き合っていると発表しましょうか」
「それは禁止」
「お、鬼」
「ひと月は内緒にしておこう」
「それに従わなきゃならないという契約はかわしていないはずですね」
「まあ・・そうだな」
「わたくし・・・大通りの真ん中でキスをしてみたかったんです」
「ははっ・・・いいぞ、それはそれで話題になりそうだ」




