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フィリーチェの真実

祝50話。

「エーディス様、ごきげんよう。……舞踏会の件、どうなりましたか?」


 休憩中、良いタイミングでやってきたフィリーチェ嬢。

 エーディスさんは、茶化すクリオロさんから逃れるためなのかフィリーチェ嬢を部屋に連れ込む。(いや、連れてっただけですハイ)


「一つ、お聞きしておきたいのですが」

「な、何でございましょうか」

「どうして俺なんですか?」 


 そう、ごもっともな質問をフィリーチェ嬢にぶつける。

 うぐっと言葉を失う彼女に、エーディスさんが畳み掛ける。


「どうも、なにか理由があるように思うのですが。良ければお話していただけませんか?」

「……そう、ですわね。ご迷惑をおかけするのですから、正直にお話します」


 フィリーチェ嬢が俯き唇を噛みながらも小さくそう言った。

 真相が明らかに……?

 ちゃっかり同室させてもらっている私は部屋のオブジェクトになりながらも聞き耳を立てる。


「実は、わたくしに婚約話が持ち上がっているのです」

「グレルゾ卿ですか」

「ご存知でしたのね……。はい」

「家柄的にも問題ないように見受けられますが、やはり嫌なのですか」


 やはりって言っちゃったけど、グレルゾ自体は見た目と家柄もありそこそこモテているらしい。しかし浮名を流しすぎていて嫌がる女性も多いようだ。

 フィリーチェ嬢が頷く。


「ええ。浮気性の男性ですし。……それに、わたくしには想う方がいるのです」


 キタキタキター!!

 これはペルーシュさんじゃないのか!?

 ドキドキしながら話の続きを聞く。


「その方にエスコートして頂くことはできないのですか?」


 エーディスさんの問いに、目を伏せるフィリーチェ嬢。


「……おそらく、わたくしが頼めば承諾するとは思います。

 ですが、それではダメなのです」

「ダメ、とは」

「約束、しているのですわ、彼と。……わたくしを迎えに来ると。

 ですからわたくしから行っては意味がないのです。彼の意思で来てもらわないと」


 これはペルーシュさん確定だろう。ほっと胸を撫でおろしつつ、もはや野次馬根性丸出し耳ダンボで話を聞く。


「約束、ですか」

「ええ。わたくしが学園を卒業する前までに、迎えに来てくださると言ったのです。……相手については何も聞かないでくださいな。

 ですからわたくしは特定の相手を作らず待っていたのですが、いつまで経っても婚約の決まらない娘にしびれを切らした両親が見合い話を持ってくるようになりましたの。

 断っていたのですが、学園を卒業するまでに婚約が決まらないとは侯爵家の娘として恥だと……それで断りきれなくなり、それまではお兄様にエスコートしてもらっていたのですが前回はグレルゾ様に……」


 悲痛な面持ちでエーディスさんを見つめ、頭を下げる。


「申し訳ございませんエーディス様。わたくし、貴方を利用しようとしたのですわ。

 実はわたくしの母がエーディス様のファンでして……。エーディス様を連れていけば、グレルゾ様より母は喜ぶと思ったのです。そうしたらグレルゾ様との婚約話をなしにしていただけるだろうと。父は母に甘いので」

「俺は婚約する気はありませんが……」


 エーディスさんが口を挟むと、わかっていると頷くフィリーチェ嬢。


「エーディス様は男性の方のほうがお好きなのでしょう?」


 エーディスさんがピシリと固まる。あらら……。

 気づかずフィリーチェ嬢は話し続ける。


「わたくしの従者たちと人選には気を配ったのです。家柄や見た目やグレルゾ様に勝てそうかなど、総合的に判断してエーディス様に決めましたが、決め手はその点にありましたわ。

 一応念のため、色々とその、はしたない真似をしまして本当にそういう方なのか確かめさせて頂きましたが……」


 あの積極性は、エーディスさんが女性に不埒な真似をしないかどうかのテストだったと言うのかぁー!?

 だから妙に従者の二人が近くまで寄ってたのか……?イザとなったら止めに入るために?


「その点に関しましては本当に失礼なことを。大変申し訳ございませんでした……今思えば、初めから頼んでいればこれほどご迷惑をかけなかっただろうとは思うのですが、言い訳になってしまいますがわたくしも少し焦っておりまして……本当にすみません」


 深々と頭を下げるフィリーチェ嬢。

 エーディスさんは能面のような顔をしていたが、謝罪にはいや、いい。とだけ頷き呟いた……。

 それを聞き、ホッとした顔を上げるフィリーチェ嬢。


「エーディス様がお優しい方で本当に良かった……。

 その後は、お友達になってもらえたら頼みやすいかと押しかけてしまいました……。

 本当に、初めからお伝えしておくべきでしたよね。ご迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。


 それで、次の舞踏会でエーディス様をお連れして婚約話を白紙にしたいのです。

 なんとなく、グレルゾ様にエスコートされてしまうとおそらくそのままその日のうちに婚約まで話を持っていかれてしまう予感がするのですわ。

 わたくしの都合を押し付ける形になってしまっているのは大変心苦しいのですが……わたくしにできることはなんでもさせていただきますので、どうかお願いできませんか?」

「解りました。ではエスコートだけはさせて頂きます。しかし以前もお伝えしたようにエスコートまでしかできませんが」


 エーディスさんが言うと、彼女はパァっと表情を明るくする。


「本当ですか!ああ、本当にありがとうございます。わたくしの持てるすべてを出してこのお礼はさせて頂きます!」


 何度も何度も頭を下げるフィリーチェ嬢。


「ついでと言っては失礼なのですが、この日、お時間はございますか?」

「午後からでしたら……」

「でしたら、その時間で少し、打ち合わせをさせて頂けますか?申し訳ございません、このあと予定がありましてそろそろ行かねばならないのです」

「解りました」

「本当にありがとうございます!それでは、宜しくお願いいたしますわ!」


 フィリーチェ嬢が去っていく。

 これはペルーシュさんに追い風が吹いていると見ていいと思われるぞ。


 しかし、フィリーチェ嬢が出ていったあと。


「ペルーシュには、内緒だよ」

「え?」


 エーディスさんに言われた。


「フィリーチェ嬢の想い人ってペルーシュなんでしょ?君たちがなにか企んでるのかは知らないけど、ペルーシュはこの間のアレで流石にわかった」

「だったら、教えてあげてもいいんじゃ?」

「彼女、言ってたじゃないか。彼の意思で来ないとダメなんだって」

「確かに……」


 まあ、ペルーシュさんは行く気になってたからそこまで気を揉まなくて良くなっただけ良しとするか。


「でも、エーディスさん優しいですねぇ、普通怒りますよ」

「怒りたいよ……」


 はあ、とため息をつくので、よしよし元気出してください、と肩を叩く。


「そう言えばエスコート、お仕事なのにいいんですか?」

「ま、相手がグレルゾだからね。万が一ほんとに婚約になったらちょっとかわいそうかなと」

「やさしー!」

「でも、エスコートだけだよ。それ以上は何かするつもりはない。たとえそのあとグレルゾと婚約になったとしてもね」

「まあ、ある意味巻き込まれてるだけですもんね……」

「そうそう。どうにかするのは向こうのすること」


 話ながら練習に戻りつつ、思い出したことを伝える。


「あ、そうだ。フィリーチェ嬢が言ってた休みの日、私朝から出かけますね」

「そうなの?わかった。……どこに行くの?」

「うーん、先ずはカシーナさんちにお邪魔します」

「え?自宅?」

「まあ、寮ですけどね。で、その後ペルーシュさんと街へ行くつもりです。遅くなるかもしれないので、夕飯は作っておいたほうがいいですかね?」

「……カシーナさんは?」

「街でお別れですよ。あんまり聞かないでくださいな、野暮ですよもう〜」


 カシーナさんはアラグさんと(たぶん)デートなのだ。そこは言わないでおいてあげる優しい私。

 エーディスさんは訝しげに少し首を傾げたが、それ以上追求はしてこなかった。

 エーディスさんがふと、沈んだ顔で私をちらりと見やって言う。


「ねえ、ツムギ……」

「どうしました?」

「俺、やっぱりそっち系に見られてるのかなぁ……」



 さっきの話めっちゃ気にしてるー!!!

 眉を下げて縋るような目を向けてくるエーディスさんに、私は重々しく頷く。


「私も殿下とデキてるのかという話に関しては否定して回ってるんですが……先日とある方にも聞かれました。

 私とエーディスさん、そういう関係なのかって」


 エーディスさんの顔がみるみる赤くなる。

 私は安心させるべくにっこり笑って頷く。


「もちろん否定しておきましたよ!安心してください。

 だからそう見られてる可能性は高いですけど、まあ言わせておけば良いんじゃないですか?」

「そ、そう?」

「そうですよ。まあ、エーディスさんに好きな女性ができたらそういう噂が厄介になるかもしれませんが……」

「ツムギは、良いの?」

「私ですか?別に言われたら否定しておきますから大丈夫ですよ」

「うーん。そうか、大丈夫なら、良いんだけど……」


 歯切れ悪い物言いが気になったが、この話はこれで終わりになった。


50話記念になにかショートストーリーでも載せようか迷いましたが、

もう少し話を進めてからにしようかと。


というわけで、次話で登場人物紹介でもしたいと思います。明言を避けてた年齢も明らかに。

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