作戦会議
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一体何と言って励まそうか……。
そう思いながらこの世の終わり的な雰囲気を漂わせているペルーシュさんを見つめていると、誰かがやってきた。
振り向くと、クリオロさんが楽しそうに馬場にやってくる。
「おっす!またあのお嬢様来てたけど」
「なんか舞踏会でエスコートしてもらえないかって言われてたよ」
「ヒュー!さすがにモテるぜエーディスさんよ!」
ルシアンさんに言われ、口笛を鳴らすクリオロさん。
エーディスさんがめんどくさそうに肩をすくめる。
「行けるかはわかりませんけどね」
「ていうかお前らそんなに進展してたのか〜」
ああ、やめたげて!進展してるのひとことにペルーシュさんが再起不能になってしまう!
「進展なんてしてませんよ。全く、すぐそういう方に持ってかないでください」
エーディスさんが言うと、クリオロさんが不満そうに口を尖らせる。
「なんだ?あの可愛い子とまだキッスもしてないのか?
かー、わかってないなぁ。俺なら可愛い子を見つけたらこうだぜ!」
!?
ぐいと急に体が引っ張られた。
気づいたら視界が回って、目の前にクリオロさん。
腰だめを抱えられて、覆いかぶさるように。顔と顔があと数センチ近づいたらぶつかる!と言った状況。
まるで社交ダンスのワンシーンのようですらある。
私は目を見開いて視界いっぱいのクリオロさんの顔を見つめる。
たっぷり2秒ほど見つめ、感想を述べる。
「いや、さすがの手腕です」
「だろ?」
「……」
!?
また引っ張られる。
気づいたら今度は瞬間移動してきたエーディスさんに抱き寄せられた。
そのまま距離を取られる。
「なにを……!」
「えー?だからこういう感じで積極的にだな……イテッ。なにすんだ」
ルシアンさんに後頭部をはたかれるクリオロさん。
「いいから謝っとけよ」
「え〜?別に何もしてないだろ?煮えきらないエーディスに実践的に視覚的なイメージをだな」
「ばかたれ」
クリオロさんをルシアンさんが叱っている。
「ツムギ、大丈夫か!?」
こっちはこっちで、エーディスさんに詰め寄られて笑って頷く。
「何もされてませんよ、びっくりはしましたけど本気じゃないのはわかりましたし」
「ほら見ろ!……イテッ!」
「謝っとけって」
「あー、なんだ、すまんな」
ギロリと睨みつけるエーディスさん。いやだから平気ですよ?
まあこのあいだの件もあるから過敏になってるのかも。
「むやみにツムギに触らないでくださいよ?」
「あー、うん。わかったよ」
とりあえずこの場は有耶無耶となったが、私はペルーシュさんを連れ出した。
ルシアンさんが気にして、こちらに視線を寄越してくるので、任せてくれと頷いて部屋を後にする。
「……」
「ペルーシュさん、そんなに落ち込まないでください」
「これが、落ち込まずにいられる……?」
「別に結婚が決まったわけじゃないですよね?」
「まあ、そうだけど、俺よりエーディス副長を選んだことは一目瞭然じゃないか……」
泣きそうになっているペルーシュさんをなだめる。
「たかがエスコートじゃないですか」
「されどエスコート、だよ」
「うぐっ……でもペルーシュさん、迎えに行くんですよね?」
「こんな状態で行けるわけ無いだろ……迷惑がられて終わりさ……」
「諦めるんですか」
「ああ……。迎えに行くための準備はもうほとんど終わってたんだけどな……俺は間に合わなかったんだよ」
「ほんとに諦めるんですか?それでいいんですか!?」
「仕方ないだろう……?」
「諦めたらそこで試合終了ですよ!?」
某バスケ漫画の名台詞を用いて必死に励ますと、ペルーシュさんがうっそりと顔を上げる。
「諦めたらそこで試合終了、か。君はあれを見てよくそんなこと言えるね」
「私には貴族の暗黙のルールだとか機微だとかよくわかりませんけど、ペルーシュさんはまだフィリーチェ嬢にぶつかってないじゃないですか。
それなのに諦めたらきっと一生後悔しますよ」
「……」
「潔く、迎えに行って、気持ちを伝えてからでも諦めるのは遅くないですよ!」
「……そう、だね」
ゆらり、ペルーシュさんが立ち上がる。
その背後にはオーラのような何かが立ち込め、まるで陽炎のように見えた。
ペルーシュさんが強い視線を向ける。
「決めた、決めたよ。俺は舞踏会に彼女を迎えに行く!」
「ペルーシュさん!!」
よかった、思いとどまってくれたようだ!
そうと決まったら早速作戦会議である。
しかし、今現在進行形で練習をサボっているので終わってからにすることにした。
「ペルーシュ戻りましたぁー!遅れてすみません!」
「おう、早速やるぞ!」
やる気を漲らせたペルーシュさんに引っ張られ、皆練習に身が入る。
練習が終わり、王宮に寄ると言うエーディスさんと別れペルーシュさん、アラグさん、カシーナさんと帰宅の途につく。
「いやあ怖かったな、エーディス副長」
「ほんとよねぇ」
「てかあれでクリオロさんが超愛妻家って言うのが信じられないよなぁ」
「え、マジですか」
「これがそうなのよ。俺の奥さん世界一~って人目もはばからず言うんだから」
なんとも、不思議な夫婦関係である。
カシーナさんが眉をひそめて言う。
「まあ、クリオロさんはともかく、他の人には気を付けなさいよ?あなた可愛いもの、変な気起こすやつがいてもおかしくないわよ?」
「え?またまた。なにを……」
「そうだぞ、油断するなよ」
「貴族連中でも実はそっちのケがある人けっこういるよ?表向き女性と結婚してても愛人が男とか、普通にあり得るからね?」
ペルーシュさんにも説教されてしまった。
まあ、それは身にしみました……。
「すばり聞くけど、エーディス副長とはそういう関係だったりする?」
「アラグ、それはズバリ過ぎるだろ!言葉を選ばないと……」
「あー、いやいや、なんにもないですよ、ちょっと過保護になってるだけです」
「そうなの?」
「そうです」
「あの怒りようはてっきり……」
はいはい、と受け流すと、話の中心はペルーシュさんへ。
「で、ペルーシュ、どうしたっていうんだ?」
「何かありました?バウルム侯爵令嬢と」
アラグさんとカシーナさんにも完全にバレている。
そうして、ふたりにも事情を説明することになった。
「え!そうだったんですか!すみません俺ってば軽々しい口を聞いて……」
「い、いや、いいよ、今まで通りで。騎士同士同僚なんだしさ」
アラグさんは私同様ペルーシュさんが良いところのぼっちゃまだったことを知らなかったらしい。
カシーナさんは知っていたようだが。
まあ、騎士は貴族の家同士のしがらみより年功序列とか、騎士としての位を気にすることが多いので、家の栄光を振りかざすモレルゾたちのほうが少数派のようである。まあモレルゾは騎士の位も高いから手がつけられないのだけど。
「とりあえず、立ち話も何だしどっか入りません?」
場所を変え、晩ごはんを食べながらの作戦会議である。
「と、言うわけです」
「素敵じゃない!頑張って!」
「よし!で、どうする?」
「実はすでにプランはあって準備はしてたんだ。スレンピックの後にしようと思ってたんだけど、早倒しすることにした」
「えっなになに、なんですか!」
ペルーシュさんの話を聞く。ほー!なるほど。
「良い!」
「それで行こう!」
「あとは、細かい作戦ですね!」
ペルーシュさんの案を聞き、皆賛成した。フィリーチェ嬢も喜ぶであろう。たぶん。
「フィリーチェ嬢の心をグッと鷲掴みにするような『お迎え』にしたいところですね!まあ、そのプランの時点で良い感じですけど、更に!」
「何かプレゼントとか持っていったら?」
「良いですね!」
「あとはお前の、服装とか?」
「侯爵家の力でピシッと揃えられるでしょ?」
「髪型はどうにかすべきと思うわ。暗いもの」
カシーナさんの指摘に、伸びた前髪をいじいじするペルーシュさん。
「髪、ここ数年は切ってないなぁ……」
結ばれ、背中まで垂れている焦げ茶色の髪は伸ばしっぱなしらしい。洗髪しても乾かすのが向こうに比べれば格段に早いから長くても苦にならないのだろう。良いなぁ。
「眼鏡は?」
「ああ、これは伊達なんだ実は」
「なにゆえ!?」
「あんまり目立つとやっかまれるからね……」
良いところのおぼっちゃまも大変だな。
ていうか、ペルーシュさん正直地味さがアイデンティティになってね?
地味じゃない俺なんか俺じゃないよ的な……。
眼鏡をはずさせると、思ったより、イイ!
「ペルーシュさん……当日は眼鏡NGでお願いしますね……!髪も、思い切って切りませんか?必要ありそうなら考えますけど……」
「ん?いや、別に切りに行くのが面倒で伸ばしてただけだから」
「じゃあ切りましょう!」
良かった。エーディスさんは自分の髪も複雑な魔法使うときの媒体にするときがあるらしくて、なかなか切れないと言っていたけど、そういうことはないらしい。
「プレゼントはどうしましょう」
「なにか、彼女の好きそうなものは知らない?」
「……いや、全然検討もつかない……」
「じゃあ女の子が好きそうなお店で選ぶしかなさそうですね。どなたかご存知ですか?」
私が聞くと、カシーナさんとアラグさんが顔を見合わせる。
「ん?おふたり、何か知ってそうな……」
「え、ええ。流行りの、ってわけではないのだけど、人気のお店があるらしいの」
「おお!じゃあペルーシュさん、そこへ行って選びましょう!」
「あー。うん、なんかな、その店は、男女ペアじゃないと入れないんだ」
「え?」
その店は、贔屓の貴族も多い高級店。
繊細なデザインのアクセサリー類を多く取り揃えるジュエリーショップらしい。
庶民の間でも、一生に一度の贈り物にと選ぶ男女の来店か絶えないようだ。
しかしこの店、男女ペアか、女性一人もしくは女性グループでないと入店を拒まれる。
女性が安心して買い物ができるように、と言う配慮らしいのだが、斜め上の解釈となり、この店のアクセサリーを持っていればそれを贈ってくれる男性/貰ってくれる女性がいるよ的な、向こうで言うペアリング的な意味合いを持つようになった。
なので、恋人、夫婦の証として以前から人気がある店だということだった。
「例えば男性二人に女性一人とかでも駄目なわけですか」
「男性は二名以上は一緒に入れないのですって」
「ペルーシュさんのおうちの力でお店呼べないんですか?」
「珍しく、出張はしない方針のお店らしいの」
「困りましたねぇ。今度の休みで買わないと間に合わないですよ……カシーナさん、付き合ってもらえませんか?」
みんなで一緒に練習するため、今チームのメンバーの休みを合わせているのだ。
モレルゾチームが心を入れ替えて作業してくれるようになったためとても助かっている。
カシーナさんは目を泳がせた。あれ、予定があったのかな。
アラグさんが首を振る。
「ごめんペルーシュ、次の休みは俺とカシーナさんでその店に行ってみようと思ってるんだ」
「えええー!?」「な、なに、なにぃー!!?」
私とペルーシュさんが驚きの声をあげる。
カシーナさんが赤くなって慌てた様子で事情を説明した。
「あー、勘違いしないで、実はあたしの家で結婚の話が出てて、うるさいからアラグに恋人役を頼んだの。次の舞踏会で親に披露しなきゃいけなくなって……」
「その店のアクセサリーを揃ってつけてれば、もう余計なこと言われなくて済むだろって、俺が言った」
ほ、ほうほう!
二人にはそんな秘密が……。思わずニヤけそうになるが二人に申し訳ないので抑える。
あれは、アラグさんはマジだぞ……。ふ、ふひひ。
「な、なるほど!それなら仕方ない」
「じゃあどうしたらいいかな?俺、アクセサリーとか全然わからない……」
よし、ここはペルーシュさんのためにひと肌脱ごうではないか。
「では、私と行きましょう」
「え、でも男同士だと入れな……」
「私が女装します!」
ペルーシュの『迎え』、どうなることやら。一人称で詳細知ってるのに言わないっておかしいですかねえやっぱり……。
でも、書いたら面白くないよねぇ……。




