8話 悪だくみする兄弟(ザジム視点)
「おい、今の二人組は何者だ!」
俺は冒険者ギルドに戻ると受付のねーちゃんにそう尋ねる。
「ざ、ザジム様落ち着いてください」
落ち着かせようとするが、そんなの知ったこっちゃない。
なにせ大物がきたのだ。
しかも二人もだ。
一人はCランクの俺を一発でぶっ飛ばすバケモノ。
もう一人は初級とはいえ無詠唱の回復魔法の使い手。
どちらもとんでもない奴だ!
「守秘義務があるので、登録情報の開示は受け付けませんよ」
まあ、そうだろうな。
そんなのは知ってるさ。
「上にいる兄貴と話がしたい。それなら問題ないな」
「ええ、それでしたら問題ありません」
受付のねーちゃんの許可を受けると、慣れたように職場の奥の階段を上がり二階のギルドマスターの部屋に向かう。
「おう、兄貴! とんでもねー新人がきたぞ!」
ノックもなく部屋に入れば、そこには俺に負けず劣らず――いや、俺以上の立派な筋肉をまとった男が椅子に座ってこちらをにらんできた。
「仕事中だ。帰れザジム」
俺の兄であり、この王都のギルドマスターを務める現役Aランク冒険者のゴーラル。
その殺気を受ければ並の奴なら腰を抜かしてるだろう。
俺は慣れちまったから何食わぬ顔で部屋に入り近くの椅子に腰かける。
「スゲー新人がきたんだよ。しかも二人もよ! だからすぐにでも教えてやろうと思ってさ!」
「そうか」
机の書類に目を向けながら適当にあしらってくる。
さて驚かせてやるぜ。
「一人はこの俺を一発でぶっ飛ばすバケモノだぜ」
それにピクッと反応すると机から目を離して俺をジッと見つめてくる。
「もう一人は初級回復魔法使いだが無詠唱の使い手だ」
おうおう目の色が変わったな。
へへへ、兄貴も強い奴は大好きだからなー。
もう興味津々だろうぜ。
「今日から冒険者デビューだってよ。俺が何を言いたいかもうわかるだろ?」
「近々行われる大規模討伐に参加させたいってことだな」
「おうよ」
そこで悔しそうな顔をする兄貴。
「今日からってことはランクはFか……最低でもDランクからでないと参加は無理だ」
「そんなのなんとでもなるだろ」
思いっきり睨まれる。
「規則は守るためにあるものだ。破るためにあるんじゃないぞ」
流石に無茶だったか……。
「だが、大規模討伐まであと10日ある。それまでにランクがDになっていれば話は別だなが」
「なるほど」
俺と兄貴はニヤリと笑いあう。
「有望な若者をFランクで足踏みさせておくのは心苦しいからな。おぜん立てはしてやろう。あとは上手くやれよ?」
「任せとけ兄貴!」
俺は意気揚々と部屋を後にするのだった。