15話目
「こんにちは、こちらで絵を学べると聞いたのだけれど」
おばあさんの後ろについて町まで出てきた。
こういう外出は久しぶりで楽しい。
この町はユキとのデートのときに行った港町より活気はないが、それでも人々の笑い声行き交っていて素敵な町だ。
いるだけでこんなに楽しいなんて!
少し、臭いがするけれどそんなの気にならないぐらい面白かった。
エルデウォーゼの領地内の町なのだが、初めて来るので新鮮だ。
「ほぉ、こちらのお嬢さんがですか?」
「えぇ!私の親戚の娘なのだけれど、すごく絵が上手なのよ。神様に愛されているのよ!」
おばあさんがものすごい説明を始めているけれど、どうしましょう?まぁ、相手をしている先生らしきお兄さんは微笑ましく聞いているけど。
孫を可愛がるおばあさんを見ている感じ…。
「ねぇ、ねぇ!新しい子?」
「なぁ、お前今日から来るの?」
おばあさんの後ろに隠れてぼーっとしていたら、突然男の子と女の子に話しかけられた。カリアと同い年ぐらいだ。
双子だろうか?すごくそっくりだ。
「え、うん!そう、今日はお試しで…」
子供らしく砕けたものいいよ!意識、意識。
「へー、よろしくな」
そう一言残して男の子はさっさと部屋の奥へ行った。興味を無くすのが早い。この年頃の男の子たし仕方ないのかもしれないけれど。
「よろしくね!あたし、ニーナ」
一方女の子は残ってキラキラした瞳で私を見つめてきた。可愛いなぁ…。
「よろしくね!私、、」
ふと、名前を名乗ろうとして迷った。
あれ、カリアって珍しい名前よね?しかもここはエルデウォーゼの領地。
迂闊にカリアって名乗ったら正体がバレてしまうのではないの?
私はおばあさんに視線をよこす。
それに気付いてかおばあさんは私に呼び掛けた。
「あらあら、待たせちゃってごめんなさいね。先に行ってもいいわよ、エリー。」
「はい!おばあ様!!」
私はさっさとさっきの男の子の行った方へニーナちゃんと向かう。
了解、偽名はエリーね。
すごく安直につけた感じがするけど無難でいいと思うわ!
それよりもおばあさんの演技力の高さに私は驚いた。うーん…、今のうちに取り込んでおこうかしら。
そんなことを思いながら、私はニーナちゃんに向かって笑顔で自己紹介した。
「私、エリーよ。絵の勉強ができるのよね、楽しみだわ!」
「ふふっ、エリーかぁ。エリーはどこの家の子なの?」
「えっ、それってどういう?」
さすがに身分を明かすわけにはいかないので私は一瞬固まってしまった。
「だーかーらー。ここね、身分によってグループが別れてるの。絵を勉強するなんて富豪の子供とか裕福な農民とかだもの、あなたもそうなんでしょ?」
なんと、この小さな学舎でも階級があったらしい。
まぁ、そうよね。貴族や王族がある時点でそういうものは確立されるのは当然だもの。
さらに、絵を学ぶとなればそれなりのお金と才能があることが大事なのは確かだ。
さて、どうしようかしら?そうだ、いっそのことカリアの市民からの印象を聞けるように身分を言ってみようかしら!
私はニーナちゃんに内緒話をするようにこしょこしょと話始めた。
「私ね、おばあ様に預けられているんだけど。実はおばあ様は領主様の専属メイドなのよ!だからお嬢様にも気に入られているの」
「え!凄いわ…!」
ニーナちゃんは素直に驚いてくれた。
そうなのだ、エルデウォーゼで長年働いている従者は尊敬される。
主に従者首切り魔だったカリアのせいで。
さらにここにカリアのお気に入りというともっと凄い!と思われる。
我ながらどうかと思うが…。
カリアの行動が自分の家の従者の価値をかなり高めていたことに始めて気づいたのだった。
また、重宝されている従者というのはお給料が裕福な農民よりも高くなっているためこの点でなめられることはない。
まぁ、平民だっていうのは変わらないものね。
それに私の発言に嘘はほとんど含まれていない。あるとしたらお父様の専属って部分かしらね。でも重宝されているのは確かだし私が気に入っているのも確かよ。
「もしかして、エリーはエルデウォーゼのお嬢様見たことある?」
「う、うん!あるわ。金色のキレイな髪のお嬢様だったわ」
「「それで?」」
勢い余って、答えてしまったがニーナちゃんだけでなくその場にいた何人かの子供たちに食いつかれた。
「えっ、とそれで?って」
子供たちは口々にカリアについて話始めた。
私が聞きたかったことだ。
「お嬢様って、我が儘なんだよね?」
「性格悪いって聞いたよー」
「あ、俺。メイドが9人いなくなったって聞いたぜ!」
「えー、12人だよ!」
「20じゃなかった?」
「怖っ!」
「でも美人なんだろ?」
「ブスって聞いたよ私は!」
みなさん、カリアへの偏見すごいわね?
かりにもここ、エルデウォーゼの領地内の町ですよ?
あと、その我が儘令嬢カリア様本人が目の前にいますけどね。
昔のカリアさんなら笑顔で潰してそう。