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第44章 1人じゃいられない夜



しょうがないので姉貴に電話してみた


「え、千楓ちゃんまだうちにいるの?」


「あ、ああ色々あってな」


「何カッコつけてるのよ!何がどうなって女の子を夕方まで大雨の日にいさせてるの!」


めちゃくちゃ怒鳴ってくる


「いやだって姉貴がすぐ帰ってくるとおもってたからよ。そしたら送ってもらおうと…」


俺がそういうと思いっきり大きなため息が聞こえてきた


「千楓ちゃんは?今どうしてるの」


「千楓はいま…家に電話中」


耳にスマホ当てたまま千楓のほうを見るとまだ電話していた

向こうも受話器から声が漏れてるあたり相当怒られてるようだ


そして千楓もこちらを見る


「どうだ?千楓んちは」


「ウチも今すんごく怒られてる…昨日の今日で、

なに迷惑をかけてるんだ!って」


ウチも…ってことはこっちの電話も丸聞こえだったか


らちがあかないのでうちの姉貴と千楓の母親とで話し合いがなされた


その結果…


「千楓ちゃんはウチに泊まってもらいます」


「は?」


「は?じゃなくて泊まってもらいます。今は連休中だから明日も休みだし」


「いやいやいや」


「じゃあ他に案があるの?」


「ないです。」


「よろしい…千楓ちゃんに代わってもらえる?」


「わかった…千楓」


姉貴と千楓が話をする


千楓が電話をしながらウチの中のあちこちをウロウロして確認している


姉貴の部屋にも入ったりしているから

たぶん男ではわからない女性のアレコレだとは思う


俺は聞いてはいけないと思いスマホを弄ろうと探すとないのに気づく…色々なとこを探していると電話をしていた千楓が声をかけてきた


「ありがと…何探してるの?」


「スマホ…」


「これのこと?」


千楓に差し出されやっと気づいた

貸していたことをすっかり忘れていた


相当動揺しているな


「んで?姉貴はなんだって?」


「あ、うん凛さんの色々使っていいってさ」


「そうか…よかったな」


「ちょっと下着が心配だけどね。凛さん大きいし」


自分の胸の辺りを触れながら落ち込む千楓に俺は


「千楓だってそんなに小さくねえだろ。昨日背負った時の感触だって…」


「感触?」


千楓が怪訝な顔でこっちをみてきた


「……いやなんでもねぇ」


「えっち」


「すまん」


色々とゴタゴタしたがとりあえず風呂に入ることにした…もちろん一緒にではない


千楓には先に入ってもらってその間に夕飯の準備を軽くしよう


そうしないと余計なことを色々考えてしまう


風呂場から聞こえてくるシャワーや水の音が姉貴が入ってるのとほぼ同じなのにやはり気になる


どっどっどっどっ


冷蔵庫を見ながら鼓動が早まるのを感じる


ちっ!


心の中で舌打ちをする

いくら目を引く美少女とはいえ、同級生にこういう感情を抱くのは自分に対して嫌悪感を抱いてしまう


「情けねー」


ガララッ


独り言を発していると千楓が風呂から出てきたみたいだ


夕飯のことが考えられなかったな


カチャッとリビングに繋がる扉が開くと千楓が顔だけ出してきた


風呂上がりのせいか…かなり顔が赤くなっていた


「どうした?」


「ごめん雄平くんさ…Tシャツか何か貸してくれない?」


「おれのか?良いけど、なんで?」


「ち、ちょっと凛さんから借りたものが大きくて…もう一つ上に着るものあると嬉しいなというか」


姉貴のものが大きい?


背丈でいうと千楓の方が高いし姉貴も太ってはいないし俺の方がデカいし…あ、そういうことか


「わかった…ちょっと風呂場で待っとれ」


「う、うんごめんね」


自分の部屋でなるべくゆったりで生地が厚めの服を探すことにした


ゴンっ!!!


そして煩悩を消すために自分のこめかみをぶん殴る


ジンジンとした痛みを抱えながらなるべく千楓の顔を見ながら服を渡す


「ほらこれきなよ。洗ってあるし大丈夫だと思うぞ」


「ありがと」


さて俺も風呂入る準備してくるか


ゴンッ!!!


ーーー


カチャッ


俺も風呂から出ると千楓がソファに座っていながら袖を口元に当てていた


「悪い、臭かったか?」


「ううん!だ、大丈夫大丈夫!良い匂いだよ、良い洗剤使ってるね」


「サイズはどうだ?」


「バッチリだよ、良い感じに隠れ…い、いやサイズもバッチリ!」


「そうか、ならよかった。さてメシどうすっかなー」


「あたしも何か手伝うよ。何作るの?」


「うーん、ラーメンは昼に作ったしな〜千楓は何食いたい?」


「少し軽めだと嬉しいかな…昨日祝勝会で食べすぎたし」


ウエスト周りを気にする千楓


「そんじゃあ、蕎麦にするか。麺類が昼とカブるけど大丈夫か?」


「いいね!どんなお蕎麦?」


「少し肌寒いし、かけにして鶏肉と舞茸を煮込んで乗せるってのは?」


「なんでそんなに美味しそうなのすぐに思いつくの?」


料理を道具を出しながら俺は答える


「昔から自分が食べたいもの作ってたからかな。そん時のレパートリーの一つだよ」


「自分で?お母さんとかに頼まなかったの?」


「うちは共働きだったし、居ない時は頼めないしな。いつからかなんとなく自分で食べたいもんつくってた」


「すごいね」


「すごくねえさ、簡単なものと調べられて作れるものだけだし」


「その行動力がすごいね、あたしだったらお母さんに頼むか諦めるね」


「もともと物事を人に頼るのがあんまし好きじゃないんだ。不確定要素が多すぎてな」


「不確定要素?」


「ほら、何かトラブルったりとかしたりそもそも忘れられたり…こっちには重要なことなのに大したことない扱いをされるのが腹立つし」


「なんか実感こもってるね」


「すまん、愚痴っぽくなった」


グツグツ沸騰してきた鍋に蕎麦を入れてる千楓に謝る


「ううん、雄平くんはずっと1人で頑張ってきたってことだよ。それはすごいことだと思う」


「そうか」


鶏肉と舞茸を切りながら千楓の話を俺は聞く


「あたしには無理だよ。すぐ梓に頼っちゃう…昨日の試合だって梓や雄平くん…チームメイトのみんながいなかったらと思うとゾッとしちゃう」


「千楓の日頃の行いだろ?」


俺は切った鶏肉と舞茸を浅めの鍋に入れて煮る


「うーん、よくわかんないや」


「昨日の野球を見てれば俺にはわかるさ、今のチームを作ったのは千楓と梓なんだろ?」


「それはそうなんだけどさ。俺には…か、わかったようなこと言ってくれるね!」


ふふーんと茹でてる蕎麦を菜箸でかき混ぜながら不敵に笑う千楓


「気に触ったか?」


「ううん、キミにわかってもらえると嬉しいかな」


「そりゃよかった。さてとこっちは煮詰まってきたけど、そっちはどうだ?」


ぴぴぴっ


「うん今あがったよ!」


「じゃあ俺がザルにあげるからこっちの鍋みててくれ」


「オッケー」


お湯がたっぷり入った大きな鍋なので俺が持ち上げてシンクにお湯を捨ててから

キッチリ湯切りをして流水で蕎麦の滑りを取る


次に具材を煮込んだ鍋に卵を二つ割って投入


それを見た千楓がニヤァと笑う


卵が半熟になったところで割らないように蕎麦が入ってるどんぶりに鶏肉と舞茸の煮たやつを汁ごと移す


初めて作ったけど美味そうに出来たな


ネギを散らして出来上がり


「よし食うか」


「うん!」


リビングで向かい合わせで千楓と2人で食べる


ズルズル


「美味しいね雄平くん」


「思ったより上手く出来たな、蕎麦の茹で加減も完璧だ」


「この鶏肉と舞茸のハーモニーが最高だよ、煮汁のあましょっぱいのもちょうど良いし」


千楓と合作の蕎麦に2人で舌鼓をうつ


上手く出来てよかった


食べ終わって後片付けしてそのあとは、お互いのおすすめ映画を観たりゲームしたりと…外が雷雨であることを忘れて楽しいひとときを過ごしていた


そして…


「そろそろ寝るか…」


「あ、もうこんな時間なんだね」


「千楓が寝るのは姉貴の部屋か?」


「うん」


「じゃあおやすみ。喉渇いたら冷蔵庫に水入ってるからコップはそこの使って」


「うん」


千楓が姉貴の部屋に入ったのを見てからリビングの明かりを消して俺も自分の部屋に入る


ベッドに寝っ転がって布団を頭から被る


今日は遅めに起きたので寝られるか心配だったが千楓と遊び疲れたのか…すぐにまぶたが重くなっていた


すーっと意識がなくなり身体ごと沈んでいく感覚を感じた


たぶん久しぶりにゆっくり寝れている気がする


「すーすー」


どおぉぉん!!


パチッ


大きな音を立てて雷が落ちた


また雨が強くなったようだ


豆電球が消えてないから停電はないみたいだが、大きな音でびっくりしたせいで目が覚めてしまった


どぉん!


雨戸にしていてわからないが割と近くで落ちているのがわかる…千楓は大丈夫だろうか?


声を掛けに行ってもいいがこの時間だしな


コンコンッ


と悩んでいると部屋のドアがノックする音が聞こえた


俺は明かりを点けてその客人を迎える


「千楓か?」


「うん、入ってもいい?」


「ああ、あまり綺麗じゃないけど…」


ガチャッ


「ごめんね、こんな時間に」


「いや良いよ、床はあんま片付けてないからベッドに座れよ」


「うん」


ストッと俺の隣に座る千楓


「なんか飲むか?」


「ううん、部屋に来る前にお水飲ませてもらったから」


「そうか」


「「……」」


チッチッチッチッ


気まずい沈黙の時間が流れる…と思いきや


どどおぉおぉん!!


さっきより一際、大きな音を立てて雷が落ちる


フッ


そしてそのせいなのか明かりが消えた

俺は立ってブレーカーを見に行こうとすると身体に何かが巻き付くように倒れ込んできた


俺は不意をつかれたので一緒にベッドへ倒れこむ


「お、おい千楓!」


「ごめん行かないで」


その言葉を聞いて抵抗しかけた手を止める


「こういう大雨の日だったかな」


千楓の重い口が開く


「何が?」


「お兄ちゃんがさ、亡くなった日もこうして大雨と雷が降ってたんだ」


「そうか…」


千楓のお兄さんか…写真では見たけど、どんな人だったかは何も俺は知らない


「あの日はさ、お兄ちゃん暗くなるまでシニアのチームグラウンドで1人で練習してたんだって」


千楓が軽く震えているのに俺は今更ながら気づいた…


服越しに、強くしがみついてるのがわかる


「無理に話さなくていいぞ」


「ううん、聞いてほしいの。それで大雨の中でさ、無理に自転車を漕いでて目の前のトラックに気づかなかったみたいなんだ」


「……」


「その知らせを聞いたお母さんは慌てて外に出たんだって」


「千楓はどうしたんだ?」


「あたしは1人、初めて野球をやった日で疲れて自分の部屋で寝てたんだ…やっとお兄ちゃんと同じことができる!ってコーフンしたまま」


「そうか」


「お兄ちゃんとグラウンドでキャッチボールをする夢を見たんだ。あの時、雄平くんとしたみたいに」


「柊先生に怒られた時か」


「うん、でもお兄ちゃんとあたしは日が暮れても深夜になってもずっと、ずっとしてた…夢の中だけどね」


「そりゃあ最高だな」


「楽しかった…すっごく楽しい夢だったよ。でもね」


千楓の声色が変わる


「突然お兄ちゃんが手を振ってどこかに行こうとするから走って追いかけた瞬間に目が覚めたんだ」


「それで?」


「暗い部屋だった…暗い家の中で1人だったんだ。すっごく怖かった…大雨が振って雷は落ちて、家には誰もいなかったし」


「そいつは辛かったな」


「だからこういう日は苦手なんだ。いや嫌いかも知れない、1人でいたくない」


千楓の声が涙声になっていた


とても辛いことを彼女は話してくれた


俺は彼女に何も出来ない…何もどんなに優しくしても付け焼き刃かもしれないしそもそもどうしたらいいか分からない。


なので


妹に言い聞かせるように俺は言った


「怖かったら目を瞑ってりゃいいさ……大丈夫だ。俺は、ここにいる」


その言葉を聞いた千楓はフフッと笑った


「何それ、誰の言葉?」


「よく妹に言ってた言葉だよ。あいつも怖がりだったし」


「ふふっ」


小さく、笑った。


「いいね、それ」


そのまま、額が軽く当たる。


呼吸が、少しずつ落ち着いていくのがわかった。


「……もう少し、このままでいい?」


「ああ」


短く答える。


それ以上の言葉はいらなかった。


外では、まだ雨が降っている。


雷も、遠くで鳴っている。


それでも。


さっきまでの怖さは、もう感じなかった。


静かな夜だった。

俺も千楓も——もう、ひとりじゃなかった。

第44章を読んでいただきありがとうございます。


今回は千楓が抱えている「雨と雷の記憶」を描きました。

ただの天気ではなく、彼女にとっては忘れられない出来事と結びついています。


そして雄平は特別なことはせず、ただ「ここにいる」と言うだけ。

それでも、その一言が救いになる夜もあるのだと思います。


少しずつですが、二人の距離も変わり始めています。

この先も見守っていただけたら嬉しいです。



次回も日曜21時に更新しますのでよろしくお願いします!

引き続き読んでいただけると嬉しいです!


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。

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