表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葛城エース ―追放されたエース、女子だらけの野球部で再起します  作者: CIMAGIROW


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/56

第36章 真綿

お久しぶりです。CIMAGIROWです。


長らく更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。


体調や環境の変化もあり、物語と向き合うことが難しい時期が続いていましたが、ようやく少しずつ筆を取れる状態まで戻ってきました。


『葛城エース』は、自分にとって「どうしても最後まで書き切りたい物語」です。

止まっていた時間も含めて、この作品の一部だと思っています。


本日より、連載を再開します。


まずは無理のないペースで、しかし確実に物語を前へ進めていきます。

改めて、藤堂雄平と浦河千楓の物語にお付き合いいただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。


「さあ、サヨナラにしよう!」


主将(あずさ)の掛け声で反応するかのように8回裏、葛城学園女子野球部の攻撃が始まる


タイブレークなので表と同様に一二塁にランナーがいる状態


守備の流れそのままに勢いで押し込みたい


先頭の九番がバントを試みるが、レッドアイアンズのバッテリーが許さない。

二球続けて失敗、最後は空振り三振。


走者は動かせず、一死。


続いて1番打者(ばんバッター)茅夜(ちよ)


初球のカットボールを狙い打って投手の左足、すぐそばを強く跳ねながら二塁を過ぎていく


中堅手(センター)まで行くかという打球を見て一塁側から歓喜の声が聞こえるが……


バシッ!


いつの間にか二塁後方にいた遊撃手(ショート)が打球を捌いて一塁に投げる


「アウトー!」


「あ〜」


「う〜、すみません…」


残念がる一塁側ベンチと叱られた犬のようにうなだれて謝罪をする茅夜


「いやまだまだだ!」


「ツーアウトだけど、ランナーは三塁に行ったよ!チャンス、チャンス!」


一瞬、テンションが下がりそうになるのをキャプテンとエースが鼓舞するが


ざっ!しゅっ!ドン!


「ストライーク!バッターアウト!」


声援むなしく、この回3人目のバッターの2番打者が三振に倒れる


「「「……」」」


完全に一塁側は沈黙してしまう


「さあ!行こうみんな!攻撃は必ず来るからまた頑張って守ろう!」


「う、うん!」


「行こう!」


チームメイトを鼓舞して千楓はマウンドに向かう

そしてまたロジンを念入りに塗る


(さっきの守備でもコケてたが、大丈夫だろうか)

梓はキャッチャーマスク越しに様子をうかがう。


再びタイブレーク配置で延長9回表の守り。先頭は五番、ベテラン捕手・菊池。

ホームベースを二度軽く叩き、バットを寝かせてバントの構え。四番とは違う匂いがある。油断はできない。


梓は投手と野手陣にサインを送る


ざっ!


千楓が投球動作に入ると猛然と三塁手(サード)一塁手(ファースト)が打者の前まで走り込んでくる


ダダダッ!パーン!


「ボール!」


菊池はバットを引いて様子を見る


(今のプレー…千楓が走り込んでこなかったな)


千楓のほうを見るがマウンドでまたロジンを塗っている


忘れていただけかもしれない、梓はそう思ってもう一度バントシフトの指示(サイン)を送る


他の野手陣は反応を見せるが千楓は反応が薄い…というよりないのである


梓がタイムをかけようとするが、千楓と目が合う


「……」


疲れている様子の身体とは違い、えらく気合いの入った千楓の目を見て外していたマスクを付け直して座る


(しょうがない、サードとファーストに頑張ってもらおう)


二球目、再びバントシフト


三塁手(サード)一塁手(ファースト)が打者の前まで走り込んでくる


コンッ!


菊池は走り込んできたサードの左横にプッシュ気味にバントをする


猛ダッシュしてきていたサードは反応ができず、打球はマウンドの右手前まで転がっていく


それを見た千楓が素早い動きで転がってきたボールを素手で掴み一塁へ投げた瞬間、視界が霞むような感覚に陥る


ロジンを付け過ぎたのか、意識が遠のいたのか、自分ではよくわからなかった


「アウトー!」


ランナーは二塁と三塁にそれぞれ進塁する


どさっ!


千楓がその場にへたり込む姿をみてタイムをかけて梓が駆け寄る


「千楓!」


「ごめんごめん」


「本当に大丈夫か?ダメなら交代しても…」


「大丈夫だって、ちょっと疲れちゃっただけだからさ」


立ち上がってマウンドに戻る千楓


(本来なら交代させるべきなんだが…目がまったく死んでいないし…球も来てる)


しばらく思考すると梓は近くにいた三塁手の及川ユリに声をかける


「次のバッターもバントシフトをかける…悪いがもっと強めにダッシュを頼む」


「了解、千楓に負担をかけないようにだね」


(あとは…)


梓はキャッチャーボックスに戻り投手と野手にサインを出す


「「「!」」」


全員が梓が出した指示(サイン)に少し動揺するが

千楓はそのサインを笑って頷く


一球目、外に大きく外れるボール球を投げる


二球目、三球目も同様に大きく外れたボール球を投げる


芦屋監督 (敬遠か…大胆な策に出たね)


四球目も大きく外れて


「ボール!フォア!」


これで一死満塁(ワンアウトフルベース)となる


梓 (これでいい、どこでもアウトを取れる状況で千楓の投球なら大量失点は避けられる…はず)


次のバッターの6番打者が打席に立つ


捕手(あずさ)はまた野手陣にサインを送ってバントシフトを解かせて中間守備を敷く


このバッターには強気に攻めていき

カウント1ボール2ストライクまで追い込む


四球目、スライダーが外角に曲がるが少し真ん中寄りに入ってくる


梓 (甘い!?)


カーン!!


遊撃手(ショート)の右側に強いゴロ、抜ける、と思った瞬間、綺麗な横っ跳びでショートの茅夜が抑える


ゴロを捕った茅夜(ショート)は地面に寝転んだまま二塁に送る、二塁手(セカンド)はその送球を取りながら二塁ベースを踏んで一塁手(ファースト)に投げる


「アウト!アウト!」


6-4-3のダブルプレーが完成した


千楓は走って茅夜の元へ行き強く肩を抱きしめる


「こんの出来杉な後輩め!ありがとよ〜!」


「ち、ちょちょ!千楓せんぱ〜い!痛いです!」


2人がはしゃぎながらベンチに戻る姿を見てホッとする梓


(この回もゼロに抑えられたけど…限界が来ている…なんとしてもサヨナラにしなければ、相手の投手も疲れがあるだろうし)


そんな思いの梓を他所に無情にもレッドアイアンズの交代が告げられる


ベンチに戻り千楓と梓は打席に立つための準備をしていると放送を聞くとリリーフエースが登板するらしい


「梓知ってる?」


「ああ、さっきまで投げてたエースと同じくらい速い球を投げるサウスポー、このチームのリリーフエースだ。」


「また……厄介だね」


千楓はヘルメットを被りながら、深く息を吸う。


マウンド上のサウスポーは、投球練習からすでに闘志をむき出しにしている。

その腕から放たれるボールは、まるで風を裂くように速かった。


千楓は左打席に立ち世界的に有名なバッターのようにバットを立ててスタンド方向へ腕を伸ばし、袖を捲る


ふぅと息を吐いてバットを構える


ざっ!しゅっ!ドン!

外角に直球が突き刺さる


「ボール!」

千楓(速い……でも、見える)


そう思いながらバントの構えをする


二球目


カンッ。


打球は鈍い音を立てて、投手の正面から三塁寄りに転がる、ピッチャーが軽やかに前進して拾い、落ち着いて三塁へ送球。


「アウトー!」


千楓の送りバントが失敗して一塁ベンチからため息が流れようとしたとき


「……あっ」


ボールは三塁から一塁に投げられる


「アウト!」


千楓は一塁に向かう途中で立ち止まり、うずくまっていた

「千楓!」

「だ、大丈夫。足がもつれただけ。……ごめん、せっかくのチャンスだったのに」


千楓はよろよろと動き出してベンチに戻る

(もう千楓は限界だな…ここで決めないと)


真綿のように少しずつ、体と心が締めつけられていく。


ツーアウト二塁、梓は打席に立つ


バットを握る手は強く固くなり足は震えているが根が生えたように地面に張り付き動かない


「ふぅふぅ…!」


息遣いが荒くなり梓の口の中が渇いてくる


その様子を見ていた後方席(バックスタンド)の煌星が呟く

「あんのバカ……」


そんな梓にレッドアイアンズのリリーフは投げ込んでいく


「ボール!」「ストライーク!」


一球目、二球目とバットをぴたりとも動かせずにいる

目の焦点が合わず何をしていいかわからない


そして三球目、高めのストレートを無理矢理に振って空振り尻餅をつく


バットを支えに立とうとするが…なかなか動かない

(ダメだ、水の中にいるような感覚だ)


そんな時…

「あーずーさー!!ざーんーしーん!」


ベンチから千楓の大声が聞こえて梓は呟く


「…残心」


残心とは、弓道だけでなく日本の武道全般に通じる、とても重要な概念だ

射を終えたあとも心と体の緊張を保ち、油断せずに心を残すこと


梓は立ってバットを弓に見立てて、見えない矢を引くような動作を行う


「ふう」

荒い息遣いだったのがすっと静まる


四球目、梓の膝元にスライダーが入り込んでくる


ドン!「ボール!」


ストライクゾーンギリギリを攻めてきたが梓は冷静にボールを見極める


菊池 (今度はこの子の雰囲気が変わった!なんなんだ、このチームは…!)


五球目、外角低(アウトロー)めにまっすぐを投げさせる

ざっ!しゅっ!ゴォォ!


サウスポーのリリーフが放った一球は、唸りを上げながら打者(あずさ)から最も遠いコースへ、ストライクゾーンの端をかすめた…と思った瞬間、


カキーン!!


捕手のミットに収まる直前に鋭いスイングで捉える、打球は低い弾道のまま一二塁間へ向かう


「抜ける!」バシッ!!


一塁手(ファースト)が横っ飛びで火を吹くような打球を掴みながら一回転して着地すると一塁カバーに入った投手にトスをして


「アウトー!」


無情なアウトコールに静まり返る


「またあのファースト…」


「嘘だと言ってよ…」


徐々に、徐々に、運命の輪が狭まっていく。

その締めつけは、真綿のように静かで、逃れようのない痛みだった。


それを梓はその圧を真正面から受け止めていた


「……くそっ!」


梓は一塁ベース手前で膝に手を付いて下を向いて歯を食いしばる


(もうダメなのか…?)


「ほらほら、梓。残心!大事なのは矢を放った後なんでしょ?」


「……そうだな」


「みんなも!相手チーム待たせちゃだめだよ!」


一番身体的にも精神的にも追い詰められているはずの千楓が声をかけて誰よりも早くマウンドに立つ


女子野球部の面々はその姿を見てなんとか立ち上がる。


彼女たちの目はまだ生きている

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


久しぶりの更新となりましたが、いかがだったでしょうか。


正直に言うと、書きながら「ちゃんと戻ってこれたのか」と自分でも不安でした。

それでも、またこの物語を書けていることが、今は何より嬉しいです。


ここからは少しずつではありますが、止まっていた時間を取り戻すように、物語を進めていきます。


次回更新は日曜日21時を予定しています。


もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。


これからも『葛城エース』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ