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終末世界で時が止まったら  作者: ぺゅづゃぐょ
赤霧の星・第二節 暗る者達の往日と追憶
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37.エピソード・ムー:地獄の支配者

「まあ二人の声はしたし、大丈夫だろ」


 ローグがそう言うと、ムーがローグの顔を見つめながら言った。


「声は聞こえても、姿は見なかったんでしょ? ならだめじゃん! ムーもそんなことあったもん!」


「あー。そういや、ムーの父親って姿を見た人がいないんだったか?…いやそれはムーだけの事だろ」


 この世に声を偽る能力者はいるのか。そんな事をあらこれ考えても仕方ないので、結局ルベリウスがもう一回ザルトニアの家に行くことになった。


「【瞬閃】」


 赤い残像を残し、ルベリウスは遠い場所へ消えていった。


「…あれ? ローグ兄さんって、ムーのパパのこと知ってるの?」


「ん? 逆に知らないとでも思ったのか? ヘリンさんは歴史上最も有名かつ最も聡明な天才発明家って言われてるのに」


「彼ならば僕と知っている。過去に何度も彼を王城に招待したが、どれも断られてしまったんだ。ムーは彼の姿を見たことがあるのか?」


 ムーは人差し指を顎に当て、少し考えた。


「うーん…見てないかも。見てたとしても、思い出せないや…あ、でも!」


 すると彼女は何かを思い出したかのように、服に付いている大きいポケットからある一冊の絵本を取り出した。


「これ、パパが描いてくれたの! 確か…ほら、ここに描かれてるのがパパ!」


 ローグ含め翠や世紀など、その場にいる全員がその絵を覗いた。歴史上で最も謎に包まれた天才の容姿が、ついに明らかに…


「なんだこれ、下手すぎだろ」


ならなかった。


そこに描かれていたのは、茶色のロングコート(らしき服)を着た、(多分)濃い茶髪、(恐らく)高身長の赤い(っぽい)の男だった。まるでクレヨンを利き手の逆に持った状態で目を閉じながら描いたのかと思うくらい下手な。


「えっと…天才発明家でも、絵は下手だったりするのか?」


「多分、そうなのか?…ほら見ろ、本の最後に丁寧な字で書かれている」


“私には絵心が無い。物の構造を把握する為の設計図等を描く事はあるが、この様な絵本は私には難しい。娘からの願いで、クレヨンで描くとなれば尚更だ。この様な絵になってしまったことを許して欲しい”


「なら仕方ない…の、か?」


 セルヒは本をパラパラとめくり、読んでみようとした。


“地獄の支配者”


“一章

昔々のある日、ある男が死んでしまいました。

その男は死後、地獄でこう言いました。

「ここの支配者は誰だ?」

誰もその問いには答えられませんでした。

なぜなら、そこには誰もいなかったから”


“二章

「なら、私がここの支配者か?」

しかし他者がいなければ支配者というものは成り立ちません。

では男はどうしたか?

蘇り、他者を殺したのです”


“三章

男は地獄へ戻りました。

しかしそこには誰もいませんでした。

さっきの他者は天国へ行ったのです。

では男はどうしたか?

(破られていて読めない)”


“四章

男はそうしている内に、

そうすることしかできない、

もう一つの地獄に陥ってしまいました。

さて、この時…

男は、地獄の支配者と呼べるでしょうか?”


 それを見たセルヒは黙った。


「…ヘリンって、哲学者でもあるのか? あと、なんでこんな本をムーに?」


 するとムーは不思議そうに首を傾げながら答えた。


「おもしろくない?」


「(遺伝だな…)」


 そういった何気ない(?)会話を腕を組みながら小耳に挟んでいた世紀は少し顔を上げ、目を閉じて情報を整理した。


「(地獄の支配者、か…死、疑問、蘇生、殺害、死、蘇生、殺害、死…これは!?)」


 彼女ははっと驚き、ムーに迫った。ムーはその威圧感に少し退き、目を大きく開いた。


「ムー…」


「ぇ…なに?」


「お前のパパは、この本に対して何か言ってたか?」


 ムーは上を向きながら首を傾げ、


「…知らなぁい」


と言った。すると世紀は少し俯きながら元の場所に戻り、再び腕を組んだ。


「(あれは確実に『第八の禁書』エーヴィゲの内容で間違いない。何故一般人がそれを…?)」


「その人、ボク知ってるよ…」


 突然、ネロの声がした。気付けば世紀はまた無世界劫河にいた。


「…またか」


「ヘリン・ヘヴンさんだよね? その人、ボクらの時代にもいるよ」


「同姓同名の別人なだけだろ。それにこっちのヘリンはもう死んでいる上、お前らの時代に生きているはずが…」


「じゃあ、死んでないし生きてるって言ったら?」


 その時、ゆっくりと拍手をしながら歩いてくる男が来た。


「素晴らしい、世紀君。禁書のストーリーも覚えていただなんてね。私の絵は、悪くなかったかな?」


 絵で見た通りだ。茶色いロングコート、濃い茶髪、赤い瞳。この人物こそ、


「…ヘリン」


彼だった。


「ああ、私がヘリン・ヘヴンだ、未来永劫のね。私がどうしてエーヴィゲの内容を知っているか知りたいかい?」


「お前も、ネロの言う潺災で死んだのか?」


 世紀はネロがいた所を見たが、彼はそこに居なかった。どうやら二人だけにしてくれたらしい。


「いや、私は『命の大陸』出身だ。その上、当時『光の大陸』への立ち入りは『神瞥者』のみが許されていた。私はよく家に引き籠っていてね。全く…『秤』でも『神瞥』すれば良かったかな」


「…??? 突然お前の常識で話されても困る」


「おっと、悪いね。とりあえず私は潺災には巻き込まれてないよ」


「なら、お前は何故死んだと思われている?」


「まあ突然姿を消したしね…ああ、人から見れば元から姿は無かったか。じゃあ、見てみるかい? (ムー)と決別した時、何があったのかを───」


───ヘヴンの家にて。


「パパー! どこ行くの?」


「ムー。パパはちょっと、ママのところに行ってくるよ。大丈夫、パパとはすぐに会えるから」


 あまりに急だった。当時のムーは、これが最期の別れになるとは思いもしなかった。


「ママはもう死んだんじゃないの?」


「…それは、ムーがそう思ってるだけかもしれない」


 するとヘリンは鞄を置き、紙とペンを取り出した。彼は機械のようにペンを走らせ、ある文をすぐに書き上げた。


「最期に、この問をあげよう」


 ムーは静かにその紙を取り、丁寧な字を覗いた。


“時と無が尽きた果てには、何があるのか”


 彼女がその文を読み終わり顔を上げた時には、もうヘリンは居なかった。


「…新しい世界? それとも、地獄?」

ヘリン・ヘヴンについて

 世界で最も有名な天才発明家及び哲学者。ムーの父親であり、ある日を境に世の視界から消えた。しかしネロ達の時代でも存命している。


地獄の支配者…ヘリンがムーに向けて描いた絵本。しかし中身は全然子供向けではない。ムーはこの本を気に入っているようだ。


『第八の禁書』エーヴィゲ…死、疑問、蘇生、殺害、死、蘇生、殺害、死。

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