7 栄光への道
まさかの誰得ルル回
英雄王という名前はエルラント国民にとって特別なものである。
エルラントは一度とある王の仕業で滅びかけた。その滅びから救った王こそ英雄王であった、と吟遊詩人や、街の噂話として語り継がれていた。
なにを間違えたのか、エルラントにおける亜人との同盟が成り、百年以上が過ぎた今、国内において、英雄王の話は尾ひれがつきすぎてマグロのように力強く泳ぎだしている始末だ。
曰く、英雄王は腕をふったたけで万軍を征した。
曰く、英雄王が叫べば大地が割れた。
どんな化物だ、という話であるが、伝説上の人物でありすでに故人であるため、その泳ぎは誰も止めようとはしない。
さて、エルラント王都の前で吟う吟遊詩人がいる。
その髪は美しく金に光り、瞳の濃緑色は深い知性を秘めている。
その長い耳から彼がエルフである、ということは一目で分かる。
そんな彼はここ数十年冒険者ギルドの前で吟い続けており、王都の名物として親しまれていた。
彼の吟う詩は英雄王についてであり、彼を近くで見ていたものという視点で語られるそれは、そのありふれた『英雄王』という演目でありながらもその詩のリアリティから今の人気を築いているのだ。
英雄王が目からビームを出しそうなほど尾ひれがついている話が一般的であるエルラントにおいてその等身大の英雄譚は夢見る新人冒険者や、子供たちなどに人気のある演目となったし、その山あり谷ありな視点の人物の苦難もまた、人の興味を誘う。
さて、今日もエルフの彼は吟い出す。
その長い耳を誇らしげにしながら。
◆
エルラント王国では未曾有の大混乱が起こっていた。
原因は、一週間前に行われたルル・ビットーリアによる王の処刑だ。
フランク・エルラント・キングの所業はエルラントを危険に晒すものであり、これを断罪しこれを持ってルルの王への就任を成すものとする、といった
内容の演説が行われた衝撃は、未だ国民に混乱を与えていた。
その処刑の前日から奴隷の解放も行われており、亜人の差別を大きな特徴にしたフランクの政治に真っ向から反した行動は、奴隷商のみならず、便利な労働力や、性欲の捌け口に使っていた国民も震撼していた。
なにより国民に影響を与えているものは奴隷、という便利な労働力を失ったことや、高額の『商品』の売買の中止は、国内経済に大ダメージを与えていることだ。
一週間が過ぎた今、物価の高騰に安価な商品を売る行商人の大量の流入、国産の商品が売れず、一層貧しくなるという悪循環は、国民の懐を攻撃していた。
ルル・エルラント・キングには多くの不平不満が集まり、いくら王に絶対服従であったとしてもいずれは大きな反乱が起こることは火を見るより明らかであった。
今反乱が起こっていない理由はやはりルルが騎士団長の時代に築いてきた信頼と尊敬によるもので、ミハサが王になっていた場合は間違いなく反乱が起こっていたと予想される。
最近囁かれるルルの二つ名は、百年先では考えられないものだった。
反対派を粛清し、国民の暮らしを貧しくするあり方につけられるものに与えられる二つ名。
すなわち、『暴君』ルル・エルラント・キング。
◆
一方、王城ではルルが眉間に深いシワを刻みながら、書類と格闘していた。
今、ルルがサインしている書類は、国内の経済の安定化に対する処置の一貫として、ルール商会を一時的に国お抱えの商人として登録するものであり、その前にサインした書類は亜人の自治区に発生した問題を解決するために文官の組織を再編成するためのものだった。
この書類にサインしたからといってその通りに動くことは稀で、むしそう動かないほうが多い。
現に、ほぼ初期にサインした国外の行商人を国にいれないよう関所に伝達させるものも実行されていないし、文官の再編成に至っては何度サインしたのかルルも覚えていない。
フランクの時代、文官の質も落ちており、伝達の遅さとその不確実さは、ルルの胃をこれでもかと攻撃している。
「ああ、またか」
思わず声に出してしまう。
ルルの目は報告書に向けられており、そこに書いてある内容こそルルの胃を痛め付ける原因の一つだ。
「今度はエルフか....」
その報告書には亜人が一日でどれだけ外国に流れたのかが記載してある。
奴隷から解放した亜人の多くがエルラントを去っていっている。
故郷を焼き払われたもの、奴隷となった先で酷い目に遭ったもの、その原因はエルラント王国にあり、その大量の亡命致し方ないものだ。
しかし、国の礎たるべくして助け、エルラント王国大混乱の原因にある亜人が大量に国外に去っていく様になんだか虚しい気持ちになるのをルルは押さえられなかった。
「失礼します!」
元気な声が扉の奥から聞こえる。
ルルはその声に眉間のシワを少し和らげると、ああ、と一言だけ返事を返した。
扉を開けて入ってきた者は、亜人の少年だった。
この少年は、奴隷となった亜人と人間の間に産まれた子で、種族固有の特徴として誰もが持っている精霊の加護と長寿を持たないエルフの子だった。
人間よりは長生きをするだろうが、本来千年以上生きることの出来るエルフとしては短命になる。
奴隷として教育を受け、奴隷としてしか生きられない彼らを文官としてまとめて雇用したのはルルだった。
『不良品』である為、値段を上げるために教育を受けていた彼らは思いの外役立ってくれて、ルルとしては嬉しい誤算の一つだった。
「ルル王!し、至急、お伝えしたいことがあります!」
年のわりに大人びている半エルフの少年がここまで慌てることは珍しく、ルルは驚いた。
「どうしたんだ?」
「てて、帝国が攻めてきました!!!!」
はぁ!?
と声に上げなかったルルは立派だ。
「勇者からの書状が届いているはずだろう!」
「いえ、それが、帝国の貴族の独断だという話でして....」
帝国は皇帝の下で成り立っている特性を持ち、王国よりもはるかに一枚岩として成り立っている。
だのに独断専行などあり得ない。
間違いなく帝国の策略だ、とルルは思った。
「次から次へと問題がくるな...」
「お察しいたします」
ルルはあらゆる問題が一息に来ることに恨みの声を上げ
なかった。
ルルは長年の苦労が形作った威圧感のある顔を歪ませた。
その笑顔に半エルフの少年はギョッとしたが、自分の主が笑ったことにだんだんと嬉しくなる。
「なにか思い付いたんですか?」
「ああ、取って置きの策がな」
そう言うと、元ミハサの部下の秘密活動を行う武官のリーダーを呼んだ。
そしてルルは実行する。
『暴君』から『英雄』への道を開く一歩を。
面倒なやつを全員ぶっ殺したら平和になるとは思えなかったのでエルラント王国ルル王の話を入れたかったのです。
なぜ今かと言うと、今できたからです。
思うとこがあれば感想にしちゃえば楽になると思いますチラッ




