第二十話 魔大陸への旅路
時系列的に『6 英雄王』より前の時間の話です。
「わかりましたか?フラン様」
俺は今、ミハサ先生から魔大陸について授業を受けている。
魔大陸とは、単純に魔族たちが暮らす大陸なのだが、亜人や人間も普通に暮らしているらしい。
なんでそんな風になったのかと言うと、1000年前、人魔大戦があったとき、神が悪しき魔族と、人を分けるためにひとつの大陸を割ったんだとか。
その際、魔族と仲のよかった堕落した亜人や人間も一緒に分けたらしい。
そんなバカなと俺は思ったが、海岸線の形が人大陸と魔大陸を合わせると、パズルのピースのようにぴったりとくっつくらしい。
神様SUGEEEEEEの代表的な話で、ルルス聖教の教えのひとつらしい。
ルルス神は野蛮な魔族と知的な人間を分けました。ってことだな。
あ今だとその話がだんだん変容していて亜人は全てが魔族と変わらないものだという意見も出ているとのことなので、なんかもうこの話は色々と信じられない。
地殻変動とかそんなんだろ、と俺は思っている。
魔族は人間と違って、種類がたくさんあるらしく、サキュバスとかいう精気を吸う男の夢のようなヤツもいる。
まあ、吸血鬼の劣化版みたいなもんなんだがね。
大陸と大陸を分けている海は、ごく普通の海なのだが、巨大な魔獣が海には生息しており、あまり遠くには行けないので確認されているのが魔大陸と人大陸の二つ、という話だ。
おそらくまだ発見されていない大陸もあるだろう、という話に俺はわくわくする。
男の子は冒険の話とか大好きなのだ。
「ああ聞いてるよ。で、どうやって魔大陸まで渡るんだ?泳いでいく訳じゃないだろ?」
「そうですね、手配書が出回っている犯罪者は最後の手段に泳いでわたることもあるらしいですけど生還数は片手で数えられるほどらしいですしね」
そんな危険なとこを船で渡るのかよ。
俺は嫌だぞ、船の上でクラーケンと戦う、みたいな展開は。
「大丈夫ですよ。私たちは一番魔大陸に近い港町から行き、安全な航路を取るのでまず魔獣とは出くわさないでしょう」
魔獣の主食はエーテルだ。
つまりエーテルの濃度の低い海を渡れば問題ないだろう、ということだ。
ではなぜ人を襲ったりするのか。
正確には判明していないらしいが、俺には分かる。
オヤツだ。
俺だって血を飲んでいれば死にはしないのだが、食べ物も食べるしね。
似ているから分かるのだ。
ポテチをつまむように人間を食べ、チョコを食べるように海の生き物を食べるのだろう。
はた迷惑な奴等だ。
「まずは港町まで行かないと行けないよなあ....」
王都を出て二日、まだ着かないのか、という感じだが、思いの外この国は大きいらしい。
二日を丸々旅するなんて俺からするとかなり長いように感じるのだが、この世界だとそれほど珍しいことでもないらしい。
転移門とかいうやつを使ってみたかったが、人大陸ではとっくの昔に全て壊されてしまったらしい。
まあ、攻めやすく攻められやすい物をわざわざ設置しておくほどこの世界は平和ではないようだしな。
一応馬車に乗っているのだが、お世辞にも乗り心地がいいとは言えない。
超揺れるし尻が痛い。
それにミハサがこの旅の資金すべて負担しているため、精神的にも乗りづらい。
俺もレイもレイナも一文無しだ。
完全にミハサのヒモ状態で、情けない限りだ。
なんというか、この旅はミハサを連れていなかったら遂行できなかった気がする。
金のこともそうだが、常識的な問題にも頻繁にぶち当たる。
堂々と貴族専用のトイレに入りそうになったり、井戸の使い方が分からなかったり、ぼったくられそうになったところで助けられたことも頻繁にある。
ぼったくられる回数はすでに二桁に登っており、さすがにそろそろこの国の物価を覚えた方がいい気がする。
もうこの国出るしいいっかー、って気分でいたが、ミハサへの申し訳ない気持ちで胃が痛い。
たぶんミハサのほうがもっと痛いんだろうな、と思うとさらに痛くなる。
レイは一度聞いたことは調べて倍の知識を仕入れてくるし、レイナは可愛いから許されるが、俺はこれでも中のお兄さんはすでに成人を迎えている。間違いが許されるのは子供の特権なのだ。
見た目はお嬢さんなのでいいような気もするが、甘えはいけない。
「おとーさん!町が見えてきたよ!」
ということでミハサ先生に常識を指導されている間に町に到着した。
港町ラムである。
◆
港町、というくらいなので港があって船が並んでいる。
海の水はきらきらと陽光を反射していて非常に美しい。
ミハサに聞いたところ港町には二種類あるらしい。
一つは国に運営、管理されている大きな町。
二つ目は村や集落などが生活の糧に海を利用している小さな町だ。
後者だと寂れた雰囲気らしいのだが、前者は貴族などがバカンスで訪れることもあるため、立派で綺麗なものである。
そんな町だから当然人も集まり、大きな町が出来るわけだ。
港町ラムはそのなかでも一際大きな町だ。
海岸は貴族区となっている場所と行政区となっている場所の二種があり、行政区は一般市民に解放している海水浴をする場所と、漁港、そして軍船のある防衛のための港だ。
おそらくあの軍船で内緒の貿易を行っているのだろう。
昔歴史の授業で見たいわゆるガレー船のような造りをしているそれは、この世界だと魔力を使ってオールを動かすらしい。
ファンタジー世界は本当に魔法が便利だ。
おそらく逆に俺のいた世界に転移したこの世界の人間は科学が便利だと思うことだろう。
飛行機なんてのはこの世界にはないからね。
「王女が魔大陸に行くことをよく了承したな」
「この国で私は間違ったことを一度もしていませんから。恐らく何かしらの事情があると思ったのでしょう」
なるほど。実績のある人間の希望することはすんなりと通るんだな。
まあたしかに何かしらの事情はあるんだが。
港町に入ると、俺のたっての希望で飯屋へと入った。
この世界に来てから三年。
俺はひさびさに魚を食べられる。
そんなに魚が好きという訳でも無かったのだが、しばらく食べないと恋しくなるものだ。
飯屋に入ると、昼時ということもあって喧騒に包まれていた。
朝に漁に出た漁師が酒を飲んでいたり、俺たちと同じ旅人のような格好の人達が料理を食べている。
冒険者のような女性は何人かいるが、少女が4人の俺たちはなかなか浮いていた。
こんなチームなので、ナンパだとか誘拐だとかのイベントはこれまでも何回か起きていたが、俺が催眠を使って穏便にご退場してもらってきた。
あまり俺が暴力を振るうと殺してしまうのだ。
力のコントロールがうまくできないのはなかなか困りものである。
さて、そんな俺たちを暖かな目で見守る視線を受けながら、席につくと、待望の魚料理を注文した。
ほにゃららの煮込み、だとかほにゃららの丸焼き、だとか書いてあるメニューを見てもそのほにゃららがどんな魚なのかさっぱり分からないので適当に注文したのだが、ミハサの前に出てきたなんだか鯵みたいな魚や、レイとレイナが注文したニシンのような魚が出てくることを予想した俺の期待は大きく外された。
見た目が完全に豚肉なのだ。
正確には豚肉のしょうが焼きなのだ。
おい。
豚肉、嫌いじゃないよ?
しょうが焼き大好きだよ?
なんだが、ラーメンを頼んだらソバが出てきた心境だ
それを一口食べてみると、普通に豚肉のしょうが焼きだった。
「おとーさん、泣いてるの?」
「うわ、ちょっとなんで泣いてるんですかフランさん」
泣いてねえよ、ばかやろー。
「ああ、それは海豚のジャンジー焼きですね。美味しいですよね私も好きですよ」
ミハサの慰めなのかなんなのか分からない言葉を受けとる。
海豚は豚ってわけじゃねえよ。
これだから異世界ってやつは....!
「おとーさん、私のお魚食べてもいいよ」
ああ、ありがとうレイナ。おとーさんは感無量だよ...
おとーさんのしょうが焼きをお食べ。え、いらない?
はいわかりました全部食べます。
ミハサと食べ物をトレードするという選択肢もあったが、俺は完食してやった。
そうさ、男には守らねばならない意地があるのだ。
たとえ姿が可愛い少女になろうとも俺は男らしい心を失わない。
そう、あの日の星に誓ったのだ。
飯屋を出ると、定番通りにというかなんというか俺たちに話しかけてくる男たちがいたが、はいありがとうございますではまた、の三単語コンボを使用してスルーする。
ナンパ野郎の第一声はだいたい「かわいいね」だからこのコンボは最強足り得る。
実力行使をしてきたら催眠にかけて永遠に草むしりさせてやる気だ。
軍船の港へと向かう間、4人2チームのナンパ小僧に声をかけられたが、全て三単語コンボで追い返した。
なんというか、この姿でいるのは非常にめんどくさいのだが、巽の姿に変身すると今度は仕事熱心なお巡りさんに話しかけられるのでこっちのほうがましだ。
お巡りさんは三単語コンボをすると仲間を呼ぶ、と攻略本にも書いてある。俺の中の。
そうしたら一度変身をといてから催眠でやり過ごすしかないので面倒くさい。
というわけで仕方がなくフランのままでいる。
一行が港につくと、兵隊さんが近づいてきた。
「お嬢さんたち。ここから先は立ち入り禁止だよ」
と優しく話しかけてくれる兵隊さんに、ミハサが一歩出て話しかけた。
「ミハサが来た、と責任者にお伝えください」
その一言を聞くと慌てて兵隊さんは敬礼してま港に隣接してある建物へと去っていった。
「ここの兵はまともなんだな」
王都だとあんなんなのに、と暗にミハサに言うと、以外にも明るい顔をした。
「ええ、これからは彼らのような兵士だけがこの国を守ることになります」
『計画』の成功を疑っていないようだ。
まあ俺も失敗するとは思っていないがこいつも切り替えが早いやつである。
むしろ面倒ごとから解放されて清々しい気分なのかな?
あの王様の下で働くことがもうないならばこの嬉しそうな顔にも納得する。
やがて、慌てた様子で兵士に指示を出す、THE海の男といった様子の男が走ってきた。
見た目は完全に海賊であるが、兵士に指示を出していることから偉いさんだというのは分かる。
「ミハサ様!お早いお着きですね。お待ちしていました」
「ええ、お待たせしました。これからすぐに魔大陸に渡りたいのですが構いませんか?」
「ええ、いつでも出発できるように指示を出しましたので大丈夫です」
「流石です。エドワード」
彼の名前はエドワードと言うようだ。
なんというかこう、名付けた人を誉めてあげたいくらいピッタリな名前だ。
たぶん名字はティーチだな。
「ところでミハサ様。そちらのお嬢さんがたは?」
「今回の同行者です。国事に関わることなので詳しいことは言えませんがさる国の重要人物ですので失礼のないよう」
ミハサは息をするように嘘をつく。
レイナはたしかに白獅子の次期長だから重要人物であるが、俺に至っては人ですらない。
「おお、そうですか!これは失礼いたしました」
そう言うとエドワードさんはその厳つい顔に笑みを浮かべる。
愛想のいい笑顔は顔の造形に非常に不釣り合いであるが、俺が読んだ異世界ものの本ではこういうやつは大抵が内面が良かったりする。
今回もそのパターンだろうなあ。
「すぐに出発するのですか?」
「ええ、一刻を争いますので」
フェリシアファミリーが気になるのでたしかに急いだほうがいい気がする。
が、たぶんこの場合は『計画』が実行されるまでの一刻だろう。
『計画』が成功したらミハサはこうして船を借りることも出来ない身分になっているだろうしな。
「分かりました。ならばすぐに出発しましょう」
「ご迷惑をおかけしますね」
「なあに、ミハサ様のお仕事に関われるんです。兵たちの励みになりましょう」
そう言ってまた人懐っこい笑顔を浮かべるエドワード。
俺としてはこの良い海賊さんが逃走の補助とかなんとか理由をつけられて本物の海賊にならないかのほうが心配だ。
「それではこちらです」
俺たちは彼の案内に従って、船へと向かった。
俺たちの乗る船は立派な外観で、やはりオールがたくさんついている。
これをえんやこらと船員が動かすのかと思うと、あまり船に興味のない俺でも胸の熱くなるものがあるというものだ。
まあ、全て魔法で動くんだが。
俺たちを乗せた船は、出港する。
海賊とその部下にしか見えない兵士に最上級の敬礼で見送られる。
気分が良いな。
海の男たちがえんやこらと働いている。
計器類のチェックや、魔導具の調整など、海の男、というより研究者に見える。
この船は軍船なので魔族に襲われないのかミハサに聞いたら、マストに書いてある丸にばってんの模様が入っている船は襲わない約束になっているらしい。
きちんと考えられているな。
出港して数分で俺の体に異常が起こった。
すごく体がダルい。
船酔いしたのかと思ったが、馬車でも酔わなかったのに波の静かな海で酔うわけないだろ、と思い返した。
「おとーさん、大丈夫?」
心配そうな表情でレイナが聞いてくる。
ダルすぎて言葉が出せない。
吐き気は沸いてこないのだが、体の気だるさだとかが絶頂である。
俺は立ってられなくなって座り込んだ。
「おとーさん!?」
レイナが俺に縋りつくが、俺はだるーんとした体勢になり、返事もできない。
心底ダルすぎてなんだか生きてるのもダルくなってきた。
「おねえちゃーん!おとーさんがーー!」
と、レイナはレイを呼びに行く。
すぐにレイを連れてレイナは戻ってくる。
レイは驚いた顔を見せる。
「フラン様!?」
レイも俺の症状が分からないようだ。
厳しい顔をすると、船長のところへ行っているミハサを呼びにいった。
俺はというと、座ることもできなくなり、水揚げされたマグロのように仰向けに寝そべっている。
今度はミハサがやってくると、一瞬驚いた表情を見せたあと、なんだか納得したような顔をした。
「ミハサお姉ちゃん、おとーさんの容態分かるの!?」
レイナは食い気味にミハサに聞く。
ミハサはその勢いに少し引きつつも、苦笑して答えた。
「はい。これは有名な吸血鬼の弱点ですね。海を渡るとき極限まで弱体化してしまうんですよ」
ああ、聞いたことあるなー
なんだっけ、流れる水を渡れないとかだっけ。
結局魔大陸に着くまで俺は不便極まりない体を呪いながら、船室でだるるーんとしていることとなった。
書いていた文章を誤って削除してしまい、書き直したのですが、なんだか前に書いたものと大分話が変わってしまいました・・・




