地獄の過疎配信と、命がけのプロデュース
「……死んだ」
ダンジョン最深部、第五十層。
全身傷だらけの俺――ソロ探索者のレンは、壁に背を預けて荒い息を吐いていた。
「使えない『配信補助』スキルしか持たないゴミ」「足手まとい」とパーティーから追放され、単身で潜った結果がこれだ。背後からは巨躯のミノタウロスが、太い棍棒を引きずりながら迫ってくる。
(せめて最後くらい、静かに眠らせてくれ……)
藁にもすがる思いで背後の壁に体重をかけると――カチリ、と嫌な音がした。
壁が崩落し、俺はそのまま暗闇の隠し部屋へと転がり落ちる。
「痛たた……。ここ、どこだ……?」
埃を払いながら顔を上げると、そこは予想外の空間だった。
豪華な和風の部屋。中心には巨大な漆黒の玉座。
そしてその上で、豪華な振袖を着た角生えの美少女が、タブレット端末を片手に頭を抱えていた。
「うぬぬぬ……なぜじゃ! なぜ同接が『3人』から増えんのだ! これでは今月のガチャ代どころか、地獄の電気代すら払えんではないか……!」
「…………は?」
少女の背後には、空中に浮かぶ漆黒のドローンカメラ。
画面には、見慣れた大手配信サイトの画面が映し出されている。
『配信タイトル:【地獄の王】閻魔大王だけど質問ある?【過疎】』
『同接:3人』
少女――自称・閻魔大王エンマは、ボサボサの黒髪を掻きむしりながら愚痴っていた。
「人間どもめ、もっと我に投げ銭(お供え)をするのじゃ! 地球の『高級ショートケーキ』とやらが食べたいんじゃよ!」
(……マジかよ。閻魔大王が小遣い稼ぎで配信してんの?)
俺が呆気に取られていると、追っ手のミノタウロスが壁を破って踏み込んできた。
『ゴオォォォォン!!』
「ひっ!? な、なんじゃこの牛頭の怪物は! 我のスタジオ(玉座)を汚すな!」
「うわあぁぁ! 逃げろ!」
万事休す――と思ったその時、俺のスキル『配信補助』が勝手に発動した。
ドローンカメラの画角が自動で調整され、危機一髪の俺たちと巨大モンスターを【超絶臨場感の神構図】で捉える!
すると、タブレットのコメント欄が爆発した。
『wwwwwwww』
『え、なにこの超リアルなCG戦!?』
『過疎配信だと思って入ったらガチの事故配信始まって草』
『【朗報】同接、一瞬で500人突破』
「お、おい見ろエンマ! 人が集まってきてるぞ!」
「ぬ!? ほんとうか!? よし、もっと煽るぞ、人間ども! 我を崇めよ!」
だが、ミノタウロスの棍棒が迫る。このままじゃバズる前に潰される!
「エンマ! 投げ銭スパチャの機能は切ってないよな!?」
「当たり前じゃ! それが目的じゃからの!」
「ならリスナーにスパチャさせろ! 地獄の『お供え物』を受け取る権能を、この部屋に実体化できるはずだ!」
「な、なにぃ!? 投げ銭を……攻撃に変えるだと!?」
「いいからやれ! 死んだらケーキもガチャもナシだぞ!!」
エンマは慌てて画面に向かって叫んだ。
「ひ、ヒューマンども! 我にスパチャを投げるのじゃ! 投げたら……この生意気な牛頭を地獄の業火で燃やしてやるぞ!!」
『赤スパきたあああ!【5,000円】おい牛倒してみせろww』
『【10,000円】投げたらマジでCG動くの?』
『【30,000円】ケーキ代にしてくれ!』
チャリン、チャリンと鳴り響くスパチャの警告音!
次の瞬間、画面のスパチャエフェクトがリアルな灼熱の爆炎となって部屋を満たした!
『グギャアアアアアァァァッ!?』
スパチャの総額に応じた爆炎がミノタウロスを包み込み、一瞬で灰へと変え破滅させる。
「「…………」」
『え、マジで倒した……?』
『今のエフェクトどーなってんの!? ガチ神配信なんだがww』
『同接1万人突破wwwwww』
静まり返る部屋で、俺は立ち上がり、呆然とするエンマに向かって不敵に笑った。
「元パーティーの奴らは俺のスキルを『追放級の無能』って切り捨てたが……あんたの『地獄の権能』と俺の『プロデュース』が合わされば、世界一稼げる配信者になれる」
エンマは赤く光るスパチャの画面と俺を交互に見比べ、ニヤリと口角を上げた。
「……よいだろう! 我を世界一の富豪配信者になしてみせよ、レン!」
こうして。
「無能」と捨てられた男と、ポンコツ地獄の王による、世界を揺るがす「スパチャ無双」が始まったのだった。




