第1話 聖女シエル・バレンタインがどこまでも付いてくる
俺の名前はレイン・アッシュクラフト
「これで終わりだ。魔竜ディアス」
『ギャアアア……』
世界を混乱のどん底に陥れた魔竜に最後の一撃を与える。
「素敵ですわ。レイン様」
「……終わったな。レイン」
「これで世界に平和が訪れるのね。リーダー」
「ホホホ。一年にも及ぶ長旅じゃったがなんとか終わったのう。我が弟子よ」
聖女シエル、剣士のトール、付与師のミリア、魔法使いのトルギス。
これまで苦楽を共にした仲間達が次々と労いの言葉をかけてくれる。
「ああ、皆。ありがとう! これで俺達の役目も終わった。さあ、ここから脱出してテレンシア王国に帰ろう!」
「「「「おおお!!」」」」
魔竜ディアスを倒したことで魔竜城が崩壊していく。俺は仲間達をと共に脱出した。
◇
《数日後 テレンシア王国 王都》
「よくぞ。魔竜ディアスを倒しこのギアノス世界を救ってくれた。勇者レイン・アッシュクラフトよ! 何か望む願いはあるか? 我が娘。クレハとの婚約などはどうだ?」
「本当ですか? お父様。是非! 是非! よろしくお願いいたします」
「いえ。俺は本当に何の欲もありませんので……」
テレンシア王の隣に立つ。ドレスを着た金髪の綺麗な少女がとても嬉しそうに俺を見つめている。
あれがたしかテレンシア王の娘。第二王女クレハ姫か。
「……折檻します」
「落ち着きなさい。おバカ!」「こんな場所で暴れる気か?」「ホホホ。若いのう。シエル殿は」
少し離れた場所では何故か仲間達がシエルを押さえ込んでいた。
しかし、どうしたものかこれ以上はテレンシア王家との関係を継続したくないのが本音。
だが断りもすれば無事くしたなどと難癖をつけてくる貴族も現れるだろう……
「お父様。レインも返答に困っております。ここは彼の主調を最大限お聞きしてあげるべきかと」
こう発言したのはこの国の第一王女リーフ王女。俺の元学友だった女性だ。
「リーフ……」
「…………(ニッコリ)」
無言でニコニコと俺を見ている。あー、これは後で借りは返しなさいよって事か。
「ふむ。そうか……本当に何も報酬は入らぬのか? レイン・アッシュクラフトよ」
「はい、ジル陛下。私はこのまま学生へと戻りたいと思います。勇者としての力と装備もテレンシア王国へと返還致します」
これ以上はテレンシア王国の政略に使われたくないので、全て断る事にする。
「お、おお! なんと謙虚な救世主か。ワシはお主をますます気に入ったぞ。また何かこの国に災いが起こった時は是非力を貸してくれ! レイン・アッシュクラフトよ」
「………はい、畏まりました。陛下」
しまった。完全には関係を絶つことは出来なかったか。
まぁ、良い。これで勇者の役目も終わり。
アレイス魔法学園に復学して魔法の探求へと精進出来るだろう。
◇
《王都 城下町マイン》
「ハハハ。まさか王の娘さんと婚約させられそうになるとはな。最後に面白いものを見せてもらったぜ。レイン」
「俺は面白くなんて何一つなかったんだが。トール」
「まあまあ、そんなに怒るなって。これで俺とはしばらくお別れなんだからよう……じゃあな。相棒。この一年間の旅は本当に楽しかったぜ! 俺の故郷スラッシュ国に来た時は会いに来いよな」
トールはそう告げると笑顔で俺に右手を差し出して来た。
「あぁ、また会おう。トール、お互い立派な大人に成長してな」
「おう! 皆もじゃあな。また会おうぜ!」
俺達の勇者パーティーで前衛を務めてくれていた剣士トールが離脱した。
□□□
「行っちゃったわね。馬鹿トール……じゃあ私もリンク魔工具の館に戻るわね。トールと違って同じ王都に住んでるから直ぐには会えるし。例の実験でたまに呼び出すから。よろしくね。レイン」
魔女の帽子に魔女のドレスに身を包んでいるのは付与師のミリアさんだ。ちなみにこの人は魔道具師である。
「ミリアさん。お忙しい中俺達の旅に同行してくれてありがとうございました。貴女には本当に感謝しています」
「うん。私もそれなりに楽しかったわ……じゃあ。シエルをよろしくね。バイバイ。シエル、しっかりやるのよ」
「はい。ミリアさん。何かあれば相談しに行きます」
「うん。がんがん行こうぜで攻略してやりなさい」
「……シエルをよろしく? どういう事だ」
トールに続いて。付与師ミリヤもパーティーから離脱した。
□□
「ホホホ。じゃあのう。レインよ。ワシは明日からアレイス学園の授業があるのでな。来週のお主の復学楽しみに待っておるぞ」
右手に杖。左手に魔竜討伐の報償金を持っているのは、俺の魔法の師匠。大魔帝と隣国から恐れられる。大魔法使いトルギス先生だ。
「はい。トルギス師匠。この1年間ご一緒に旅をして頂きありがとうございます」
「ウムウム。ワシもお主の成長を直接見れて楽しかったわい。ではのう。レインにシエルよ。また後程、学園でのう」
「……はい。トルギス校長先生。また後程です。式では祝詞をお願いいたしますわ」
「ありがとうございました。師匠……ん? 後程、学園で? どういう事だ」
魔法使いトルギスもパーティーから離脱した。
□
ゴーン!ゴーン!
日が暮れ始めた夕暮れ時、王都の大鐘楼が夜の訪れを知らせる為、鳴り響いている。
俺は最後に残った旅の仲間である聖女シエルと共に城下町を歩っていた。
「皆、バラバラになってしまったな。シエル」
「……はい。レイン様。私も寂しいですわ」
「シエル。君はエリシア聖教の大聖堂に戻るだったな? それじゃあ帰り道は途中まで一緒か」
「……いえ。レイン様。じつはですね……ゴニョゴニョ」
「ん? どうした? シエル。体調でも悪いのか?」
「ハワワワ……そうではありません。あのですね」
なんて喋っている間に俺の実家であるアッシュクラフト家へと辿り着いた。
「君も長旅で疲れているんだな。安心してくれ。魔竜も倒して世界は平和になったんだ。これからはお互い安らかな日々を送ろう。じゃあ、また落ち着いたら会おう」
俺はそう言うと実家の玄関の扉を開けた。
「……えっと。レイン様。じつは私とレイン様は同棲……」
シエルが何かを良いかけているが上手く聞き取れなかった。
ガチャッ!
「ただいま。母さん! 今、帰ったよ!」
「まぁ、お帰りなさい……」
実家の扉を開けるとそこには俺の母さんが居て、俺を見るなり急接近して来た。そうか母さんも1年間振りに再会する息子が帰って来て嬉しいんだな。
「今、帰ったよ! 母さん。俺、なんとか無事に……」
「お帰りなさい! シエルちゃん。無事で良かったわ! 元気にしていたかしら?」
「……はい。アリシアお師匠様。なんとかお役目を終えてここまで辿り着けました」
「うぅ~! 本当に無事で良かったわ! 私の義娘はぁ~!」
なんて言うと聖女シエルを抱きしめたのだった。
これはいったいどういう事なんだ?
「……何故、シエルが家に?」
「……はい。レイン様。ふつつか者ではありますが、今後は末長く同棲者としてよろしくお願いいたします」
聖女シエルはそう告げると深々と俺にお辞儀をした。
「まぁ~、そんなに畏まらなくても良いのよ。シエルちゃん。これから私達は家族になるんですもの」
「……はい。アリシアお義母様。なんちょって……」
「まぁ、可愛い。流石、私の愛弟子ちゃんね」
はぁ? 同棲? お義母様? 家族になる?
これはいったいこのカオスな状況はどうなっているんだ。
俺の新たな実家での生活は予期せぬ事態で始まった。
◇
第1話を最後まで読んで頂きありがとうございます。
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