第2話 聖女シエルが家に住む
「はぁ? 母さんが元聖女だって?」
「ええ、そうなのよ。それでシエルちゃんは私の可愛いお弟子ちゃんなの」
「はい。アリシアお師匠様にはずっとお世話になっております」
「まぁ、お師匠様だなんて。お義母様って呼んでっていつも言っているでしょう。シエルちゃん」
「畏まりました。アリシアお義母様……」
「うむうむ。これからは本当の家族になるんだし遠慮しちゃ駄目よ」
俺の母さん。アリシア・アッシュクラフトと元パーティーメンバーの聖女シエルが熱い包容を交わしている。
本当にどういう状況なんだ? 母さんが元聖女でシエルの師匠?!
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな話。俺は初耳だぞ!」
「当たり前じゃない。今、さっき話したばっかりなんだから」
「はい。今、話しました」
……この2人。なんでこんなに息がピッタリなんだ? 息子の俺が帰って来た時よりもシエルに会った時の方が嬉しいそうだったし。
「なーに? もしかしてシエルちゃんと私が仲良くしてるのが気に喰わないのかしら? 我が息子君は……よしよし。無事に帰って来てくれてお母さんは嬉しいんだぞ……本当に無事で良かったわ」
母さんはそう言うと俺へと近付き抱き付いてきた。そして、優しく頭を撫でて来る。
「ワプッ! 母さん。待ってくれ。シエルがみてるだろう!」
「フフフ。何、恥ずかしいがってるのかしら? 可愛いわね。レイン君は」
「よしよしですわ……レイン様」
そして、何故かシエルも一緒になって俺に抱き付いて来た。
「………何をしている? シエル」
「はい。レイン様の頭を撫で撫でしておりましたわ」
「何故だ?」
「それはレイン様と私が家族になったからですわ」
女神の様な微笑みで何を言っているんだろうか? この聖女は?
銀青色の腰まで伸びる綺麗な髪。平均的な女性よりも背は高く、伝説の聖女エリシアの様な美しい顔立ちなのがテレンシア王国が誇る歴代最高と名高い聖女シエル・バレンタインだ。
本来ならば魔竜討伐も無事終わり、その功績をもって新たな聖人として大聖堂に帰ると聞いていたのだが。
「なんで俺達が家族になるんだ? 君は今後、聖人としてエリシア聖教を率いていくんじゃなかったのか?」
「アリシアお義母様が提案してくれたのです。私が二十歳の成人の儀が終わるまで、代わりにテレンシア王国の聖女として復帰してくれると……手紙で」
「……そんな話。俺は一切聞いてないが」
「今、言ったじゃない」「今、お伝えしましたわ」
この2人。たしかに師と弟子の関係なんだろう。報告、連絡、相談のどれも全く出来ていないのが同じじゃないか。そして、少し天然な所も。
「それでこれからは父さんと含めた四人でこの家に暮らすと?」
「んー? 違うわよ。この家に住むのはレイン君とシエルちゃんだけよ~」
「………母さん。今なんて言った?」
「だからここに住むのは貴方達だけ。私は聖女として復帰するから大聖堂でしばらく寝泊まりするし。パパは邪魔だから私の権力《力》で辺境の冒険者ギルドに飛ばしたから戻って来ないわ」
「父さんになんて事してんだ!」
超ニコニコ笑顔で何、恐ろしいこと言ってんだこの人は。
そういえば魔竜討伐の旅の時に届く父さんからの手紙の最後に『息子よ。お前だけでも生き延びてくれ』って毎回書いてあったのはこれが理由だったのか。
「まぁ、あのカチカチの防御力を持つパパなら何があっても大丈夫よ! それよりも来週から我が愛弟子シエルちゃんもレイン君が休学していたアレイス魔法学園に通うことになったからちゃんと面倒見てあげてね」
「はい。私もレイン様と同じ学園に通えて嬉しいですわ」
「……母さん。今なんて言った?」
「ちゃんと私の可愛い愛弟子のシエルちゃんを宜しくお願いって言ったのよ。あー、もしもしシエルちゃんに何かあればエリシア聖教の精鋭をレイン君に差し向けるから気をつけてね~♪ さてとお料理仕上げなくちゃね。手伝ってくれるかな? 我が最愛の娘ちゃん」
「はい。アリシアお義母様」
母さんとシエルは仲睦まじくキッチンで料理を行い始めた。
「シエルが家に住んで同じ学園に通う? あのテレンシア王国の国民的人気聖女シエル・バレンタインと一つ屋根の下で……嘘だろう?」
どうやら解散したパーティーメンバーとは違い。シエルとはもう暫くの間。刺激的な学園での冒険が待っている様だ。
……勇者から解放されたこれからの俺の人生いったいどうなってしまうんだろうか。




