軽い出会い
「しかし同じ星で戦争が始まろうというのに……」
一人カクテルを口にしながら吉田俊平はつぶやいていた。遼州星、遼大陸東に浮かぶ東和共和国。その首都東都の山手の行きつけのバーでいつものようにゆっくりと酒を楽しんでいた。
「おっ、どこかで見た顔だな」
突然低い声が吉田にかけられた。めんどくさそうに目をやるとそこにはベレー帽を着た同じブランドのタンクトップにジーンズという一軍を率いる男の姿があった。
「私はあった気がしないが」
吉田は脳内の端末ですでに声をかけてきた人物の身元を検索していた。
「なあに、同類の臭いがするってだけだ……」
そう言うと先頭を歩くタレ目の男は周りの部下らしい男達に目をやる。部下達はまとまって店の奥へと向かった。
「同類ってなんですかね」
「ああ、人の生き死にに関わる仕事をしているってツラだ」
「俺は医者じゃありませんよ」
「治す方じゃねえよ……マティーニ。思い切りドライで」
タレ目の男はバーテンに注文するとそのまま吉田のとなりに腰掛けた。
「しかし……傭兵が東都にいるってことは始まるんですか、遼南の内戦は」
吉田が発した言葉に一瞬たじろいたように見えたが、バーテンからグラスを受け取るときにはすでに元の落ち着きを取り戻していた。
「そう言うあんたも似たような仕事だろ?」
「なんでわかりました?」
「それを聞いてどうする」
「ああ、今後の参考にしようと思いましてね」
皮肉のつもりで言った言葉にタレ目の傭兵はニンマリと笑みを浮かべた。
「帰るつもりで戦争に行くか……プロだね」
「死んでもつまらんでしょ。それともあなたは死に場所でも探しているんですかね」
吉田は相当アルコール度の高いカクテルを一息で飲み干したタレ目の男に目をやった。男はそのままグラスをカウンターに置いて一息つく。
「やっぱりマティーニはドライでないとな。じゃあもう一杯」
垂れ目の傭兵はにやけながら再び深呼吸をした。
「命を粗末にするのは感心しませんね。西園寺家に戻ればそれなりの暮らしはできるでしょうに」
「ほう、俺の身元を知っているか……サイボーグか?」
再びマティーニを受け取ると西園寺と呼ばれた傭兵はまた一息で酒を飲み干す。そして同じようにグラスをカウンターに置いた。
「気分を変えよう。モヒート」
バーテンに声をかけると西園寺はそのまま吉田に目をやる。
「西園寺孝基。甲武国摂州公爵家の長子。甲武国陸軍士官学校卒業後出奔して各地で傭兵として活動……」
「良くご存知で」
「同業者ですからね……」
吉田は訳あり気に笑う。西園寺もニンマリと笑みを浮かべた。
「そう聞くとどっちの陣営に付くつもりか聞きたくなりますな」
そんな西園寺の言葉に吉田は驚きの表情を浮かべた。
「南朝じゃないんですか?」
「あんたはわかっちゃいないな」
吉田の言葉に西園寺は再び訳有りげな笑みを浮かべる。
「正義はどちらにあるか……東宮遼献殿下にある」
「しかし負けますよ」
「ええ負けますとも」
突然の言葉に吉田は呆然としていた。
「たぶん俺が行っても結果は代わりはしない。姦雄ガルシア・ゴンザレス将軍は勝利して実権を握る……ですがね」
「ですが……どうしたんですか?」
吉田は理解に苦しみながら目の前の傭兵西園寺孝基を眺めていた。
「世に正義を示す必要はある。負けるとわかっていても戦わなければならないこともある」
「理解できませんね」
「ほう、そう言うあなたは南朝に付くつもりですか」
「金の払いがいいですからね。稼いでなんぼの傭兵ですよ」
吉田の言葉に西園寺は少しばかり眉をひそめた。
「それなら俺は最初から軍に入っちゃいませんよ。まして傭兵になんかならない」
「そうですか……価値観の違いですかね」
「あんたが俺を認めないように俺もあんたを認めない……良い悪いは別としてもそれだけは事実だ」
そう言うと放置されていたカクテルに手を伸ばす西園寺。
「ただこうして酒を飲むのは気分の悪いことじゃないな」
「確かに」
明日には敵味方に分かれる二人。決して交わらない二人はゆっくりと酒を煽った。




