表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

11 幕間、三澄翼対策会議

「言っただろ、このままじゃ失敗するって。理由もわかっていないのに数だけこなしたって無駄だ」

「じゃあ理由を教えてくれればいいじゃんか」

「お前が自分で気付かなきゃ意味がない。まあクッキーでも食べて落ち着け」


 そう言って、メビウスはもう私の愚痴などすっかり慣れ切った様子であしらうと、ここに来てようやくクッキーを出してくれた。渦巻の模様が入ったそれに、私は苛立ちもすっかり忘れて胸をときめかせてしまう。我ながらたいへんチョロいと思う。


「……で、本当に何も心当たりはないのか」


 メビウスはポットから二つのカップへとストレートティーを注ぎながら問う。

 私はクッキーを一つ摘まんで、口の中に放り込んだ。もごもごと咀嚼しながら考えるふりをする。しばらくして、もうさっきから何度も思い浮かべた名前を口にするため、空っぽになった口を開いた。


「三澄翼」

「だろうな」


 ストレートティーをこちらへ差し出しつつ、やや呆れた様子で言われた。

 でも、それに関してはこちらにだって反論があるのだ。私はストレートティーへと口を付けるよりも前に、メビウスの目を見据えて言った。


「それに関しては、ちょっとイレギュラーがあっただけで興味の対象がヒロインから私に移る三澄翼本人にも問題があるでしょ。仮にも乙女ゲームの攻略対象なのに、なんでヒロインとそうじゃない女キャラをうまく区別できないワケ?」


 私が早口に捲し立てると、メビウスは小さく溜息を吐いた。お気に召す回答ではなかったのだろうか、だったら私は一体何を言えばよかったのだろう。

 未だにソーサーへと向けられている彼の視線が、わずかに揺らぐ。


「理由付けされていない恋心は、弱い。あるいは存在しないも同然だ。当たり前の話だろ」

「……どういうこと?」


 メビウスは私の目をしっかりと見つめ返し、いつもと変わらないトーンで語り始めた。


「お前が行っているアニメ版の世界では、攻略対象は全員最初から早乙女桜に好意を抱くようになっている。でも本来、このゲームの攻略対象は、ゲームを進めていく過程で早乙女桜に恋をするんだ。スケジュールの決定時に攻略対象と同じ行動を選び、条件を満たしていれば再生される個別イベントなんかがそうだな。あれを発生させない限りは、早乙女桜と攻略対象たちの好感度は、本当なら上がらない」


 二回目の時、頬を染めて祥とともに戻ってきた桜のことを思い出す。原作ゲームであれば、ああいうイベントを攻略対象の四人全員との間で発生させることが出来る、ということだろう。

 思えば桜の行動と話の流れからして、原作ゲームはプレイヤーがスケジュールを設定し、その通りに時間が動いていく仕組みのゲームなのだ。今回の場合は祥だが、例えば龍司と仲良くなりたいのなら、探索のペアを龍司と一緒に組めるタイミングで探索の予定を、龍司が待機中に畑仕事を担当しているのなら同じく畑仕事の予定を入れることで、好感度が上昇し、イベントが発生するのだろう。

 そうした過程を飛ばさざるを得ないアニメという媒体では、桜が祥以外の攻略対象と親交を深めるタイミングがなかなか存在しないのだ。乙女ゲームはスケジュールを組むタイプのほか選択肢制のものも多くあるとはいえ、そっちだって似たようなものだ。アニメ内において、基本的には祥との仲が深まる選択肢を選び続ける必要があるのだから。


「……ただな」


 不意にメビウスの声がして、私は思考を止めた。


「お前も分かっているだろうが、このアニメの基本は祥ルートだと思っていい。ただし、他の攻略対象にもちゃんとファンがいる。そこで、理由付けされていない恋心が生まれるんだ。三澄翼も、鬼門龍司も、菱川伊月も、とりあえず全員早乙女桜のことを好きになる。でもそこに過程がないから、どうしても揺らぎやすいんだ。興味の対象が、ちょっとしたことで他に移ってしまう。……それに、危険なのはお前だけじゃない。桐島燈子や五十嵐千鶴だって、既定の物語を狂わす要素になり得るんだからな」

「……」


 目を伏せる。……確かに、メビウスの言う通りだ。

 ここ何回かのチャレンジで分かったこととして、まず一つ目にキャラクターたちの揺らぎやすさがある。いや、もはや彼らはキャラクターではなく、人間と言っていい。

 スポットが当たるのは早乙女桜だ。そして私は、基本的にスポットが当たらないところにいる。しかし、スポットが当たらない場所でも時間は動いていて、彼らは話していて、新たな関係性が生まれたりする。私と翼という人間の間で起こったことが、まさにそれだろう。


(じゃあ三澄翼は本当に、私の勘違いでもなんでもなく、ちょっとしたことで私や他の女キャラに興味を示すってことか。……まあ女好きの設定だし、もっとしっかり気を付けておくべきだったな)


 あんまり見ないようにはしているものの、どうしたって視線が行く時がある。そこを見つかって、毎回絡めとられてしまうのだ。いい加減何度も同じことを繰り返していて、自分でも馬鹿馬鹿しくなってくる。

 髪をぐしゃぐしゃに掻きむしって、クッキーをもう一枚摘まんだ。そんな私の様子をちらりと見て、メビウスが無表情のまま言う。


「そんなに必死に悩んで迷って、意外と可愛いやつだな」

「は? 馬鹿にしてる?」


 少し腹が立って、つい強い口調で言い返してしまう。にしたって、人がこんなに真剣に悩んでいるのに急に妙なことを言いだして、一体メビウスは何のつもりだろう。

 しかしメビウスは、まるでその返答でさえ想定内であったかのように、やはり顔色一つ変えなかった。そこでようやく、私は何かを試されていたのではないかという予感がして、妙な居心地の悪さを覚える。


「まあいい、今俺が話したことはよく覚えておけ。……それから」


 メビウスがもう一度、じっと私の目を見つめた。先程から何度か繰り返されているこの行為の意味が未だよく分からないが、目を逸らす理由もないので、また数秒ほど黙って見つめ合う。

 そして。


「周りだけじゃない。自分のことも、ちょっとは分析しろ」


 ――その言葉が、どうしてか、確かな響きをもって頭の中で反響する。

 半ば恒例となりつつある反省会の最後で告げられたメビウスのこの言葉を、しっかりと胸に刻みつけ、私は立ち上がった。何故そんな風に思ったのかは自分でも分からない。そんな疑問なんかよりずっと、早く次へ行きたいという気持ちが勝っている。

 逸る気持ちを抑えきれないまま、私は七回目の世界へと歩みを進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ