10 幕間、前に進めない理由
『きょとんって感じで言ってるのが痛いわ』
『トリップ夢女? よそでやれ』
『主人公の台詞食うのはマジで最悪』
『言い訳の苦しさにイライラする 電波かよ』
『ヒロインの要素盗んで作られたオリキャラwwww』
***
「先に言えよ!!」
「知らん。聞かれてないからな」
ダンッ! とガーデンテーブルを叩き抗議してみても、メビウスはどこ吹く風といった様子でティーカップを傾けていた。私は打ち付けた拳のじんわりとした痛みに唇を噛みつつ、メビウスをじとりと睨みつける。
……夕凪島という島の名前を知っているのは、本来、ヒロインである桜のみだったらしい。つまりあの場面で千鶴の発言を訂正するのは私ではなく、本来であれば桜だったのだそうだ。そこから、では千世ヶ島とはなんなのか? 島を出るためにすべきことはなんなのか? という話し合いに入っていくのだという。
確かに、そんな貴重な台詞を奪ってしまったのなら叩かれたって仕方がない。仕方がないと思ってしまうからこそ、悔しいのだ。たった一言の発言ですべてがパーになってしまったことが。
「あーあ、結構順調にいってたのにな……」
ぼやきながら、失敗することが分かりきっていたかのように用意されていたミルクティーへと口を付ける。そういえば、二人が帰ってこなかったせいで夕飯は食べられなかったな、ということを不意に思い出して、また何とも言えない気持ちになった。
そうして感傷に浸っていると、不意に目の前に座るメビウスの手元からカチャリ、と音が聞こえた。どうやらカップを置いたようで、そのまま硝子玉のような両の目でじっとこちらを見つめる。
「順調ではなかったぞ」
「……え?」
「お前の行動を見ていたが、正直、いつゲームオーバーになってもおかしくなかった」
メビウスはそう言うと、再び視線を手元のティーカップに落とした。しかし、ハンドルに指は伸ばさない。
行動を逐一追われているというのも中々聞き捨てならなかったが、それ以上に気になったのは、いつゲームオーバーになってもおかしくなかったという発言だ。確かに、翼との交流ではヒヤヒヤすることがあったものの、それは一時的なイベントでの話だ。手に触れられたから、言葉で口説かれそうになったから、ただそれだけのことなのに。
「じゃあ何がいけなかったの」
ほんの少し、問い質すような口調になってしまった。しかしメビウスは淡々と、質問の答えにはならない言葉ばかり紡いでいく。
「少なくとも俺は、こうして間が取れてよかったと思ってる」
「なにそれ。ゲームオーバーになってよかったってこと?」
「このままじゃ、間違いなくお前は次も失敗する。自覚がないなら尚の事だ」
口を閉じる。
会話が成立していないのに、こんなにも焦燥感を覚えているのはなぜだろう。なんだこいつ会話する気ねーのかって聞き流せばいいだけなのに、それができない。メビウスの言っていることは多分正しい。私自身が、次も失敗するかもしれないと、心のどこかでそう思っている。
でもメビウスの言う通り、自覚が無い私にはその理由が分からない。そして彼も、おそらく私に答えを告げる気はないのだろう。
「……」
駄目だ。こうしていたって、埒が明かない。
だったら一回でも多く試すだけだ。まだ二回目、次で三回目。……何が駄目なのか、徹底的に分析しなければならない。
飲みかけのミルクティーを置いて、立ち上がる。
扉は既に出来上がっていて、私は何も言わず、再びあの部屋の中へと飛び込んだ。
***
その後の結果について発表させてほしい。
勿体ぶっても仕様がないのではっきり言うと、四戦四敗であった。
「なぁんでだよぉ……」
六回目の挑戦を終え戻ってきたところで、とうとう弱音が出てしまった。
何が腹立たしいって、二回目の挑戦で途切れてしまったところから、まだちっとも進めていないのだ。それどころか、毎回その手前で足止めを食らってしまっている。……それも、ある特定の人物によって。
(三澄、翼……)
その名前を心の中で反芻してみる。腹立たしいようなそうでもないような気持ちになって、ぶんぶんと頭を振った。
……画角のせいなのかは知らないが、翼と話しているところへ桜が現れたり、そうでなくとも全員集合している際に不本意ながらアイコンタクトじみたものを取ってしまったりして、それが逐一抜かれてしまっているらしく、この四度の失敗は全て翼に関わるものだった。
二回目の時に最初の話し合いで目を合わせてしまった結果、妙な繋がりが出来てしまったことはしっかりと覚えている。だから再発防止に努め、あの話し合いの後に呼び出されるという事態は起こっていない。それでも何故か毎回妙なタイミングで目が合って、つい逸らして、そしてイベントが発生してしまうのだ。どうしてこんな泥仕合のような展開になってしまっているのか、自分でももう分からない。




