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カヤキ38 新工夫のナナイロが必ず大評判になる仕組みを教えてもらった件

 ダンプトラックから高島坑口産石炭を降ろしていたら

「おおい! 片山君。」

と桟橋から呼ぶ声がした。

 作業を終えて集荷場からダンプをどかし、桟橋へと走る。


 甲型高速艇で小林艇長殿が手を振っていた。

 しかも何やら桟橋の上にはリヤカーが停められていて、高速艇の中から荷物がどんどん積み込まれつつある。


 僕は艇長殿とクルーの皆さんに

「お手をわずらわせてしまって、申し訳ありません。御協力ありがとうございます。」

と頭を下げる。「それにしても、量、多くないですか?」


 「なぁに」と艇長殿は”おやすい御用”とばかりに手を振って

「余ったら母艦で使うか御蔵島へ戻る船に乗せちゃえば良いからね。無駄にはならない。むしろコック長は喜ぶだろうさ。」とニヤッと笑う。

「なんてったって、御銭おあしは片山クン持ちだからね。キミ以外、誰も懐が痛まないだろ?」


 なんだか、めっちゃショック……。

 まあ、支払いは僕の積み立て分から、って言い出したのは僕なんだけど。


 「でも逆に言えば」と艇長殿は少し真面目な顔になる。

もうけが出たら、出資者の総取りさ。いや、板長のお珠さんとやらと片山君の山分け、悪くないハナシだと思うがね。」

 そして「乾物屋や薬種屋を回って来たんだが、長崎では片山塾塾長は”ちょっとした”有名人になっているんだよ。天下の真理に通じる教えを受けたと称する自称・門人もんじんが大威張りなんでね。だから片山くん監修の七味や柚子胡椒を売れば、けっこう客が付くだろう。元が取れるどころか儲けが出るのは間違いないと思うな。」と教えてくれた。

「なにしろ『片山先生御用達の札を揚げても良いか』と、昆布を仕入れた乾物屋からお願いされたくらいなんでね。」





 小林艇長殿が「荷物は寺まで届けておくよ。」と請け合ってくれたので、お言葉に甘えて石炭積み出し作業に戻る。

 坑口と港の集積所を何往復かしたところで、ホイールローダーに乗っていたらオキモト少尉殿と古狸の武富さんが連れ立って歩いてくるのに出くわした。今日は二人きりでなく、江里口さんも一緒だ。


 江里口さんは「朗報だよ!」と大声を出すと

鯛生たいおで金が出た。予言通りにね。日田の代官所では上を下への大騒ぎさ。懐疑的だったお歴々も証拠の砂金・粒金を突き付けられては、さすがに全面的に”乗る”のに舵を切ったようだ。」

と嬉しそう。


 それは良かったです、と僕もホイールローダーのエンジンを落とす。

「存在するのは分かってても、見つけることが出来ない場合だって有り得ますからね。」


 「それはどうかな?」と武富さん。

「他の物ならいざ知らず、金ともなれば皆が血眼ちまなこになる。『ある』と自信を持って宣言すれば、死に物狂いで探すであろ。疑うて見せるのは元より”ポーズ”以外の何物でもない。出るべくして出たというまでよ。」

 そしてニイッと特徴的なチェシャ猫笑いの表情を見せて

「片山くんの特製七味のほうが、より少ない元手で高い還元を得ることになるのかも知れぬのにな。」

と続けた。

「オキモト殿、この『少なきついえで、大きな利を生む』こと、何と言うたかな?」


 オキモト少尉殿はいつもの飄々とした調子で

「たぶん、言わんとしておられる言い回しは『コストパフォーマンスが良い』でしょう。」

と返す。

「片山くん、僕にも一口噛ませておいてくれたらヨカッタのに。」


 僕は「タマタマですよ。話がこんな風に膨らんじゃったのは。」と応じておいて

「でも武富さまや江里口さまが、わざわざ現場にやって来られたのは、ナナイロのコストパフォーマンスが良い、っていうのとは別のトコに在るんでしょう。」

と真意を問う。「寺で――皆が居る所では――出来ないハナシをするため、ですよね?」


 察しが良い、というのが武富さんからの返答だった。

「薬味が評判となって売れるとなると、作る量も増えてゆくであろう。さすれば、女ひとりでは間尺ましゃくに合うまい。薬研やげんを擦る職人を雇うという流れとなるな。」


 ――ああ、ナルホド。


 「合点がいった、という顔だな。」

 武富さんは更に目を細くして

「珠は『もう自分ひとりでは手に負えませぬ。人を雇いましょう』と言い出すであろう。そして必ず『宿に務めていた時の板場に心当たりの者が居ります』ともな。」

と囁くような低い声を出した。


 加えて江里口さんが

「実は寺男の立ち回り先は、すっと藩の探索方がけておりましてね。だいたいカルトの全貌が掴めてきたところなのですよ。」

と補足する。

「漏れがないのを確認しておきたいのと、濃い”メンバー”を確定しておきたい。それが今の狙いです。」


 「だからね」と少尉殿が優しい声を出す。「新工夫の薬味はさ、必ず売れる運びになっているのさ。まあ片山くんと珠さんとの”良いものを創ろう”という熱意や工夫を疑うわけではないけれど、店先に並ぶそばからバンバン”誰かが”買っていくのが決まっているんだ。」

 そして謝るような口ぶりで

「貯金がゼロになっちゃったとか、心配する必要は無いんだよ。」

と付け加えた。


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